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第三章 同居開始で溺愛されてます

四十五話

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「あ、あれ」


 ぽた、ぽたとシーツに雫が吸い込まれていく。


「どっか痛い?擦ろうか?」


 麗音は心配そうにこちらを覗き込む。

 ああ、やばい、どうしよう、麗音に心配されるなんて、俺は、麗音の憧れでないといけないのに……


「……っう、うわああぁ……」


 一度涙が溢れると後は止まらなかった。

 麗音の前で、俺は情けなくも嗚咽した。

 背中に麗音の手が回され、温もりを感じる。


「しゅん兄ちゃん、大丈夫だよ」


 マスクを取った麗音が耳元で囁く。


「麗音……俺情けない兄ちゃんでごめんな……」

「そんなことないよ、しゅん兄ちゃんは偉いよ、俺の誇りだよ」

「俺、俺……さっき、怖い夢見たんだ」

「うん」

「俺の……好き、だった人が遠くへ行っちゃう夢と、嫌いな奴からいじめられる夢……」

「……そうだったんだ。大丈夫だよ、しゅん兄ちゃんにいじわるする奴は、俺がやっつけるから」

(麗音をいじめる奴は許さねえからな)


 ……本当に、あの頃とあべこべだ。

 昔は団地で一番小さかった麗音を守っていたのに、今は俺が麗音に守られようとしている。

 何故だろう、情けないはずなのに、とても心強い。


「……麗音、ありがとな、もう大丈夫そうだ」

「本当に?無理してない?」

「ああ、体調もちゃんと戻ったし、熱も無いし、出社準備するぞ」


 うん!と元気よく返した麗音が少しだけ動きを止めた。


「しゅん兄ちゃん、ちょっとそのまま待って」

「ん?なんだ?」


 俺の額に、麗音の唇が触れた。

「……え?」


 意味が分からなかった。

 麗音の唇が俺の額に。


「えへへ、元気になるおまじない。母さんがよくしてくれたんだ」


 いやいや待て待て!

 おまじないだとしても、額にき、キス!?

 幼馴染同士で、キス!?

 目の前がぐらぐらと揺れ、俺は床にぶっ倒れた。

ドシーン!!


「しゅん兄ちゃん!?」


 麗音の声が遠くに聞こえる。

 その後、原因不明の高熱を出した俺は、午後も休む羽目になった。

 麗音も一緒に休み、片時も離れてくれなかった……

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