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第二章 俺の幼馴染は御曹司でポンコツで

二十六話

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「黒須、ちょっと後で話がある」


 部長は言い淀みながらそう黒須に伝えた。


「は、はい……」


 黒須はすごすごと自分のデスクへと戻っていった。

 俺は胸を撫で下ろす。

 終業のチャイムが鳴った。


「先輩、帰りましょう!」


 麗音は生き生きとした表情でこちらを見た。



「しゅん兄ちゃん、今日は」

「今日はまっすぐ帰るぞ」

「ええっ!」


 ガーン、と音がしそうな麗音の表情を、俺はぐっと堪えて続ける。


「俺は昨日スーツを変えてないんだ。洗濯物とか、掃除とかもしないといけないし、今日は帰らせてくれ」

「うー……うん、分かった」


 しょぼんとしつつも麗音は了承した。

 胸の奥が少しだけ痛んだ。


「あっそうだライン!ライン交換しよ!」

「ライン?ああそうだな、なんかあった時のために交換しとくか」


 ポケットからスマホを取り出し、ラインを交換する。

 麗音のアイコンは、シマリスの写真だった。


「ただいまー」


 誰もいないけれど、一応防犯の意味も込めて言う。

 しん、とした玄関と、その先に少し見えるリビング。

 よくある独身男性のワンルームだ。


「はー……色々、疲れることばっかだよ」


 俺は冷蔵庫に常備している発泡酒を取り出し、賞味期限の近づいた豆腐とキムチをつまみにちゃぶ台に向かう。

 かしゅ、とプルタブを開けると気泡が弾ける音が続いて聞こえる。

 一口飲んでから、俺は何気なくキャビネットの上を眺めた。

 そこには、二年前に撮った雄介のバンド十周年の集合写真があった。

 バンドメンバーやライブハウススタッフに混じり、雄介の隣に居る俺。

 雄介と恋人だと打ち明けた時は皆驚いていたが、温かく受け入れてくれた。

 なのに、なのに……


「俺が女だったら、別れなかったのかな」


 ぽた、と太腿に涙が零れた。

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