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第二章 俺の幼馴染は御曹司でポンコツで

十九話

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 麗音の体温が。

 呼吸音が。

 心臓の鼓動が。


「しゅん兄ちゃん、ずっと、会いたかった……」


 ぎゅう、と腕の力が強まる。

 はあ、と吐息が聞こえる。


「麗音、れおん、苦しい……」

「えっ、あっごめん!」


 麗音が慌てて離れる。

 俺の心臓は未だにばくばくと大音量を流していた。


「ごめん、大丈夫?どっか痛いところない?」

「え……ああいや大丈夫だ」


 麗音が顔を覗き込むが俺は見ることができなかった。


「ごめんね、俺、ずっとしゅん兄ちゃんに会いたくて、今日再会できてすっごく嬉しかったんだ」


 麗音がぽつりと話す。


「本当はずっと抱きしめたかった。全身で、しゅん兄ちゃんを感じたかった」

「……お、おう」


 落ち着け俺。

 麗音と俺はただの幼馴染で、そういう感情はないはずだ。

 雄介に振られたからって、期待するんじゃない。


「気持ちはわかるんだがな、大人の男同士でこういうのって」

「……嫌だった?」

「いや!そうじゃなくてだな、えーと、何て言えばいいんだ……」


 悲しげな麗音の横で俺はしどろもどろする。


「……ああそうだ、子供の頃の気持ちを忘れてなかったんだな、偉いな、麗音」

「本当!?嬉しかった?」

「ああ、恥ずかしかったけど、麗音の気持ちはわかったよ」

「やった!」


 そう叫ぶと麗音は再び抱きつこうとしたので、やんわりと遠ざけた。


「あ、もうこんな時間、お風呂入らないとね」


 麗音はバスルームへと向かった。

 俺はゆっくりと先程の出来事を思い出す。

(ずっと、会いたかった)

 麗音がこんなにも俺のことを想っていてくれてたなんて。

 胸の奥がこそばゆくなる。


「俺も、ずっと会いたかったんだなあ」


 シャワーの音を聞きながら、そうひとりごちた。

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