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三章

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「どうやら、転移は成功したようだね」

「なんだ、自称神様か。つーか、今更何用ですか」

 この夢を見てるって事は、なるほどバルハさんに世界の有様を聞いて酒を酌み交わして寝てたのか。(※この世界で成人は十五歳)

 だが、あれだな。皆、麦酒を美味そうに飲むよな。一口飲んだが、ありゃあー人の飲み物じゃねぇよ。それこそ、悪魔的な不味さだよ。
 なのに、バルハさんは麦酒に似た飲み物をガブガブと、流し込むように呑んでいた。
 六十を超えてるとは思えない早さでビックリした事を覚えてる。

「なんだとは、失礼な。と言うか、自称は余計だ自称は」

「で、何ですかね? 明晰夢めいせきむは、疲れるんですよ、行動してると」

 嫌味ったらしく棘を含んだ言い方をした。
 だって、寝不足は美肌に悪いし。

「すまんすまん、一つ訪ねたい。堕天使とは、会ったのか?」

 そうか、神隠カミクリ神界に居るから全く把握を出来ていないのか。

「会いましたよ、と言ってももはや悪魔に等しい化物でしたがね」

「やはりそうか……。それで、君はこれからどーするんだい?」

「僕は──」

 それから、今日アルトリアやバルハさんに話した内容を含め、ギルドを追放された事云々を長々と話した。

「なるほどで……。でも、シシリちゃんが物凄い力を持っているのも、また君に堕天使が言っていた事には理由がある」

「理由?」

「そう、単純であり明白な確固たる理由。一つづつ話していこうか。
 まずは一つ・携帯、シシリちゃんを構成している魄は神に近い。形があり、だが形はない」

「あいつは、情報思念体と言っていました」

「情報思念体……か。ふむ、なるほどそれは君が得た情報から一番有効なものをあけたのだろうな」

 神は、一人納得をしたのか相槌をうつ。
 だが、まあもし神的な用語を長々と話されても理解は不能だしそれで良かったのだろう。
 情報思念体でさえ、イマイチぴんとは来ない。一つわかる事は日に日にシシリが成長しているという事だろうか。それが、情報思念体の本分ならば納得せざるを得ない。

「もう一つ、彼等が君達を狙った理由。紛れもなくそれは、彼女が狙い……いや、彼女の中に眠る可能性が狙いなのだろう。だが、幸いな事に力の所有者は君だと勘違いしているようだが」

 神は、付け加えるように言った。

「それで、だ。君の不完全な英雄願望はどーするんだい?」

 馬鹿にした言い方では無く、もっと違う何か。
 計り知れないプレッシャーを感じた。
 不完全と言われて、嫌悪を抱くと思ったのだが出てくる言葉もありゃーしない。どーやら、心の何処かで神の発言を認めてしまったようだ。シシリと違い強くなく、バルハさんのように忠義もなく、アルトリアのように優しさがあるわけじゃない。
 俺には一体、何があるというんだろうか。

「なら、強くなれ。強くなるしかないんだ君は」

 神は、心を見透かしたのか的確に不安要素を射抜く。当然、俺に返す言葉は無かった。返せる資格もなかった。

「だけど、強くなるっていってどーやって」

「訪ねてばかりでは、価値が生まれない。自分で見つけて歓喜するからこそ何にも変える事が出来ない価値が生まれるんだ」

「強い信念と野心を抱け。人が人であるように、理が理であるように。人には進化が許されているんだ。皆を導く英雄になる為に──故に、もっと現実的に考え有耶無耶にせず、努力しなくちゃならない。
 君が逃げようとも、彼等は君達を見つけ出す。欲にまみれ、私利を満たす道具てある君達──を」

 重たい言葉だ。勢いに任せて言った部分もあり神の発言は痛い所を突いてくる。有耶無耶にせず、具体的に何をすべきか。考えた時、生まれたのは沈黙だった。
 思い浮かばなかったし、思い浮かぶはずもないんだ。前の世界で、英雄《それ》に似た偉業を成したわけじゃない。誰かを命懸けで守った事も、ましてや王都や帝都なんてあるはずが無い平和ボケした世界だ。
 抱いた夢が現実に起こる方が少ないし、故に勝手に諦めて努力をやめていた。そんな俺が、リアリティ溢れる対策を練られるはずもない。

「分かった、強くなる。今まで、努力って努力をしてこなかったがやってやるよ」

「ありがとう、では君の迎えが来たみたいだ。また、いつか夢にお邪魔させてもらうよ」

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