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Ⅱ−ⅳ.あなたと過ごす故郷
2−50.決めた
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まるで氷河のような薄青の宝石は、ジル様の瞳に似ている。
部屋に帰ってからもじっくりと眺めた後、僕は「――そうしよう」と呟いた。
「どうするって?」
何事か考えながら黙っていたジル様が、僕の呟きを拾って、ちらりと視線を向けてくる。
小兄様と別れた後、すぐさまマイルスさんに指示を出して、忙しそうに動いていたから、きっと王家への連絡は済んでいるんだろうな。
その上で、ボワージア家と王家の関係について、考えてくれていたんだと思う。
でも、もうこの領はジル様からたくさんの援助を受けて、成長できているから。ジル様が落ち込む必要はないと思うんだ。
だから、僕はことさらに明るく振る舞って、ジル様の心の翳りを拭い去りたいと思った。
「この宝石に合わせて、結婚式の衣装を仕立てようと思うのです。ジル様の瞳にも合っていて、素敵な仕上がりになると思いませんか?」
「フランが俺の色を纏うのか」
意外そうに呟いたジル様が、僕の横髪をすくって指先に絡める。
少し表情が和らいだように見えた。
「――フランは明るい色合いが似合いそうだが」
「ピンクは嫌ですよ?」
「さすがにそれはしない」
ピンクっぽい髪色に、衣装までピンク色を全面に押し出したら、さすがにナンセンスだ。
僕がそう訴えると、ジル様はおかしそうに笑った。
「ブルー系、似合わないでしょうか?」
僕は好きな色なんだけど。
もちろんそれは、ジル様のイメージの色だからという理由もあるけど、なによりボワージア領でよく見た色だからという理由が大きい。
「似合わないことはないが。――そうだな……白系に、薄い青を混ぜるか。宝石は指輪の他にイヤリングとネックレスも用意させよう。兄上に言えば、いくつかブルーダイヤモンドの装飾品をもらえるはずだ」
思わず無言でジル様を見上げる。
王家からもらえる装飾品って、それはボワージア領産のブルーダイヤモンドってことじゃない? 気軽にもらえるものかな?
「――フレデリックから話を聞いた後、すぐに調べさせたが。おそらく、ブルーダイヤモンドの取引額は、ここ十年ほどは適正額になっていたはずだ。王家も、ボワージア子爵家への対応を変えようとしていたんだろう」
「そうなんですか?」
「ああ、随分と遅い決断だったのは、本当に申し訳ないが」
そもそももう売れるブルーダイヤモンドはほとんどなくなっていたのだから、王家の意思はボワージア子爵家にほぼ伝わらなかったと考えてもいい。
僕はなんとも言えない気分で苦笑した後、口を開いた。
「僕にボワージア領産のブルーダイヤモンドを使った装飾品を贈ってくださるのは、そのお詫びのようなものだということですか?」
「ああ。まだ、そうなる可能性が高い、という話だが。王弟妃への贈り物として、高すぎるものではないから、問題はないだろう」
ボワージア領の命運を分けかねないほど高価なブルーダイヤモンドも、王家にとってみれば、その程度のものなのかと思わなくもない。
でも、厚意はきちんと受け取るべきだろう。そこから新たな関係が始まるのであれば、大きな価値を持つものだ。
「……いただけるのでしたら、嬉しいです。素敵な結婚式にしたいですね」
半年以上先の結婚式を脳裏に思い描く。
様々な思惑は絡みつくけど、一生の思い出になる結婚式にしたいと、強く願った。
部屋に帰ってからもじっくりと眺めた後、僕は「――そうしよう」と呟いた。
「どうするって?」
何事か考えながら黙っていたジル様が、僕の呟きを拾って、ちらりと視線を向けてくる。
小兄様と別れた後、すぐさまマイルスさんに指示を出して、忙しそうに動いていたから、きっと王家への連絡は済んでいるんだろうな。
その上で、ボワージア家と王家の関係について、考えてくれていたんだと思う。
でも、もうこの領はジル様からたくさんの援助を受けて、成長できているから。ジル様が落ち込む必要はないと思うんだ。
だから、僕はことさらに明るく振る舞って、ジル様の心の翳りを拭い去りたいと思った。
「この宝石に合わせて、結婚式の衣装を仕立てようと思うのです。ジル様の瞳にも合っていて、素敵な仕上がりになると思いませんか?」
「フランが俺の色を纏うのか」
意外そうに呟いたジル様が、僕の横髪をすくって指先に絡める。
少し表情が和らいだように見えた。
「――フランは明るい色合いが似合いそうだが」
「ピンクは嫌ですよ?」
「さすがにそれはしない」
ピンクっぽい髪色に、衣装までピンク色を全面に押し出したら、さすがにナンセンスだ。
僕がそう訴えると、ジル様はおかしそうに笑った。
「ブルー系、似合わないでしょうか?」
僕は好きな色なんだけど。
もちろんそれは、ジル様のイメージの色だからという理由もあるけど、なによりボワージア領でよく見た色だからという理由が大きい。
「似合わないことはないが。――そうだな……白系に、薄い青を混ぜるか。宝石は指輪の他にイヤリングとネックレスも用意させよう。兄上に言えば、いくつかブルーダイヤモンドの装飾品をもらえるはずだ」
思わず無言でジル様を見上げる。
王家からもらえる装飾品って、それはボワージア領産のブルーダイヤモンドってことじゃない? 気軽にもらえるものかな?
「――フレデリックから話を聞いた後、すぐに調べさせたが。おそらく、ブルーダイヤモンドの取引額は、ここ十年ほどは適正額になっていたはずだ。王家も、ボワージア子爵家への対応を変えようとしていたんだろう」
「そうなんですか?」
「ああ、随分と遅い決断だったのは、本当に申し訳ないが」
そもそももう売れるブルーダイヤモンドはほとんどなくなっていたのだから、王家の意思はボワージア子爵家にほぼ伝わらなかったと考えてもいい。
僕はなんとも言えない気分で苦笑した後、口を開いた。
「僕にボワージア領産のブルーダイヤモンドを使った装飾品を贈ってくださるのは、そのお詫びのようなものだということですか?」
「ああ。まだ、そうなる可能性が高い、という話だが。王弟妃への贈り物として、高すぎるものではないから、問題はないだろう」
ボワージア領の命運を分けかねないほど高価なブルーダイヤモンドも、王家にとってみれば、その程度のものなのかと思わなくもない。
でも、厚意はきちんと受け取るべきだろう。そこから新たな関係が始まるのであれば、大きな価値を持つものだ。
「……いただけるのでしたら、嬉しいです。素敵な結婚式にしたいですね」
半年以上先の結婚式を脳裏に思い描く。
様々な思惑は絡みつくけど、一生の思い出になる結婚式にしたいと、強く願った。
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