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Ⅱ−ⅳ.あなたと過ごす故郷

2−43.喜びを噛みしめる

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 晩餐会はいっそうにぎやかな雰囲気で終わった。
 初めは緊張でいっぱいの様子だった父様と大兄様も、最後はまるで本当の家族のようにジル様に接していて、控えていたマイルスさんの目を丸くさせるほどだった。

 王弟に対しての態度としては相応しくないのかもしれない。でも、嬉しそうに対応しているジル様を見ると、これで良かったんだと思える。

「僕の家族、素敵だったでしょう?」

 部屋に戻り、就寝の準備を整えたところで、ソファに座るジル様に寄り添い話しかける。

「ああ。とても温かくて愛情深い家族だな」

 ジル様は穏やかな雰囲気でそう言いながら、僕の肩を優しく抱きしめてくれた。

「少し礼儀作法がなっていませんけど」
「ラシオスはだいぶだろう?」

 クスクスと笑いながら告げると、ジル様も揶揄まじりで指摘してくる。

「でも、お気に召していただけたんですよね?」
「俺の周りにはいなかったタイプで面白い」
「ふふ、それは良かったです」

 微笑み、視線が合ったところで唇が重なる。
 こうして触れ合うのが久しぶりな気がしてしまうのは、家族と過ごす時間がいつもより長く感じられたからかもしれない。

 これから何度家族と今日のように話をできるか分からない。だから、一瞬一瞬を大事にしようと噛みしめて過ごしていた。

 男親としてジル様に複雑な思いがあるらしい父様が、次第に『あぁ、この方ならば大丈夫だ』と安心した表情になっていくことが嬉しかった。

 高貴な方に緊張していた大兄様が、最初はあまりジル様に好意を持っていなかったことに気づいている。どうしても、僕がさらわれるようにしてセレネー領に連れて行かれたことを納得できていないらしい。

 でも、終わりの頃には、大兄様は昔からの友人だったかのように、ジル様を受け入れていた。それだけ信頼できる人なのだと理解してもらえたのだ。
 一度懐に入れた者に、大兄様は随分と甘くなる。ジル様と近い歳なだけあって、僕が予想もしていなかったほど仲良くなったようだ。

 最初から最後まで丁寧な態度を崩さなかった小兄様は、その表情の裏でジル様をずっと観察していた。僕を大切に慈しんでくれる人なのかと、見極めようとしていたのだ。

「フレデリックに認めてもらえたようで、安心した」
「お気づきでしたか」
「表情と内心が異なる者はよく見てきたからな」

 口づけの合間に囁かれた言葉にハッとして、ジル様を見つめる。
 ジル様は変わらず穏やかで、それでいて熱のある愛情を滲ませた眼差しをしていた。

「小兄様は、一番僕の世話をしてくれた人なんです」

 父様と大兄様にも愛されて育ったけど、一番は小兄様だ。父様はいつも忙しくて、それを支える大兄様は少し歳が離れているのもあって、小兄様ほど一緒に過ごしていたわけではない。

「そうか。それなら、余計に心配を掛けてしまっていたんだろうな」

 僕の頬にかかる横髪を指先で耳に掛け、ちゅ、とキスを落としながらジル様が囁く。

「そうですね。僕の意志を尊重して、おおらかに見守ってくれるんですけど、たぶんとても心配性なんです」

 ふふ、と微笑みながら、僕もジル様の頬にキスをする。

「目を離せばいなくなってしまうような子だったらしいしな」

 ジル様がからかうように言う。
 晩餐会では僕の子どもの頃の話がたくさん出てきたのだ。活発に動き回る僕に、小兄様は大変な思いをしていたのだと、大げさな仕草で語られた。

 そう語る小兄様が愛しそうに僕を見つめるから、思い出話が恥ずかしくても止める気にならなかったのは、ジル様にバレているだろう。

 小兄様が僕に甘いのと同じくらい、僕も小兄様に甘いのだ。

「……心配性の小兄様を安心させられるくらい、ジル様が素晴らしい方で助かりました」

 最後の頃には心からジル様を受け入れて、別れ際に「フランをよろしくお願いいたします」と頭を下げた小兄様の姿を思い出す。

 大兄様が「まるで母親だな」と呟いていた。
 僕はまさにそうだなと納得してしまったけど、小兄様に睨まれてる大兄様を見て、賢く口を噤んだ。
 小兄様は怒らせると怖い。

「俺は言われるほど良い人間ではないと思うが……フランの番として、これからも素晴らしいと言ってもらえる存在でありたい」
「ふふ、わざわざ望まなくても、ジル様はそのままで大丈夫ですよ」

 ジル様に寄り添い目を伏せる。
 やはり、ジル様の番になれた僕は世界一幸せな存在だと、改めて思った。

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