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Ⅱ-ⅲ.あなたに満たされる

2−30.番の熱で満たされる

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 それからは、まるで夢のような時間だった。
 ジル様の甘い香りに満たされて、熱に溺れる。自分の立場も、やるべきことも、すべて忘れて、ひたすらに愛しい番のことだけを考えて過ごす。

「ぁあっ、ジルさま、っ」
「っ、フラン……!」

 意味のある言葉をしゃべる余裕なんて存在しない。互いを感じ、求め合う至福の交合。

 際限なく湧き上がる熱は、唯一の番を傍に引き留めようと、甘い香りを溢れさせる。ジル様の香りと混じり合い、それが巣の中に満ちることが、この上なく幸せなことだと感じる。

 普段よりも激しく、理性すら捨て去った様子で、ガツガツと攻め立ててくるジル様の瞳を見つめ、微笑んだ。

 苦しいけど、それ以上に嬉しい。
 ジル様に愛されている実感がある。本能的に求め合う行為が、心を満たしてくれるのだ。

 項を噛まれ、身体の奥に熱いものを感じた瞬間に、視界が白む。まるで天国に昇るような気分だ。

「あ……ぅ……」
「はっ……ふ……フラン、愛してる」

 耳に注ぎ込まれる熱い囁きに微笑みが浮かぶ。
 全力疾走した後のように、呼吸は苦しいし、身体は重いけど、ジル様の体温に包まれているだけで、そんなことはどうでもよくなってしまう。

 ころん、と身体をひっくり返されて、ジル様と正面から抱き合った。

 ジル様の薄青の瞳に滾る熱は冷めることなく、それでも僅かに理性的な光を宿している。それがなんとなく残念だった。もっと、熱情のままに求め合いたい。

「ジルさま……すき……」

 おぼつかない口調で囁く。それだけで嬉しそうに微笑み返してくれる番が、愛しくてたまらなかった。

 のぼせたように、思考が働かない。熱を吐き出し、注がれたことで、一度はおさまりつつあった衝動が、再び強さを増して、僕を心を揺さぶる。

 もっと欲しい。たくさん愛して。僕のすべてをジル様で染めて欲しい。

 吸い込んだ空気に、濃密な甘い香りが満ちていた。ズクッと身体の奥が疼く。

「フラン、少し休憩しようか」

 唇に、鼻先に、頬に、額に。羽根のように触れる唇は、いつもより熱く感じる。
 求めているのは僕だけではないはずなのに、どうしてそんなに優しく気遣ってくれるのだろう。……でも、今は、優しさより、もっと熱いものが欲しい。

「ジルさま……ね――」

 寝台のサイドチェストから水差しを取ろうと手を伸ばしたジル様に、ぎゅっと抱きついた。
 体勢を崩したジル様が、それでも僕に体重を掛けまいと、敷布に手をつき身体を支える。

「フラン?」
「ここ……熱いの」

 先程までジル様のものが埋まっていた下腹部を撫でながら、薄青の瞳をじっと見つめた。熱で潤む視界でも、なぜかはっきりとジル様が強く眉を寄せたのが見える。

 それが不快を示したものではないことを、僕はよくわかっていた。理性が削がれ、まるで飢えた獣のような目が、僕をギラギラと見つめていたから。

「――でも、ジルさまがいなくて、さびしい……」

 無言を保つジル様の片手を取り、下腹部に押し当てる。
 早くここを埋めて欲しい。たくさん突いて、満たして――

「ぐぅ……フラン、っ」

 僕が思いのすべてを言葉にする前に、ジル様が動いた。
 力強く腰を抱かれたかと思うと、先程までと同じくらい熱く硬いものが、番を求めて蠢いていた場所を、勢いよく貫く。

「ぁああっ!」
「くそっ……俺の番は、悪い子だな……」

 身体をのけぞらせ、嬌声を上げる。
 そんな僕を、ジル様は熱に浮かされたような眼差しで見据え、唇を歪めた。

 激しく揺さぶられ、声を抑える余裕もなく、ただひたすらに感じ入る。

 僕は悪い子なのかな。でも、それでジル様にたくさん愛してもらえるなら、もっと悪い子になりたい。

「ふあっ! ん、ぁ、もっと、ちょ、だい、っ」
「っ……ああ、たくさん、やろう」

 これまで以上に熱で滾ったような眼差し。
 それが嬉しくて、心が満たされて、幸せの絶頂を味わった。

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