85 / 113
Ⅱ-ⅱ.あなたを想う
2−24.愛するがゆえ
しおりを挟む
助けを求めて目を向けた先で捉えたのは、お義兄様ではなく小さなお友だちだった。
お義兄様とお義姉様も近寄ろうとしてくれてはいたんだけど、それに先んじてエシィ殿下が駆けて来たんだ。
「お祖母様、あちらで一緒にケーキを食べましょう?」
「……エシィ、先に行っていてちょうだい」
一呼吸置いて、王太后陛下が穏やかな笑顔でエシィ殿下に話しかける。
その姿を見るに、血の繋がった家族へは確かに愛があるのだと感じた。それをジル様に分け与えるつもりはないだけで。
――いや、家族への愛ゆえに、ジル様は嫌われているのかな。自分の孫である王太子殿下の立場を確かなものにするために。
今の状況で誰も、王太子殿下を廃して僕らの将来の子どもを擁立しようなんて考えてないと思うんだけどなぁ。
そんな考えを持っている人は、まずジル様が寄せ付けないと思うし。
それを王太后陛下には言えないし、言ったところで信じてもらえそうにないのが悔しい。
「わたくしはお祖母様と過ごしたいの。今日のパーティーの主役はわたくしでしょう? お祖母様と一緒に過ごす時間をプレゼントしてくださいませ」
じっと王太后陛下を見上げるエシィ殿下の眼差しには、親愛が満ちている。
僕たちを庇ってくれる意図はあっても、王太后陛下と過ごしたいという望みも嘘ではないのだ。
王太后陛下の雰囲気が少し緩んだのを感じる。孫からの愛情が王太后陛下にやすらぎを齎しているのだとわかった。
やっぱりエシィ殿下ってすごい。王太子殿下はお義兄様たちと同様に王太后陛下と距離を取っているようだから、こんなことができるのはエシィ殿下だけなんだろうな。
「……そうね。つまらないことに関わるより、あなたと過ごす方が大切だものね」
「ふふ、そうでしょう」
微笑んだ王太后陛下に得意げな笑みを見せたエシィ殿下が、ふと僕たちの方へ視線を向けた。
「――叔父様とフラン様は、明日には王城を発つのでしょう?」
「そうですが」
一体なにを言い出すのか。きょとんと目を瞬かせる僕の横で、ジル様も不審げに言葉を返した。
エシィ殿下がパッと華やいだ笑みを浮かべる。
「会えなくなるのは寂しいけれど、また会える日を楽しみにするわ。できたら、イトコができたら嬉しいの。精いっぱい可愛がるから、必ず会わせてね」
息を呑んだのは果たして誰だったか。この場の全員だったかもしれない。
エシィ殿下のすぐ後ろまで来ていたお義兄様とお義姉様が、ぎょっとした表情になった後、額を押さえて顔を顰めている。
誰もがなにも言えない空気の中で、僕はエシィ殿下とじっと目を合わせた。
「……エシィ殿下はとてもお優しい方ですから、きっと仲良くしてくださるんでしょうね」
「当然よ。わたくしが可愛がって、守ってあげるわ。もちろん、わたくしたちを脅かさなければ、だけれど」
悪戯っ子のように微笑むエシィ殿下に、僕も思わず笑ってしまう。
「エシィ殿下たちを脅かすなんてとんでもないことです。僕たちに子ができたとしましたら、必ずやエシィ殿下や王太子殿下を敬い、お支えすることになるでしょう」
それが、王弟の子として当然の立場だ。ジル様も否定せず黙って聞いている。
王太后陛下に関わらないよう距離を取っていても、その問題さえなければ、ジル様は自分の子が王族として次期王を支えることに否やはないんだ。
「とても良いことを聞いたわ。楽しみね、お祖母様」
微笑みかけたエシィ殿下に、王太后陛下は何事か言いかけて口を噤んだ。そして、ジル様に視線を向けた後、複雑そうな表情をしながらも僅かに頷く。
すぐに目を逸らしてしまったけど、それは確かに僕たちが子どもを作ることを認めるという意思表示だった。
こんなに簡単に僕たちの意思が通じるのか、と呆然としてしまった。
でもこれは、王太后陛下が信頼しているエシィ殿下を通して僕たちの思いを主張できたからだろう。
お義兄様とお義姉様が驚いた表情でエシィ殿下を見下ろす。自分たちの娘がここまで王太后陛下の心を動かせるとは知らなかったんだろうな。
でも、僕はちょっと納得しちゃった。
王太后陛下だって、唯一曇りなく慕ってくれる孫を愛さずにはいられないだろう。その孫の望みが自分の意に反していたとしても、許容してしまうくらいには。
番から愛されなかった王太后陛下を、エシィ殿下は確かに愛している。そのことを誰よりも実感しているのは王太后陛下のはずだ。
お義兄様とお義姉様も近寄ろうとしてくれてはいたんだけど、それに先んじてエシィ殿下が駆けて来たんだ。
「お祖母様、あちらで一緒にケーキを食べましょう?」
「……エシィ、先に行っていてちょうだい」
一呼吸置いて、王太后陛下が穏やかな笑顔でエシィ殿下に話しかける。
その姿を見るに、血の繋がった家族へは確かに愛があるのだと感じた。それをジル様に分け与えるつもりはないだけで。
――いや、家族への愛ゆえに、ジル様は嫌われているのかな。自分の孫である王太子殿下の立場を確かなものにするために。
今の状況で誰も、王太子殿下を廃して僕らの将来の子どもを擁立しようなんて考えてないと思うんだけどなぁ。
そんな考えを持っている人は、まずジル様が寄せ付けないと思うし。
それを王太后陛下には言えないし、言ったところで信じてもらえそうにないのが悔しい。
「わたくしはお祖母様と過ごしたいの。今日のパーティーの主役はわたくしでしょう? お祖母様と一緒に過ごす時間をプレゼントしてくださいませ」
じっと王太后陛下を見上げるエシィ殿下の眼差しには、親愛が満ちている。
僕たちを庇ってくれる意図はあっても、王太后陛下と過ごしたいという望みも嘘ではないのだ。
王太后陛下の雰囲気が少し緩んだのを感じる。孫からの愛情が王太后陛下にやすらぎを齎しているのだとわかった。
やっぱりエシィ殿下ってすごい。王太子殿下はお義兄様たちと同様に王太后陛下と距離を取っているようだから、こんなことができるのはエシィ殿下だけなんだろうな。
「……そうね。つまらないことに関わるより、あなたと過ごす方が大切だものね」
「ふふ、そうでしょう」
微笑んだ王太后陛下に得意げな笑みを見せたエシィ殿下が、ふと僕たちの方へ視線を向けた。
「――叔父様とフラン様は、明日には王城を発つのでしょう?」
「そうですが」
一体なにを言い出すのか。きょとんと目を瞬かせる僕の横で、ジル様も不審げに言葉を返した。
エシィ殿下がパッと華やいだ笑みを浮かべる。
「会えなくなるのは寂しいけれど、また会える日を楽しみにするわ。できたら、イトコができたら嬉しいの。精いっぱい可愛がるから、必ず会わせてね」
息を呑んだのは果たして誰だったか。この場の全員だったかもしれない。
エシィ殿下のすぐ後ろまで来ていたお義兄様とお義姉様が、ぎょっとした表情になった後、額を押さえて顔を顰めている。
誰もがなにも言えない空気の中で、僕はエシィ殿下とじっと目を合わせた。
「……エシィ殿下はとてもお優しい方ですから、きっと仲良くしてくださるんでしょうね」
「当然よ。わたくしが可愛がって、守ってあげるわ。もちろん、わたくしたちを脅かさなければ、だけれど」
悪戯っ子のように微笑むエシィ殿下に、僕も思わず笑ってしまう。
「エシィ殿下たちを脅かすなんてとんでもないことです。僕たちに子ができたとしましたら、必ずやエシィ殿下や王太子殿下を敬い、お支えすることになるでしょう」
それが、王弟の子として当然の立場だ。ジル様も否定せず黙って聞いている。
王太后陛下に関わらないよう距離を取っていても、その問題さえなければ、ジル様は自分の子が王族として次期王を支えることに否やはないんだ。
「とても良いことを聞いたわ。楽しみね、お祖母様」
微笑みかけたエシィ殿下に、王太后陛下は何事か言いかけて口を噤んだ。そして、ジル様に視線を向けた後、複雑そうな表情をしながらも僅かに頷く。
すぐに目を逸らしてしまったけど、それは確かに僕たちが子どもを作ることを認めるという意思表示だった。
こんなに簡単に僕たちの意思が通じるのか、と呆然としてしまった。
でもこれは、王太后陛下が信頼しているエシィ殿下を通して僕たちの思いを主張できたからだろう。
お義兄様とお義姉様が驚いた表情でエシィ殿下を見下ろす。自分たちの娘がここまで王太后陛下の心を動かせるとは知らなかったんだろうな。
でも、僕はちょっと納得しちゃった。
王太后陛下だって、唯一曇りなく慕ってくれる孫を愛さずにはいられないだろう。その孫の望みが自分の意に反していたとしても、許容してしまうくらいには。
番から愛されなかった王太后陛下を、エシィ殿下は確かに愛している。そのことを誰よりも実感しているのは王太后陛下のはずだ。
980
お気に入りに追加
3,717
あなたにおすすめの小説
本物の聖女が現れてお払い箱になるはずが、婚約者の第二王子が手放してくれません
すもも
BL
神狩真は聖女として異世界に召喚されたものの、
真を召喚した張本人である第一王子に偽物として拒絶されてしまう。
聖女は王族の精力がなければ生命力が尽きてしまうため、王様の一存で第一王子の代わりに第二王子のフェリクスと婚約することになった真。
最初は真に冷たい態度を取っていたフェリクスだが、次第に態度が軟化していき心を通わせていく。
そんな矢先、本物の聖女様が現れ、偽物の聖女であるマコトは追放されるはずが──
年下拗らせ美形×お人好し不憫平凡
一部嫌われの愛され寄りです。
運命だなんて言うのなら
riiko
BL
気が付いたら男に組み敷かれていた。
「番、運命、オメガ」意味のわからない単語を話す男を前に、自分がいったいどこの誰なのか何一つ思い出せなかった。
ここは、男女の他に三つの性が存在する世界。
常識がまったく違う世界観に戸惑うも、愛情を与えてくれる男と一緒に過ごし愛をはぐくむ。この環境を素直に受け入れてきた時、過去におこした過ちを思い出し……。
☆記憶喪失オメガバース☆
主人公はオメガバースの世界を知らない(記憶がない)ので、物語の中で説明も入ります。オメガバース初心者の方でもご安心くださいませ。
運命をみつけたアルファ×記憶をなくしたオメガ
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
回帰したシリルの見る夢は
riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。
しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。
嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。
執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語!
執着アルファ×回帰オメガ
本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます。
物語お楽しみいただけたら幸いです。
***
2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました!
応援してくれた皆様のお陰です。
ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!!
☆☆☆
2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!!
応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。
cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。
家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる