貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです

asagi

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Ⅱ-ⅱ.あなたを想う

2−24.愛するがゆえ

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 助けを求めて目を向けた先で捉えたのは、お義兄様ではなく小さなお友だちだった。
 お義兄様とお義姉様も近寄ろうとしてくれてはいたんだけど、それに先んじてエシィ殿下が駆けて来たんだ。

「お祖母様、あちらで一緒にケーキを食べましょう?」
「……エシィ、先に行っていてちょうだい」

 一呼吸置いて、王太后陛下が穏やかな笑顔でエシィ殿下に話しかける。
 その姿を見るに、血の繋がった家族へは確かに愛があるのだと感じた。それをジル様に分け与えるつもりはないだけで。

 ――いや、家族への愛ゆえに、ジル様は嫌われているのかな。自分の孫である王太子殿下の立場を確かなものにするために。

 今の状況で誰も、王太子殿下を廃して僕らの将来の子どもを擁立しようなんて考えてないと思うんだけどなぁ。
 そんな考えを持っている人は、まずジル様が寄せ付けないと思うし。

 それを王太后陛下には言えないし、言ったところで信じてもらえそうにないのが悔しい。

「わたくしはお祖母様と過ごしたいの。今日のパーティーの主役はわたくしでしょう? お祖母様と一緒に過ごす時間をプレゼントしてくださいませ」

 じっと王太后陛下を見上げるエシィ殿下の眼差しには、親愛が満ちている。
 僕たちを庇ってくれる意図はあっても、王太后陛下と過ごしたいという望みも嘘ではないのだ。

 王太后陛下の雰囲気が少し緩んだのを感じる。孫からの愛情が王太后陛下にやすらぎを齎しているのだとわかった。

 やっぱりエシィ殿下ってすごい。王太子殿下はお義兄様たちと同様に王太后陛下と距離を取っているようだから、こんなことができるのはエシィ殿下だけなんだろうな。

「……そうね。つまらないことに関わるより、あなたと過ごす方が大切だものね」
「ふふ、そうでしょう」

 微笑んだ王太后陛下に得意げな笑みを見せたエシィ殿下が、ふと僕たちの方へ視線を向けた。

「――叔父様とフラン様は、明日には王城を発つのでしょう?」
「そうですが」

 一体なにを言い出すのか。きょとんと目を瞬かせる僕の横で、ジル様も不審げに言葉を返した。
 エシィ殿下がパッと華やいだ笑みを浮かべる。

「会えなくなるのは寂しいけれど、また会える日を楽しみにするわ。できたら、イトコができたら嬉しいの。精いっぱい可愛がるから、必ず会わせてね」

 息を呑んだのは果たして誰だったか。この場の全員だったかもしれない。
 エシィ殿下のすぐ後ろまで来ていたお義兄様とお義姉様が、ぎょっとした表情になった後、額を押さえて顔を顰めている。

 誰もがなにも言えない空気の中で、僕はエシィ殿下とじっと目を合わせた。

「……エシィ殿下はとてもお優しい方ですから、きっと仲良くしてくださるんでしょうね」
「当然よ。わたくしが可愛がって、守ってあげるわ。もちろん、わたくしたちを脅かさなければ、だけれど」

 悪戯っ子のように微笑むエシィ殿下に、僕も思わず笑ってしまう。

「エシィ殿下たちを脅かすなんてとんでもないことです。僕たちに子ができたとしましたら、必ずやエシィ殿下や王太子殿下を敬い、お支えすることになるでしょう」

 それが、王弟の子として当然の立場だ。ジル様も否定せず黙って聞いている。
 王太后陛下に関わらないよう距離を取っていても、その問題さえなければ、ジル様は自分の子が王族として次期王を支えることに否やはないんだ。

「とても良いことを聞いたわ。楽しみね、お祖母様」

 微笑みかけたエシィ殿下に、王太后陛下は何事か言いかけて口を噤んだ。そして、ジル様に視線を向けた後、複雑そうな表情をしながらも僅かに頷く。

 すぐに目を逸らしてしまったけど、それは確かに僕たちが子どもを作ることを認めるという意思表示だった。

 こんなに簡単に僕たちの意思が通じるのか、と呆然としてしまった。
 でもこれは、王太后陛下が信頼しているエシィ殿下を通して僕たちの思いを主張できたからだろう。

 お義兄様とお義姉様が驚いた表情でエシィ殿下を見下ろす。自分たちの娘がここまで王太后陛下の心を動かせるとは知らなかったんだろうな。

 でも、僕はちょっと納得しちゃった。
 王太后陛下だって、唯一曇りなく慕ってくれる孫を愛さずにはいられないだろう。その孫の望みが自分の意に反していたとしても、許容してしまうくらいには。

 番から愛されなかった王太后陛下を、エシィ殿下は確かに愛している。そのことを誰よりも実感しているのは王太后陛下のはずだ。

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