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Ⅱ-ⅱ.あなたを想う
2-20.お互いが助けに
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一瞬黙り込んでしまったフランに近づく者がいた。騎士たちが慌てる気配がする。
「フラン様。そろそろ行きましょう。叔父様がお待ちだわ」
「エシィ殿下。えっと、その……」
くい、と手を引かれて、躊躇いながらも従う。
アイリが目を見張っているのを横目で捉え、口を開く前にエシィ殿下の声が聞こえた。
「そこのあなた」
「はい! 私、エイデール子爵家の――」
「挨拶はいらないわ。わたくし、フラン様と一緒に叔父様に会いに行くところなの。忙しいから、お下がりになって」
挨拶を遮られたアイリが目を丸くした後、頬を赤くしてキッとエシィ殿下を睨む。子どもに恥をかかされた、と怒っているのが伝わってきた。
エシィ殿下に対して不敬なこと甚だしい。
僕がアイリの目からエシィ殿下を隠す前に、騎士たちがすぐさま動いた。「えっ。私はフラン兄様の従兄妹で――」と僕の名前で権力を振りかざそうとする声が遠くなっていく。
「ご迷惑をお掛けしました」
「このくらいのことは日常よ。それより、叔父様が随分とお待ちのはずだわ。急ぎましょう」
本当にどうでも良さそうにしているエシィ殿下は、もうアイリのことを忘れ去ったような表情だ。
やはり王族とはすごい、と思わず感心する。
エシィ殿下に連れられて歩く内、別れ際のアイリのことを思い出して、つい笑ってしまった。
それに気づいたエシィ殿下が「どうしたの?」と首を傾げる。
「いえ。――前回会った時、アイリはジル様にご挨拶しようとしたんですけど」
「まぁ、そんなことが」
「はい。それで、その時も、ジル様に挨拶の言葉を遮られていたことを思い出して、既視感の正体に気づいて笑ってしまいました」
ちょっと性格が悪かったかも、と反省しながら呟いた。
すると「あははっ」と無邪気な笑い声が聞こえてきて驚く。
「わたくし、叔父様と同じことをしたのね。なんだか嬉しいわ」
「……それは喜んでいいことなのでしょうか?」
エシィ殿下にいけないことを教えてしまった気がする。礼儀作法の先生に怒られたらどうしよう。
「いいじゃない。権力とは好きな人を守るためにあるのよ」
「そういうものでしたか?」
僕が学んでいることと違うような。
首を傾げていると、エシィ殿下が口元に笑みを浮かべたまま、内緒話をしたがるように顔を寄せてきた。
あわせて身を屈め、耳を傾ける。
「お父様とお母様からの内緒の教えなのよ。『好きな人も守れないようでは、上に立つ者としての資格がない』って」
「……なるほど」
それは十中八九、前王陛下の悲劇から得た教訓なのだろう。
どう返事をするべきかわからず、とりあえず頷いておいた。それから一拍おいて、ふと『好きな人』という言葉を反芻した。
「――僕は、エシィ殿下と好きな人だと、思ってもいいんですか?」
「当然でしょう? わたくし、フラン様も叔父様も、家族のことみんな大好きよ。……お祖父様とお祖母様だって、ね。お義兄様はお祖母様たちのことお嫌いなようだけど」
ぱちり、と目を瞬く。
改めてエシィ殿下の愛情深さに気づいて、自然と笑みがこぼれた。
お義兄様やお義姉様、王太子殿下はともかく、前王陛下や王太后陛下に大好きだと心から言える人は、エシィ殿下しかいないのかもしれない。
「素敵ですね」
「……フラン様は嫌じゃない? お祖母様のこと、嫌いって言わなくて、駄目だと思わない?」
エシィ殿下の疑問は、普段家族から感じている無言の意思を反映しているのだろう。
「どうして駄目なことがありますか? 王太后陛下はエシィ殿下の大切なお祖母様でしょう。好きと思う気持ちを否定する必要はございませんよ」
「でも、フラン様はお好きじゃないでしょ」
まっすぐ問われて、うーんと悩む。
確かに好意は抱いていない。むしろジル様を傷つけ、僕たちの幸せを邪魔する人だから、好きになれると思えない。
「……そうかもしれませんが。家族を大切に思うエシィ殿下のことは、大好きですから。エシィ殿下の気持ちを僕も大切にしたいのです」
「そう……わたくし、お祖母様のことを好きでもいいのね」
ホッと安心した様子で微笑むエシィ殿下に、僕も心から微笑み返した。
「フラン様。そろそろ行きましょう。叔父様がお待ちだわ」
「エシィ殿下。えっと、その……」
くい、と手を引かれて、躊躇いながらも従う。
アイリが目を見張っているのを横目で捉え、口を開く前にエシィ殿下の声が聞こえた。
「そこのあなた」
「はい! 私、エイデール子爵家の――」
「挨拶はいらないわ。わたくし、フラン様と一緒に叔父様に会いに行くところなの。忙しいから、お下がりになって」
挨拶を遮られたアイリが目を丸くした後、頬を赤くしてキッとエシィ殿下を睨む。子どもに恥をかかされた、と怒っているのが伝わってきた。
エシィ殿下に対して不敬なこと甚だしい。
僕がアイリの目からエシィ殿下を隠す前に、騎士たちがすぐさま動いた。「えっ。私はフラン兄様の従兄妹で――」と僕の名前で権力を振りかざそうとする声が遠くなっていく。
「ご迷惑をお掛けしました」
「このくらいのことは日常よ。それより、叔父様が随分とお待ちのはずだわ。急ぎましょう」
本当にどうでも良さそうにしているエシィ殿下は、もうアイリのことを忘れ去ったような表情だ。
やはり王族とはすごい、と思わず感心する。
エシィ殿下に連れられて歩く内、別れ際のアイリのことを思い出して、つい笑ってしまった。
それに気づいたエシィ殿下が「どうしたの?」と首を傾げる。
「いえ。――前回会った時、アイリはジル様にご挨拶しようとしたんですけど」
「まぁ、そんなことが」
「はい。それで、その時も、ジル様に挨拶の言葉を遮られていたことを思い出して、既視感の正体に気づいて笑ってしまいました」
ちょっと性格が悪かったかも、と反省しながら呟いた。
すると「あははっ」と無邪気な笑い声が聞こえてきて驚く。
「わたくし、叔父様と同じことをしたのね。なんだか嬉しいわ」
「……それは喜んでいいことなのでしょうか?」
エシィ殿下にいけないことを教えてしまった気がする。礼儀作法の先生に怒られたらどうしよう。
「いいじゃない。権力とは好きな人を守るためにあるのよ」
「そういうものでしたか?」
僕が学んでいることと違うような。
首を傾げていると、エシィ殿下が口元に笑みを浮かべたまま、内緒話をしたがるように顔を寄せてきた。
あわせて身を屈め、耳を傾ける。
「お父様とお母様からの内緒の教えなのよ。『好きな人も守れないようでは、上に立つ者としての資格がない』って」
「……なるほど」
それは十中八九、前王陛下の悲劇から得た教訓なのだろう。
どう返事をするべきかわからず、とりあえず頷いておいた。それから一拍おいて、ふと『好きな人』という言葉を反芻した。
「――僕は、エシィ殿下と好きな人だと、思ってもいいんですか?」
「当然でしょう? わたくし、フラン様も叔父様も、家族のことみんな大好きよ。……お祖父様とお祖母様だって、ね。お義兄様はお祖母様たちのことお嫌いなようだけど」
ぱちり、と目を瞬く。
改めてエシィ殿下の愛情深さに気づいて、自然と笑みがこぼれた。
お義兄様やお義姉様、王太子殿下はともかく、前王陛下や王太后陛下に大好きだと心から言える人は、エシィ殿下しかいないのかもしれない。
「素敵ですね」
「……フラン様は嫌じゃない? お祖母様のこと、嫌いって言わなくて、駄目だと思わない?」
エシィ殿下の疑問は、普段家族から感じている無言の意思を反映しているのだろう。
「どうして駄目なことがありますか? 王太后陛下はエシィ殿下の大切なお祖母様でしょう。好きと思う気持ちを否定する必要はございませんよ」
「でも、フラン様はお好きじゃないでしょ」
まっすぐ問われて、うーんと悩む。
確かに好意は抱いていない。むしろジル様を傷つけ、僕たちの幸せを邪魔する人だから、好きになれると思えない。
「……そうかもしれませんが。家族を大切に思うエシィ殿下のことは、大好きですから。エシィ殿下の気持ちを僕も大切にしたいのです」
「そう……わたくし、お祖母様のことを好きでもいいのね」
ホッと安心した様子で微笑むエシィ殿下に、僕も心から微笑み返した。
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