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Ⅱ-ⅱ.あなたを想う
2-18.見習いたい
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エシィ殿下と仲良くなった翌日、早速遊びに誘われた。ジル様はお義兄様と話すことがあるらしく、今は不在だ。
明日に迫った誕生日パーティーの準備はいいのかと心配したけど、エシィ殿下が「もうとっくに終わっているわ」と言ったから問題はないんだろう。たぶん。
「フラン様、お庭には生垣で作られた迷路があるのよ」
「そうなのですか?」
「王城を訪れる子どもたちの暇つぶしになるように、と作ったのですって」
「……規模が大きいですね」
王城を訪れる子どもは貴族だ。とはいえ、その子たちをもてなすために庭の一部に生垣で迷路を作るなんて、僕の想像を超えてる。
「ふふ、わたくしもまだ行ったことがないの。一緒に行きましょう」
エシィ殿下の言葉にちょっと嫌な予感がした。イリスに視線を向けると、耳元で「おそらく表側の庭です」と囁かれる。
表側の庭とは、あまり訪問制限が厳しくないエリアで、エシィ殿下が気軽に赴いていい場所じゃない。
「エシィ殿下、お父上の許可は取られましたか?」
「……内緒よ」
「それはダメですよ。エシィ殿下になにかあれば、僕では責任が取れません」
エシィ殿下付きの騎士たちをチラッと確認する。彼らから縋るような眼差しを感じるのは、きっと気のせいじゃない。エシィ殿下になにかあれば、彼らの首が物理的に飛びかねないんだから。
「では、お母様に聞いてみるわ」
「そうしてくださいませ」
侍女を使いに出し、エシィ殿下が退屈そうに足を揺らす。
ここは王城の庭園で、十分景観が良く楽しめると思うけど、幼い子どもには退屈かもしれない。
「エシィ殿下は普段どのようにお過ごしなのですか?」
「ほとんど勉強よ。みんなわたくしのことを褒め称えるか、叱るか、極端なのよ」
「そうなのですね。エシィ殿下はとても賢い方なので、称賛されるのは当然のことだと思いますが」
「……本当にそう思う?」
「はい。お可愛らしくて賢いと、お会いする度に感心しております」
「ふふ、そうなの? わたくしもフラン様のこと素敵だと思ってるわ」
こんな感じで話しながら待っていると、使いに出した侍女がたくさんの騎士を引き連れて戻ってきた。
なんとなくお義姉様の答えを察した気がする。
「王妃殿下が、護衛を増やすならば行っても良い、と」
「しかたないわね。みんな、ついてらっしゃい」
「はっ」
騎士たちが息の合った礼をとる。
これほどたくさんの騎士を引き連れて歩くことに、僕はだいぶ引いていたけど、エシィ殿下は全然気にせず堂々としていた。
さすが生まれながらの王族だ。この自信を見習いたい。
「行きましょう、フラン様」
「……はい、楽しみですね」
エシィ殿下の小さな手に引かれて庭を歩く。
いつか僕に子どもが生まれたら、こんな日々があるのかな。それはとても幸せだろうなぁ。
その未来が来る前に、王太后陛下のことが解決しているといいけど。
普段は頭の隅に追いやっている悩みを思い出して、そっと目を伏せた。
「フラン様、ご気分でも悪いの?」
「いえ。ですが、今日は日差しが強いですね。エシィ殿下は大丈夫ですか?」
「わたくし、夏の日差しは好きよ。フラン様は寒いところのご出身だから、暑さが苦手かしら?」
「……正直、少し」
どう答えるか迷った末に、エシィ殿下の眼差しに負けて、白状した。
するとすぐさまエシィ殿下が侍女に指示を出す。
「あなた、日傘を持って」
「はい、ただいま」
おそらく日差しに当たるのが好きなエシィ殿下にあわせて畳まれていた日傘が、すぐさま差し掛けられた。
「よろしいのですか?」
「いいのよ。あまり日に当たると肌が黒くなっちゃうんですって。侍女たちによく注意されているの」
僕の申し訳なさにすら気を遣ってくれるエシィ殿下に、自然と顔が綻んだ。
こんなに優しいエシィ殿下と仲良くなれて心から嬉しい。
「多少黒くなったところで、エシィ殿下の魅力が損なわれることはないでしょうね」
「そう言ってくれるのはフラン様だけだわ」
拗ねたような言葉だけど、エシィ殿下の声は明るく弾むようだった。
明日に迫った誕生日パーティーの準備はいいのかと心配したけど、エシィ殿下が「もうとっくに終わっているわ」と言ったから問題はないんだろう。たぶん。
「フラン様、お庭には生垣で作られた迷路があるのよ」
「そうなのですか?」
「王城を訪れる子どもたちの暇つぶしになるように、と作ったのですって」
「……規模が大きいですね」
王城を訪れる子どもは貴族だ。とはいえ、その子たちをもてなすために庭の一部に生垣で迷路を作るなんて、僕の想像を超えてる。
「ふふ、わたくしもまだ行ったことがないの。一緒に行きましょう」
エシィ殿下の言葉にちょっと嫌な予感がした。イリスに視線を向けると、耳元で「おそらく表側の庭です」と囁かれる。
表側の庭とは、あまり訪問制限が厳しくないエリアで、エシィ殿下が気軽に赴いていい場所じゃない。
「エシィ殿下、お父上の許可は取られましたか?」
「……内緒よ」
「それはダメですよ。エシィ殿下になにかあれば、僕では責任が取れません」
エシィ殿下付きの騎士たちをチラッと確認する。彼らから縋るような眼差しを感じるのは、きっと気のせいじゃない。エシィ殿下になにかあれば、彼らの首が物理的に飛びかねないんだから。
「では、お母様に聞いてみるわ」
「そうしてくださいませ」
侍女を使いに出し、エシィ殿下が退屈そうに足を揺らす。
ここは王城の庭園で、十分景観が良く楽しめると思うけど、幼い子どもには退屈かもしれない。
「エシィ殿下は普段どのようにお過ごしなのですか?」
「ほとんど勉強よ。みんなわたくしのことを褒め称えるか、叱るか、極端なのよ」
「そうなのですね。エシィ殿下はとても賢い方なので、称賛されるのは当然のことだと思いますが」
「……本当にそう思う?」
「はい。お可愛らしくて賢いと、お会いする度に感心しております」
「ふふ、そうなの? わたくしもフラン様のこと素敵だと思ってるわ」
こんな感じで話しながら待っていると、使いに出した侍女がたくさんの騎士を引き連れて戻ってきた。
なんとなくお義姉様の答えを察した気がする。
「王妃殿下が、護衛を増やすならば行っても良い、と」
「しかたないわね。みんな、ついてらっしゃい」
「はっ」
騎士たちが息の合った礼をとる。
これほどたくさんの騎士を引き連れて歩くことに、僕はだいぶ引いていたけど、エシィ殿下は全然気にせず堂々としていた。
さすが生まれながらの王族だ。この自信を見習いたい。
「行きましょう、フラン様」
「……はい、楽しみですね」
エシィ殿下の小さな手に引かれて庭を歩く。
いつか僕に子どもが生まれたら、こんな日々があるのかな。それはとても幸せだろうなぁ。
その未来が来る前に、王太后陛下のことが解決しているといいけど。
普段は頭の隅に追いやっている悩みを思い出して、そっと目を伏せた。
「フラン様、ご気分でも悪いの?」
「いえ。ですが、今日は日差しが強いですね。エシィ殿下は大丈夫ですか?」
「わたくし、夏の日差しは好きよ。フラン様は寒いところのご出身だから、暑さが苦手かしら?」
「……正直、少し」
どう答えるか迷った末に、エシィ殿下の眼差しに負けて、白状した。
するとすぐさまエシィ殿下が侍女に指示を出す。
「あなた、日傘を持って」
「はい、ただいま」
おそらく日差しに当たるのが好きなエシィ殿下にあわせて畳まれていた日傘が、すぐさま差し掛けられた。
「よろしいのですか?」
「いいのよ。あまり日に当たると肌が黒くなっちゃうんですって。侍女たちによく注意されているの」
僕の申し訳なさにすら気を遣ってくれるエシィ殿下に、自然と顔が綻んだ。
こんなに優しいエシィ殿下と仲良くなれて心から嬉しい。
「多少黒くなったところで、エシィ殿下の魅力が損なわれることはないでしょうね」
「そう言ってくれるのはフラン様だけだわ」
拗ねたような言葉だけど、エシィ殿下の声は明るく弾むようだった。
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