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Ⅱ-ⅱ.あなたを想う
2-14.小さなライバル
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国王陛下とそのご家族が過ごすプライベートエリアの一室。
華やかに飾られた部屋で、僕は今後親戚となる人たちと顔を合わせることになった。
「よく来たな、ジル。それにフランも。あぁ、そうだ。番成立おめでとう!」
以前同様ににこやかに歓迎してくれたお義兄様に微笑み返す。
僕が儀礼的な挨拶をすると、お義兄様は「うん、うん」と満足そうに頷いた後、傍らに立つ女性を示した。
「フランも以前のパーティーで会っているだろうけど――」
「王妃のエリザベスですわ。フラン様とはぜひお会いしたいと思っていたのよ。こうしてお話できる機会があって嬉しいわ」
お義兄様の紹介を遮るように、王妃殿下がキラキラと輝くような瞳で言い、ずいっと迫ってきた。
手を握られてきょとんとしてから、慌てちゃう。こんな状況でのマナー、学んでないよ。
「王妃殿下」
「あら、ジル様。わたくしのことは、義姉上と呼んでいただきたいわ、と前から言っていますでしょう?」
「……義姉上、フランが戸惑っています。あと、近すぎます。離れてください」
「まあ、嫉妬ね? あなたのそんな姿を見れることになるなんて、以前のわたくしでは考えられなかったわ」
うふふ、と笑う王妃殿下は、ジル様のちょっと怖い眼差しにも臆した様子がなく、溌剌としてパワフルだった。
そして、僕の手を全然離してくれない。嫌ではないんだけど、どうしたらいいのかわからないなぁ。
お義兄様は「ベスは元気だね」とニコニコと笑うばかりで、諌める気はなさそう。
「……僕も王妃殿下とお会いできて光栄です」
「まぁ、うふふ。フラン様は可愛らしい方ね。とても好きよ。どうぞわたくしのことは、お義姉様と呼んでくださると嬉しいわ。陛下のことをお義兄様と呼んでいらっしゃるのでしょう?」
押しが強い。でも、それが不快に感じられないんだからすごい。なんか憧れちゃう。
「では、お義姉様、と呼ばせていただきます。それで、あの、王太子殿下と王女殿下にご挨拶させていただいても?」
お義姉様の横で静かに礼儀正しく状況を見守っている幼い子どもたちに注意を向けさせる。
途端にお義姉様がハッとした様子で、「そうね。ロアンド、ご紹介なさい」と促し、ようやく離れてくれた。
王太子殿下と王女殿下に視線を合わせるように屈み、微笑みかける。王太子殿下の微笑みに、お義兄様の面影を強く感じた。
「お初にお目にかかります。ジルヴァント殿下の番のフラン・ボワージアと申します。お見知りおきいただけましたら幸いです」
夜会には幼さゆえに参加していなかった王太子殿下たちと顔を合わせるのは初めて。
緊張しながら挨拶すると、「うん」とあどけない声で返事があった。
「私はロアンド。王太子の位についているよ。あなたの義甥になるので、これからも仲良くしてほしい」
「わたくしはエスメラルダよ。ジル兄様が望むなら、あなたと仲良くしてあげてもよろしくてよ」
王太子殿下が友好的な挨拶をくれたのは嬉しかった。でも、王女殿下がツンとした感じだったから、場が少しピリッとした気がする。
「エスメラルダ、きちんとご挨拶なさい」
「悪いね、フラン。エシィはまだ幼くて……」
お義姉様が少し眉を顰めて注意する横で、お義兄様が苦笑しながら謝罪する。
それに対して「お気になさらず」と微笑み返しながら、僕は王女殿下の視線を追って、ジル様を見上げた。
明らかに不機嫌そうな顔をしてる。十にもならない子どもに向ける目じゃないよ。
でも、その視線に負けずにうっとりと見つめ返す王女殿下に、ちょっと感心しちゃった。僕もこんな心の強さを持ちたい。
「エスメラルダ王女殿下、ぜひ仲良くしてくださいませ」
「……ふんっ」
プイッと顔を背ける仕草が子どもらしくて可愛い。あまり気に入られていないようだけど、仲良くなれたらいいなぁ。
そのためにも、ジル様にはもうちょっと優しく対応してあげるよう促した方がいいかな?
華やかに飾られた部屋で、僕は今後親戚となる人たちと顔を合わせることになった。
「よく来たな、ジル。それにフランも。あぁ、そうだ。番成立おめでとう!」
以前同様ににこやかに歓迎してくれたお義兄様に微笑み返す。
僕が儀礼的な挨拶をすると、お義兄様は「うん、うん」と満足そうに頷いた後、傍らに立つ女性を示した。
「フランも以前のパーティーで会っているだろうけど――」
「王妃のエリザベスですわ。フラン様とはぜひお会いしたいと思っていたのよ。こうしてお話できる機会があって嬉しいわ」
お義兄様の紹介を遮るように、王妃殿下がキラキラと輝くような瞳で言い、ずいっと迫ってきた。
手を握られてきょとんとしてから、慌てちゃう。こんな状況でのマナー、学んでないよ。
「王妃殿下」
「あら、ジル様。わたくしのことは、義姉上と呼んでいただきたいわ、と前から言っていますでしょう?」
「……義姉上、フランが戸惑っています。あと、近すぎます。離れてください」
「まあ、嫉妬ね? あなたのそんな姿を見れることになるなんて、以前のわたくしでは考えられなかったわ」
うふふ、と笑う王妃殿下は、ジル様のちょっと怖い眼差しにも臆した様子がなく、溌剌としてパワフルだった。
そして、僕の手を全然離してくれない。嫌ではないんだけど、どうしたらいいのかわからないなぁ。
お義兄様は「ベスは元気だね」とニコニコと笑うばかりで、諌める気はなさそう。
「……僕も王妃殿下とお会いできて光栄です」
「まぁ、うふふ。フラン様は可愛らしい方ね。とても好きよ。どうぞわたくしのことは、お義姉様と呼んでくださると嬉しいわ。陛下のことをお義兄様と呼んでいらっしゃるのでしょう?」
押しが強い。でも、それが不快に感じられないんだからすごい。なんか憧れちゃう。
「では、お義姉様、と呼ばせていただきます。それで、あの、王太子殿下と王女殿下にご挨拶させていただいても?」
お義姉様の横で静かに礼儀正しく状況を見守っている幼い子どもたちに注意を向けさせる。
途端にお義姉様がハッとした様子で、「そうね。ロアンド、ご紹介なさい」と促し、ようやく離れてくれた。
王太子殿下と王女殿下に視線を合わせるように屈み、微笑みかける。王太子殿下の微笑みに、お義兄様の面影を強く感じた。
「お初にお目にかかります。ジルヴァント殿下の番のフラン・ボワージアと申します。お見知りおきいただけましたら幸いです」
夜会には幼さゆえに参加していなかった王太子殿下たちと顔を合わせるのは初めて。
緊張しながら挨拶すると、「うん」とあどけない声で返事があった。
「私はロアンド。王太子の位についているよ。あなたの義甥になるので、これからも仲良くしてほしい」
「わたくしはエスメラルダよ。ジル兄様が望むなら、あなたと仲良くしてあげてもよろしくてよ」
王太子殿下が友好的な挨拶をくれたのは嬉しかった。でも、王女殿下がツンとした感じだったから、場が少しピリッとした気がする。
「エスメラルダ、きちんとご挨拶なさい」
「悪いね、フラン。エシィはまだ幼くて……」
お義姉様が少し眉を顰めて注意する横で、お義兄様が苦笑しながら謝罪する。
それに対して「お気になさらず」と微笑み返しながら、僕は王女殿下の視線を追って、ジル様を見上げた。
明らかに不機嫌そうな顔をしてる。十にもならない子どもに向ける目じゃないよ。
でも、その視線に負けずにうっとりと見つめ返す王女殿下に、ちょっと感心しちゃった。僕もこんな心の強さを持ちたい。
「エスメラルダ王女殿下、ぜひ仲良くしてくださいませ」
「……ふんっ」
プイッと顔を背ける仕草が子どもらしくて可愛い。あまり気に入られていないようだけど、仲良くなれたらいいなぁ。
そのためにも、ジル様にはもうちょっと優しく対応してあげるよう促した方がいいかな?
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