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Ⅱ-ⅰ.あなたの隣に
2-7.警告の意味
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騒ぎがあって数日後。
結局、物騒な贈り物をしてきた黒幕は王太后陛下だろうということが結論になったようだ。
使者の女性は口を割らなかったし、物証はなかったけど、状況証拠を集めたらそうとしか考えられなかったらしい。
「王太后陛下からの警告って、ジル様の子を生むな、とかなんですかね?」
結果を教えに来てくれたジル様とお茶を飲みながら首を傾げる。
僕のお願いを受け入れてくれて、気分が良くない結果であってもきちんと教えてくれるジル様は優しい。気分を穏やかにさせる効果があるっていうお茶まで持ってきてくれたし。
「俺のすべてが気に入らないらしいから、その可能性はある」
「……それじゃあ、今後も続くかもしれない?」
「ああ。警戒態勢は強化しているが、フランも気をつけてくれ」
騒ぎがあってから、何度も繰り返された言葉に頷く。
気をつける、と言ってもなにをしたらいいのかよくわかってないけど。僕はこういう出来事に馴染みがないから。
「王太后陛下の嫡子が王として即位されて、世継ぎの王太子殿下もいるんですよね? どうして今になって、再びジル様に手を出そうとなさるんでしょう?」
王太后陛下の考えが理解できない。
うーん、と悩んでみても、子爵家子息という立場から考えるとあまりに遠い世界の出来事で、想像すらできなかった。
ジル様は「あの人のことについては考えたくもないが……」と前置きしてため息をつく。
「王太子は今年十歳になった。アルファだと正式に確認されているが、突出した優秀さが見受けられない」
「えっと……アルファの中での順位の話ですか?」
「ああ。俺が王太后に嫌われている理由の一つが、アルファの中でも至上と言われるくらい強い性質を持っていて、兄上を上回ってしまっていたからだったんだが」
オメガの僕には理解しにくいけど、アルファの世界は結構シビアらしい。生まれた時から決まっているアルファの性質の強さで順位が定まってしまうんだ。
もちろん、社会的立場も加味されて判断されるから、王族がどれほどアルファとして低い順位の性質だろうと、敬われることは変わりないようだけど。
ジル様のように、王族であり、かつアルファとして至上である、とみなされると、本人が望んでいなくても祭り上げようとする人がたくさんいるらしい。
そのせいで、王太后陛下は自分の子どもが王位につけない可能性を考えて、ジル様を排除しようとしていたわけだ。
「――今後、俺とフランの間に子ができたとして、アルファが生まれる可能性は非常に高い」
「そうですね。アルファとオメガからはベータが生まれませんし、オメガは希少ですから」
学んだ知識を思い返し頷く。
ちょっぴり気恥ずかしいのは、ジル様との間にできた子どもを想像してしまったから。きっとジル様に似て格好いいんだろうなぁ。それとも幼少の頃は可愛いのかな?
「そのアルファの順位が高い可能性も十分ある」
「そうなんですか?」
「俺とフランは運命の番だからな。強い結びつきの下で生まれる子は、アルファとして強い性質を持ちやすいと言われている」
当たり前のように説明されたけど、僕は初耳の情報だった。
でも、少し納得してしまうのは、アルファとして至上と言われるジル様が、運命の番の子として生まれたのを知っているからだ。ジル様は実体験として理解してるんだろう。
「……そうなると、王太子殿下より順位が上になる可能性があるんですね?」
ジル様の危惧を把握して、思わず眉を寄せる。
王太后陛下は王太子殿下――自分の血筋が王位につけるか、気にしているということだ。だから、僕に物騒な贈り物で警告してきた。
「可能性の話だが、無視はできないだろうな」
暗い顔をするジル様をじっと見つめる。
今後の展開次第では、ジル様は再び王太后陛下と対立を強めなければならなくなる。セレネー領に身を置き、せっかく関わりを絶っているのに。
「子どもを、作らないことにしますか?」
王族は子を持つのが義務と言えるけど、僕たちの場合は少し違う。
現王陛下にはすでに子どもがいるし、王弟であるジル様の血筋を残さなければいけない、なんて言う人はいないだろう。
王太后陛下との争いによって国を乱してしまう可能性を考えると、むしろ子を作ることが推奨されないかもしれない。
ジル様が子どもはいらない、と言うなら僕は従うつもりだ。残念だし、ジル様との子どもを見たいという気持ちはあるけど、それ以上にジル様が大切だから。
「フラン……」
ジル様が目を丸くした。微笑む僕を見て、なんとも言えない表情になっていくのを、静かに見守る。
しばらく経ってから、ジル様が目を眇めて口を開いた。
「――王太后の思惑に従うのは癪だ。フランは気にしなくていい」
「それでいいんですか?」
「ああ。子どもがほしいなんてフランに出会うまで思ったことはなかったが、フランの子なら可愛がれる気がする」
「でも、王太后陛下のことはどうなさるんですか?」
僕が問いかけると、ジル様は何事か考えるように目を伏せた。
「……色々、やりようはある。現在国政の実権を握っているのは兄上だからな」
色々、という意味は理解できなかったけど、僕は「わかりました」と頷いておく。
ジル様が決めたことに僕は従いたいし、子どもを持つことを我慢しなくていいというのは、正直嬉しかったんだからしかたないよね。
結局、物騒な贈り物をしてきた黒幕は王太后陛下だろうということが結論になったようだ。
使者の女性は口を割らなかったし、物証はなかったけど、状況証拠を集めたらそうとしか考えられなかったらしい。
「王太后陛下からの警告って、ジル様の子を生むな、とかなんですかね?」
結果を教えに来てくれたジル様とお茶を飲みながら首を傾げる。
僕のお願いを受け入れてくれて、気分が良くない結果であってもきちんと教えてくれるジル様は優しい。気分を穏やかにさせる効果があるっていうお茶まで持ってきてくれたし。
「俺のすべてが気に入らないらしいから、その可能性はある」
「……それじゃあ、今後も続くかもしれない?」
「ああ。警戒態勢は強化しているが、フランも気をつけてくれ」
騒ぎがあってから、何度も繰り返された言葉に頷く。
気をつける、と言ってもなにをしたらいいのかよくわかってないけど。僕はこういう出来事に馴染みがないから。
「王太后陛下の嫡子が王として即位されて、世継ぎの王太子殿下もいるんですよね? どうして今になって、再びジル様に手を出そうとなさるんでしょう?」
王太后陛下の考えが理解できない。
うーん、と悩んでみても、子爵家子息という立場から考えるとあまりに遠い世界の出来事で、想像すらできなかった。
ジル様は「あの人のことについては考えたくもないが……」と前置きしてため息をつく。
「王太子は今年十歳になった。アルファだと正式に確認されているが、突出した優秀さが見受けられない」
「えっと……アルファの中での順位の話ですか?」
「ああ。俺が王太后に嫌われている理由の一つが、アルファの中でも至上と言われるくらい強い性質を持っていて、兄上を上回ってしまっていたからだったんだが」
オメガの僕には理解しにくいけど、アルファの世界は結構シビアらしい。生まれた時から決まっているアルファの性質の強さで順位が定まってしまうんだ。
もちろん、社会的立場も加味されて判断されるから、王族がどれほどアルファとして低い順位の性質だろうと、敬われることは変わりないようだけど。
ジル様のように、王族であり、かつアルファとして至上である、とみなされると、本人が望んでいなくても祭り上げようとする人がたくさんいるらしい。
そのせいで、王太后陛下は自分の子どもが王位につけない可能性を考えて、ジル様を排除しようとしていたわけだ。
「――今後、俺とフランの間に子ができたとして、アルファが生まれる可能性は非常に高い」
「そうですね。アルファとオメガからはベータが生まれませんし、オメガは希少ですから」
学んだ知識を思い返し頷く。
ちょっぴり気恥ずかしいのは、ジル様との間にできた子どもを想像してしまったから。きっとジル様に似て格好いいんだろうなぁ。それとも幼少の頃は可愛いのかな?
「そのアルファの順位が高い可能性も十分ある」
「そうなんですか?」
「俺とフランは運命の番だからな。強い結びつきの下で生まれる子は、アルファとして強い性質を持ちやすいと言われている」
当たり前のように説明されたけど、僕は初耳の情報だった。
でも、少し納得してしまうのは、アルファとして至上と言われるジル様が、運命の番の子として生まれたのを知っているからだ。ジル様は実体験として理解してるんだろう。
「……そうなると、王太子殿下より順位が上になる可能性があるんですね?」
ジル様の危惧を把握して、思わず眉を寄せる。
王太后陛下は王太子殿下――自分の血筋が王位につけるか、気にしているということだ。だから、僕に物騒な贈り物で警告してきた。
「可能性の話だが、無視はできないだろうな」
暗い顔をするジル様をじっと見つめる。
今後の展開次第では、ジル様は再び王太后陛下と対立を強めなければならなくなる。セレネー領に身を置き、せっかく関わりを絶っているのに。
「子どもを、作らないことにしますか?」
王族は子を持つのが義務と言えるけど、僕たちの場合は少し違う。
現王陛下にはすでに子どもがいるし、王弟であるジル様の血筋を残さなければいけない、なんて言う人はいないだろう。
王太后陛下との争いによって国を乱してしまう可能性を考えると、むしろ子を作ることが推奨されないかもしれない。
ジル様が子どもはいらない、と言うなら僕は従うつもりだ。残念だし、ジル様との子どもを見たいという気持ちはあるけど、それ以上にジル様が大切だから。
「フラン……」
ジル様が目を丸くした。微笑む僕を見て、なんとも言えない表情になっていくのを、静かに見守る。
しばらく経ってから、ジル様が目を眇めて口を開いた。
「――王太后の思惑に従うのは癪だ。フランは気にしなくていい」
「それでいいんですか?」
「ああ。子どもがほしいなんてフランに出会うまで思ったことはなかったが、フランの子なら可愛がれる気がする」
「でも、王太后陛下のことはどうなさるんですか?」
僕が問いかけると、ジル様は何事か考えるように目を伏せた。
「……色々、やりようはある。現在国政の実権を握っているのは兄上だからな」
色々、という意味は理解できなかったけど、僕は「わかりました」と頷いておく。
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