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Ⅰ‐ⅳ.僕とあなたの高まり
61.幸せな明日へ
しおりを挟む温かな日差しを感じながら、ゆっくりと庭を散策する。
孤児院の運営については最終段階まで話が進み、あとは実行するのみ。職員からは多少の反発もあるだろうと覚悟していたんだけど、思っていた以上に歓迎されているみたいだ。
どうやら、僕が行方不明の孤児の捜索に騎士を動かしたことが、高く評価されているらしい。それを狙ってやったわけではないんだけど、歓迎されるならそれに越したことはないよね。
「フラン様、表の庭にも出ますか?」
「うーん……そうだね」
ジル様と夜を過ごすようになって、行動範囲が広がった。それは、僕が本当の意味でジル様の番になったからだろう。
項に指先で触れる。僅かな凹凸を感じると、胸に幸福感が押し寄せてきた。
運命の番という関係性だからなのか、発情期じゃなかったのに、ジル様が刻んだ跡は残り続けている。
僕も、ジル様も、肉体的な番関係が成立したと感じていた。
それが嬉しくてたまらない。
ジル様は少し余裕ができたみたいで、僕が中庭以外を出歩くことを許してくれるようになった。
独占欲を露わにしてる姿も愛しかったけど、こうして自由が増すのはやっぱりありがたい。
これまではあまり良い目を向けてこなかった人たちの態度が、如実に変わったのも感じられて、息がしやすくなった。
やっぱり、ジル様との関係が確固としたものになるって、影響力がすごいんだなぁ。
「王城から、番認可の書状が届いたそうですよ」
「そうなんだ! 良かった」
イリスの報告に、思わず頬が緩む。
王城に番契約書を送ると、よほどのことがなければ認可されるとわかっていたけど、ちょっと不安だったんだ。認められて嬉しい。
でも、正式に国からも番として認められたということは、これからはよりジル様の番として努めなければならないということでもある。
改めて気合を入れておこう。
「――このあとは……結婚に向けて動く感じなのかな」
「そうでしょうね。ですが、王族の結婚ですので、実際に式を挙げられるまでには一年はかかると思います」
「そっかぁ……遠いような、近いような……?」
実感が湧かないけど、その日が来るのが楽しみだ。
そのためには、僕は王族の一員として務められるよう、正しい振る舞いを覚えないといけない。講師の人はようやく決まったようだし、がんばろう。
「ご結婚の前に、ボワージア領のご視察ですよね。私もご一緒していいのでしょう?」
「もちろん。イリスは僕の侍女だからね」
観光名所のようなものはない、田舎の領だけど、精いっぱいもてなせたらいいな。もちろん、ジル様にボワージアのことを知ってもらうのが一番の目的だけど。
――いや、一番の目的は、家族とジル様を会わせることか。
「父様や兄様たちに会うのが楽しみだなぁ」
「フラン様のご家族なのですから、きっと素敵な方々なのでしょうね」
「……それは、どうだろう?」
僕にとっては大好きな家族だけど、難がないとは言えない。素敵と感じるかは人それぞれだ。
不思議そうな顔をするイリスに微笑んで答えを濁したところで、ジル様が庭に出てくるのが見えた。僕の姿が執務室から見えたのかな。
「――ジル様、執務はよろしいのですか?」
「休憩くらいは好きにとらせてもらいたいものだ」
咎めるつもりもなく放った言葉に、軽口のような答えが返ってくる。
当たり前のように腰を抱き寄せられて、降り注ぐ口づけに応えた。
……庭という、誰に見られていてもおかしくない場所で口づけを交わすのは、少し恥ずかしい。でも、ジル様は会う度に挨拶のようにこうするようになったから、もう慣れてきていた。
「お熱いですねぇ。まだ夏ではないんですが」
「局所的に夏が訪れているように感じられますね」
いつの間にか親しげに話すようになっていたマイルスさんとイリスの言葉を聞き流し、ジル様の瞳をじっとみつめる。
「番契約が認可されたと聞きました」
「ああ。今朝認可書が届いたな。これでようやく、フランの立場が確かになった。俺はもともとフランを番だと思っていたのに、ここまで長かったな……」
番の証が刻まれた項を撫でられる。
その仕草が心地よくて、それでいてゾクッとするような快感に襲われて、思わずジル様の胸に縋るように抱きついた。
「ん……でも、想いをきちんと理解して、ゆっくりと関係を深められて、僕は嬉しかったですよ?」
ジル様が僕の心が定まるのを待ってくれたから、こうして心からジル様を愛することができるようになったんだと思う。
焦れったかっただろうに、ずっと待ってくれていた優しさを思うと、頬が緩んだ。僕は幸せ者だ。
「それならばいい。俺も、フランとゆっくり過ごせて楽しかったからな。……これからは、我慢しなくても良いし」
「手加減はしていただきたいですけど」
今朝も起き上がる気力がなくて、午後から動き始めたのだ。全てはジル様との夜の営みが激しすぎるせい。
冗談めかして軽く睨んでしまうのも許されるだろう。
ジル様は口元に笑みを浮かべて「努力はしよう」と告げた。
絶対、これからも変わらないつもりの返事だ。
……まぁ、僕もジル様の愛を感じるのは嬉しいから、拒みきれないんだけどさ。
ジル様の胸に身を預けて、あたたかな体温を感じる。
ここにいられることが幸せでたまらない。ジル様もきっとそう感じてくれているだろう。
「――大好きです、ジル様」
「俺もだ、フラン。愛してる」
愛を囁き合う時間は、胸がくすぐったくなるほどに幸福感が溢れる。
これからもずっと、こんな時間が続くといいな。
*****
以上で、第一部完となります。
ここまでの長いお付き合い、ありがとうございました。
エールなどでの応援もいただきまして、執筆の励みになりました。本当にありがとうございます!
第二部も引き続きお付き合いいただけましたら幸いです(๑•᎑•๑)
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