61 / 113
Ⅰ‐ⅳ.僕とあなたの高まり
61.幸せな明日へ
しおりを挟む温かな日差しを感じながら、ゆっくりと庭を散策する。
孤児院の運営については最終段階まで話が進み、あとは実行するのみ。職員からは多少の反発もあるだろうと覚悟していたんだけど、思っていた以上に歓迎されているみたいだ。
どうやら、僕が行方不明の孤児の捜索に騎士を動かしたことが、高く評価されているらしい。それを狙ってやったわけではないんだけど、歓迎されるならそれに越したことはないよね。
「フラン様、表の庭にも出ますか?」
「うーん……そうだね」
ジル様と夜を過ごすようになって、行動範囲が広がった。それは、僕が本当の意味でジル様の番になったからだろう。
項に指先で触れる。僅かな凹凸を感じると、胸に幸福感が押し寄せてきた。
運命の番という関係性だからなのか、発情期じゃなかったのに、ジル様が刻んだ跡は残り続けている。
僕も、ジル様も、肉体的な番関係が成立したと感じていた。
それが嬉しくてたまらない。
ジル様は少し余裕ができたみたいで、僕が中庭以外を出歩くことを許してくれるようになった。
独占欲を露わにしてる姿も愛しかったけど、こうして自由が増すのはやっぱりありがたい。
これまではあまり良い目を向けてこなかった人たちの態度が、如実に変わったのも感じられて、息がしやすくなった。
やっぱり、ジル様との関係が確固としたものになるって、影響力がすごいんだなぁ。
「王城から、番認可の書状が届いたそうですよ」
「そうなんだ! 良かった」
イリスの報告に、思わず頬が緩む。
王城に番契約書を送ると、よほどのことがなければ認可されるとわかっていたけど、ちょっと不安だったんだ。認められて嬉しい。
でも、正式に国からも番として認められたということは、これからはよりジル様の番として努めなければならないということでもある。
改めて気合を入れておこう。
「――このあとは……結婚に向けて動く感じなのかな」
「そうでしょうね。ですが、王族の結婚ですので、実際に式を挙げられるまでには一年はかかると思います」
「そっかぁ……遠いような、近いような……?」
実感が湧かないけど、その日が来るのが楽しみだ。
そのためには、僕は王族の一員として務められるよう、正しい振る舞いを覚えないといけない。講師の人はようやく決まったようだし、がんばろう。
「ご結婚の前に、ボワージア領のご視察ですよね。私もご一緒していいのでしょう?」
「もちろん。イリスは僕の侍女だからね」
観光名所のようなものはない、田舎の領だけど、精いっぱいもてなせたらいいな。もちろん、ジル様にボワージアのことを知ってもらうのが一番の目的だけど。
――いや、一番の目的は、家族とジル様を会わせることか。
「父様や兄様たちに会うのが楽しみだなぁ」
「フラン様のご家族なのですから、きっと素敵な方々なのでしょうね」
「……それは、どうだろう?」
僕にとっては大好きな家族だけど、難がないとは言えない。素敵と感じるかは人それぞれだ。
不思議そうな顔をするイリスに微笑んで答えを濁したところで、ジル様が庭に出てくるのが見えた。僕の姿が執務室から見えたのかな。
「――ジル様、執務はよろしいのですか?」
「休憩くらいは好きにとらせてもらいたいものだ」
咎めるつもりもなく放った言葉に、軽口のような答えが返ってくる。
当たり前のように腰を抱き寄せられて、降り注ぐ口づけに応えた。
……庭という、誰に見られていてもおかしくない場所で口づけを交わすのは、少し恥ずかしい。でも、ジル様は会う度に挨拶のようにこうするようになったから、もう慣れてきていた。
「お熱いですねぇ。まだ夏ではないんですが」
「局所的に夏が訪れているように感じられますね」
いつの間にか親しげに話すようになっていたマイルスさんとイリスの言葉を聞き流し、ジル様の瞳をじっとみつめる。
「番契約が認可されたと聞きました」
「ああ。今朝認可書が届いたな。これでようやく、フランの立場が確かになった。俺はもともとフランを番だと思っていたのに、ここまで長かったな……」
番の証が刻まれた項を撫でられる。
その仕草が心地よくて、それでいてゾクッとするような快感に襲われて、思わずジル様の胸に縋るように抱きついた。
「ん……でも、想いをきちんと理解して、ゆっくりと関係を深められて、僕は嬉しかったですよ?」
ジル様が僕の心が定まるのを待ってくれたから、こうして心からジル様を愛することができるようになったんだと思う。
焦れったかっただろうに、ずっと待ってくれていた優しさを思うと、頬が緩んだ。僕は幸せ者だ。
「それならばいい。俺も、フランとゆっくり過ごせて楽しかったからな。……これからは、我慢しなくても良いし」
「手加減はしていただきたいですけど」
今朝も起き上がる気力がなくて、午後から動き始めたのだ。全てはジル様との夜の営みが激しすぎるせい。
冗談めかして軽く睨んでしまうのも許されるだろう。
ジル様は口元に笑みを浮かべて「努力はしよう」と告げた。
絶対、これからも変わらないつもりの返事だ。
……まぁ、僕もジル様の愛を感じるのは嬉しいから、拒みきれないんだけどさ。
ジル様の胸に身を預けて、あたたかな体温を感じる。
ここにいられることが幸せでたまらない。ジル様もきっとそう感じてくれているだろう。
「――大好きです、ジル様」
「俺もだ、フラン。愛してる」
愛を囁き合う時間は、胸がくすぐったくなるほどに幸福感が溢れる。
これからもずっと、こんな時間が続くといいな。
*****
以上で、第一部完となります。
ここまでの長いお付き合い、ありがとうございました。
エールなどでの応援もいただきまして、執筆の励みになりました。本当にありがとうございます!
第二部も引き続きお付き合いいただけましたら幸いです(๑•᎑•๑)
2,127
お気に入りに追加
3,722
あなたにおすすめの小説


国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様
冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~
二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。
■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。
■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる