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Ⅰ‐ⅳ.僕とあなたの高まり
57.故郷を思う
しおりを挟む番契約式を終えた後は、城に戻って少人数での晩餐会が開かれることになっていた。立食形式だから、堅苦しいマナーはあまりない。
マイルスさんを筆頭とした側近の人たちの他、ボワージア領まで出向いていた使者も招待しているから、なにを話せるかワクワクする。
「では、ジルヴァント王弟殿下とフラン様の番契約締結をお祝いして——乾杯」
マイルスさんの挨拶と共に始まった晩餐会は、にぎやかで明るい雰囲気だ。
政務官の人ときちんと話すのは今日が初めてだけど、僕を受け入れてくれてる感じがして嬉しい。
「フラン様に来ていただけて、本当に良かったです。殿下の雰囲気が随分とお柔らかくなられて——」
「そう言っていただけると嬉しいです」
みんながこんな感じで言ってくるから、以前までのジル様がどんな感じだったのか、すごく気になる。
信頼関係はしっかりと築けているようだから、駄目なタイプではなかったんだろうけど。
ちなみに、主な政務官の人たちはみんな、伯爵家以上の家柄の出身者だ。だからちょっと気を使っちゃう。
今後、ジル様の番として、この城のもう一人の主人としての振る舞いを身に着けないといけないんだろうけど……僕にできるかな。
不安は尽きないけど、頑張るしかないよね。
「ドクス、西部地域について話が——」
「ああ、わかった。フラン様、少し席を外させていただきます」
「お気になさらず」
頭を下げて立ち去る政務官を見送り、傍らに立つジル様を見上げる。
ジル様はマイルスさんとなにかを話し込んでいるみたいだ。僕はどうしよう——と思ったところで、壁際で控えめに立っている男性と目が合った。
会釈しあうと、男性が近づいてくる。
「フラン様。番契約のご成立、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
定型的な挨拶の後、男性は「私は外務部に所属しております、ラナンと申します。お見知りおきいただけますと幸いです」と言葉を続けた。
ラナン。その名前には覚えがある。
「もしかして、ボワージア領に赴いていらっしゃった方ですか?」
「はい。……ボワージア領はとても静かで自然豊かで、素敵なところでした」
にこり、と笑うラナンさんの言葉に嘘はないように感じられた。お世辞であっても、生まれ育った場所を褒めてもらえるのは嬉しい。
「お褒めていただき、ありがとうございます。父とは会いましたか?」
「もちろんです。フラン様の番がみつかったことをお喜びになっておられましたが、苦労はないかとご心配にもなっていらっしゃるご様子でした」
父様のそんな様子が目に浮かぶようだ。
離れた時間は半年も経っていないのに、あまりに懐かしい。大兄様や小兄様にも会いたいな。
「……ジル様をはじめ、たくさんの方によくしていただいているので、心配されるほどではないですが、家族に会いたい気持ちはありますね」
思わずポツリと呟いていた。
ラナンさんが僅かに目を細め、「それは当然のお心でしょう」と共感を示してくれたからホッとする。
「フラン様のご家族——ボワージア子爵とご次男のフレデリック様は、フラン様のご成婚式の際にはこちらにいらっしゃるご予定だそうですよ」
「成婚……遠いですね」
ジル様には、番というだけではなく、王弟妃として迎えると言ってもらっている。でも、実際にその日が来るのは、まだ遠い先のことのように思えた。
それまで家族に会えないというのは、少し寂しい。話したいことは、もうたくさん溜まっているんだけど。
とはいえ、ボワージア領の状態がまだ落ち着いていないというのは、僕もよくわかっている。だから、しかたないと思うしかなかった。
「その日までに、一度俺とフランでボワージアを訪ねても良いかもしれないな」
ふいに話に入ってきたジル様を、勢いよく振り仰ぐ。
「本当ですか、ジル様!」
「ああ。俺もフランの父君にはきちんと挨拶をしなければならないと思っていたからな」
口元に小さな笑みを浮かべるジル様の、愛情のこもった眼差しに胸が熱くなる。
こうして僕の思いを察して気遣ってくれるのが、嬉しくてたまらない。もちろん、ジル様と一緒にボワージア領に戻れるというのも、大きな喜びではあるんだけど。
「それは良いお考えです。ボワージア領への援助もありますし、政務官も連れて、ご視察を兼ねると予定を組みやすくなるかと」
「……そうでなくとも、休みがほしいものだな」
ジル様が肩をすくめながら頷く。
僕の家族への挨拶兼視察ということで、予定が本決まりになりそうだ。楽しみだなぁ。
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