貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです

asagi

文字の大きさ
上 下
57 / 113
Ⅰ‐ⅳ.僕とあなたの高まり

57.故郷を思う

しおりを挟む

 番契約式を終えた後は、城に戻って少人数での晩餐会が開かれることになっていた。立食形式だから、堅苦しいマナーはあまりない。

 マイルスさんを筆頭とした側近の人たちの他、ボワージア領まで出向いていた使者も招待しているから、なにを話せるかワクワクする。

「では、ジルヴァント王弟殿下とフラン様の番契約締結をお祝いして——乾杯」

 マイルスさんの挨拶と共に始まった晩餐会は、にぎやかで明るい雰囲気だ。
 政務官の人ときちんと話すのは今日が初めてだけど、僕を受け入れてくれてる感じがして嬉しい。

「フラン様に来ていただけて、本当に良かったです。殿下の雰囲気が随分とお柔らかくなられて——」
「そう言っていただけると嬉しいです」

 みんながこんな感じで言ってくるから、以前までのジル様がどんな感じだったのか、すごく気になる。
 信頼関係はしっかりと築けているようだから、駄目なタイプではなかったんだろうけど。

 ちなみに、主な政務官の人たちはみんな、伯爵家以上の家柄の出身者だ。だからちょっと気を使っちゃう。

 今後、ジル様の番として、この城のもう一人の主人としての振る舞いを身に着けないといけないんだろうけど……僕にできるかな。
 不安は尽きないけど、頑張るしかないよね。

「ドクス、西部地域について話が——」
「ああ、わかった。フラン様、少し席を外させていただきます」
「お気になさらず」

 頭を下げて立ち去る政務官を見送り、傍らに立つジル様を見上げる。

 ジル様はマイルスさんとなにかを話し込んでいるみたいだ。僕はどうしよう——と思ったところで、壁際で控えめに立っている男性と目が合った。

 会釈しあうと、男性が近づいてくる。

「フラン様。番契約のご成立、おめでとうございます」
「ありがとうございます」

 定型的な挨拶の後、男性は「私は外務部に所属しております、ラナンと申します。お見知りおきいただけますと幸いです」と言葉を続けた。

 ラナン。その名前には覚えがある。

「もしかして、ボワージア領に赴いていらっしゃった方ですか?」
「はい。……ボワージア領はとても静かで自然豊かで、素敵なところでした」

 にこり、と笑うラナンさんの言葉に嘘はないように感じられた。お世辞であっても、生まれ育った場所を褒めてもらえるのは嬉しい。

「お褒めていただき、ありがとうございます。父とは会いましたか?」
「もちろんです。フラン様の番がみつかったことをお喜びになっておられましたが、苦労はないかとご心配にもなっていらっしゃるご様子でした」

 父様のそんな様子が目に浮かぶようだ。
 離れた時間は半年も経っていないのに、あまりに懐かしい。大兄様や小兄様にも会いたいな。

「……ジル様をはじめ、たくさんの方によくしていただいているので、心配されるほどではないですが、家族に会いたい気持ちはありますね」

 思わずポツリと呟いていた。
 ラナンさんが僅かに目を細め、「それは当然のお心でしょう」と共感を示してくれたからホッとする。

「フラン様のご家族——ボワージア子爵とご次男のフレデリック様は、フラン様のご成婚式の際にはこちらにいらっしゃるご予定だそうですよ」
「成婚……遠いですね」

 ジル様には、番というだけではなく、王弟妃として迎えると言ってもらっている。でも、実際にその日が来るのは、まだ遠い先のことのように思えた。

 それまで家族に会えないというのは、少し寂しい。話したいことは、もうたくさん溜まっているんだけど。

 とはいえ、ボワージア領の状態がまだ落ち着いていないというのは、僕もよくわかっている。だから、しかたないと思うしかなかった。

「その日までに、一度俺とフランでボワージアを訪ねても良いかもしれないな」

 ふいに話に入ってきたジル様を、勢いよく振り仰ぐ。

「本当ですか、ジル様!」
「ああ。俺もフランの父君にはきちんと挨拶をしなければならないと思っていたからな」

 口元に小さな笑みを浮かべるジル様の、愛情のこもった眼差しに胸が熱くなる。

 こうして僕の思いを察して気遣ってくれるのが、嬉しくてたまらない。もちろん、ジル様と一緒にボワージア領に戻れるというのも、大きな喜びではあるんだけど。

「それは良いお考えです。ボワージア領への援助もありますし、政務官も連れて、ご視察を兼ねると予定を組みやすくなるかと」
「……そうでなくとも、休みがほしいものだな」

 ジル様が肩をすくめながら頷く。
 僕の家族への挨拶兼視察ということで、予定が本決まりになりそうだ。楽しみだなぁ。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

処理中です...