貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです

asagi

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Ⅰ‐ⅲ.僕とあなたの交わり

41.衝撃的な話

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 孤児院訪問と番契約書の締結。どちらが先かな、と考えていたんだけど、予想以上に早くジル様の予定が調整できたみたいだ。

「そもそも、俺が忙しいというのがおかしいんだ。これだけ多くの政務官がいるというのに、なぜ俺の仕事が減らない」

 というのは、孤児院に向かう馬車に乗り込む前にジル様が放った言葉。そんなジル様の後ろでマイルスさんが苦笑してた。

 他にも政務官がいるとはいえ、代官——セレネー領は王家直轄領なので、国王陛下を除けば領内で最も高い地位にある責任者——であるジル様が言うことじゃないよね。

 僕も返事に困って、笑顔で聞き流しちゃった。

 まぁ、そんなことは置いておくとして。
 セレネー領で過ごし始めて一週間。ようやく城の外に行けることになった。ワクワクするなぁ。

 ここしばらく、ジル様やマイルスさん、イリスくらいとしか話せてなかったから、子どもたちと楽しく過ごしたい。もちろん、慰問というか、孤児院の環境に不便がないかの視察もちゃんとするけどね。

「来るときも思いましたけど、領都の街並みも素敵ですよね」

 馬車の窓から外を眺める。
 この街はジル様が代官であることが知られているからか、王家の紋章がついた馬車を見ても、人々があまり構える様子がない。それでもみんな立ち止まって頭を下げてるんだけど。

 旅の間でこういう光景は見慣れてきたので、街を眺める余裕もできた。

「白い石で統一されてるんですか?」

 石畳も建物も真っ白。でも、それにあたたかみを感じるのは、随所に飾られた草花の存在があるから。街路樹も植えられていて、都会的なのにほっと心安らぐような自然を感じられる。

「そうだな。領都の近くに採石場があって、この地域の特産にもなっている。旅の途中で使った城にも、この領の石が使われているはずだ」
「あ、美味しい昼食をいただいたところですね!」

 思い出して微笑む。
 白い城壁に青いとんがり屋根の、優美で可愛らしいお城。そこで食べた昼食は、それまで一度も食べたことのない美味しさだった。

 あれは、ジル様に出会って二日目のことだったんだよね。突然王族と過ごすことになったわりに、僕は結構楽しむ余裕があったような。やっぱり、王族とはいえ、ジル様だったからかな。

 向かい側に座っているジル様をこっそり窺って微笑む。
 ジル様は今日もかっこいい。孤児院の子どもたち、大興奮しちゃうんじゃないかな。これまで、ジル様が孤児院を慰問したことはないらしいもん。

「そうだ。……フランは食べることが好きなようだな」
「美味しいものを食べると、幸せな気分になるでしょう? ジル様は違うのですか?」

 当然のことだと思っていたのに、尋ねてみたらジル様は目を少し翳らせた。僕、いけないことをしてしまった……?

「フランと共に食事をするのは、幸せな気分になる」

 どうして僕と一緒ならと限定されるのか。
 聞いていいのかわからなくて、ちょっと戸惑う。

 ジル様のことを深く知りたいけど、嫌な気分にさせるのは避けたい。

 いつもだったらマイルスさんにそれとなくどうしたらいいか聞けるんだけど、今日はこの馬車の中にはいない。「そろそろ二人きりでも大丈夫でしょう」と言って、イリスと一緒に別の馬車に乗り込んでた。

「……お食事、嫌いだったんですか?」

 悩んだ末に、結局聞いていた。
 ジル様が時々過去を語りたがらないことに気づいていて、いつかは聞いた方がいいんだろうな、って思ってたんだ。今が良い機会なんじゃないかな。

 ジル様は少し躊躇った後、ため息のように「……ああ」とこぼして頷いた。

「たまに変な味がすることがあったからな。そのようなことがなくなってからも、あまり好きになれなかった」

 変な味? それは王城でなのか、こっちのお城に来てからなのか。
 どちらにしても、優秀な料理人ばかりだと思うんだけど……?

 首を傾げている僕を見て、ジル様は苦笑した。「この言い方ではわからないか。……まぁ、それが平和的な感覚だろうな」と呟いてる。

 平和的ってなんだろう。いくら考えてもわからない。

「ジル様、答えを教えてください」

 自分で考えるのを諦めてねだってみる。ここまで話したんだから、ジル様は隠すつもりはないんだと思う。だから、聞いてもいいはずだよね。

「答え……。そうだな。フランは今後俺の番であり、妃として扱われるようになるだろうから、知っておくべきか」

 少し重々しい口調だった。どんな話が飛び出してくるのか、嫌な予感を覚えて緊張しちゃう。

 ジル様は外を見て「まだ到着まで時間があるな」とこぼした後、僕に視線を戻した。

「——変な味というのは毒だ」
「えっ……」

 息を呑む。そんな言葉を聞くことになるとは思いもしなかった。
 手のひらに嫌な汗が滲んで、落ち着かない気分になる。無意識でジル様の体調を確かめるように視線を走らせていた。

「驚かせて悪い。だが、フランはよく覚えておいてくれ。——毒をしかけてきていたのは王太后なんだ。兄上に今後万が一のことがあれば、また俺を暗殺しようと行動し始める可能性がある。それにはフランも巻き込まれることになるだろう」

 衝撃の事実だった。
 正直、僕が巻き添えになるとかは、現実感もないしどうでもいい。
 それよりも、王太后という高貴な方がそんなことをしていたということに驚いたし、ジル様が被害を受けていたというのが悲しくてしかたない。

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