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Ⅰ‐ⅱ.僕とあなたの深まり

30.石の煌めき

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 公園でのんびりと時間を過ごした後は、通り沿いの店をいくつか覗いてみた。

 貴族御用達の店とは違う店に、ジル様は興味津々な様子。そもそも、自分の足で店を訪れるのが初めてだったらしい。

「え、これまではどうしていたんです?」
「御用聞きの商人が屋敷に来る」
「……そういう感じですか」

 聞けば納得だ。
 ボワージア領だって、商人がやって来ていた。大半が、僕に縁談を持ってくるついでだったらしく、家族は対応に苦慮していたけど。

 こちらから出向かなくても商品を運んでくれるから、助かっていた部分もあったんだよね。
 僕がいなくなってからはどうしてるんだろう? 近くの街まで、誰かが買い出しに行ってるのかな。

「フランはこのような装飾品は好きなのか?」

 ジル様が指さしたのは耳飾りだった。庶民向けの店だけど、それなりに質のいい石がついている。お祝い事があった時とかの、奮発した贈り物として買われるんだろう。

「あまり付けたことはないですけど、嫌いじゃないですよ」

 キラキラとしたものを見るのは好きだ。あからさまに豪奢なものより、繊細なデザインの方がいい。

 僕が持っている装飾品は、社交界デビュー用のひと揃えだけ。宝石は使わず繊細な金細工のものにした。宝石を付けると、一気に値段が高くなるんだよね。そんな贅沢はできない。

「そうか。……フランには濃い色より淡い色の方が似合いそうだな。赤ならば鮮やかな色合いでも良さそうだが」

 ジル様が店主に声をかけて見せてもらった耳飾りを僕の耳元に当てる。じっくりと眺められて、少し照れてしまった。

 もしかしてプレゼントしてくれるのかな。ジル様ならこのくらいの値段の装飾品は簡単に買えてしまうだろう。

 だって、きっと今日の昼食代にも及ばないはずだ。あれは王族のお城だったから、お金は払ってないのかもしれないけど。

「——よし、決めた」
「え、お返しになるんですか?」

 店主にあっさりと耳飾りを返している姿を見て、咄嗟に言ってしまった。まるで贈られることをねだっているみたいで、浅ましく感じてすぐに反省する。
 でも、ジル様はまったく気にしていないようだ。

「ああ。フランに似合うものを用意させよう」
「……なるほど。御用商人に頼むんですね」

 ジル様のそんな言葉だけで今後の展開を察したんだから、僕も随分とこの状況に慣れてきたと思う。

 店主もホッとした顔をしているので、ジル様の身分を察して『こんな庶民向けの物をお渡ししていいのか!?』と悩んでいたのだと気づいた。
 いろいろと気を遣わせてしまって申し訳ない。

「石から選ぼう。コウリー領で最近高品質なダイヤモンドが採れているらしいから、取り寄せてみるのもいいな」

 コウリー領とは、王家直轄地の一つで、鉱山がたくさんあるところだったはず。その中に、ダイヤモンドが採れる場所があるというのは初めて知った。

 もしかして、まだ公表されていない情報では? という疑いがあって、店主には目で『内密に』と頼んでおく。『心得ております』と頷きが返ってきたので、さすが客商売のプロだなぁと思った。

 店を出る段階になって、改めて会話を思い返して気づく。

 僕、とんでもなく高価な物を贈られることになったのでは……? そんなもので身を飾っていたら、いつ落として失くしてしまうか、ヒヤヒヤして落ち着かなそうだ。

「ジル様。あの、贈ってくださる装飾品って、パーティー用ですよね……?」

 それならば、王弟殿下の番として必要な物だろうと覚悟することができる。ジル様の隣に立つなら、身なりから装っていくしかない。

「普段から付けていていいと思うが。そもそも、俺の屋敷ではあまりパーティーを開かない。王都での社交界への出席も、好んでするつもりはない」

 社交界に頻繁に出向かなくていいのは安堵するけど、高価な装飾品を普段使いは絶対に駄目だ。肩が凝る。

「僕、高いものは慣れてなくて……」
「大丈夫だ。日頃から触れていれば、嫌でも慣れる」

 微笑まれたけど、ほしい返事はそれじゃなかった。

 思わずジト目で見つめてみる。でも、ジル様が意思を変えるつもりはなさそうだ。どうしても僕を着飾ってみたいらしい。

 慣れた方がいろいろと楽なのかな……。今のところ、慣れる気がまったくしないんだけど。

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