30 / 113
Ⅰ‐ⅱ.僕とあなたの深まり
30.石の煌めき
しおりを挟む公園でのんびりと時間を過ごした後は、通り沿いの店をいくつか覗いてみた。
貴族御用達の店とは違う店に、ジル様は興味津々な様子。そもそも、自分の足で店を訪れるのが初めてだったらしい。
「え、これまではどうしていたんです?」
「御用聞きの商人が屋敷に来る」
「……そういう感じですか」
聞けば納得だ。
ボワージア領だって、商人がやって来ていた。大半が、僕に縁談を持ってくるついでだったらしく、家族は対応に苦慮していたけど。
こちらから出向かなくても商品を運んでくれるから、助かっていた部分もあったんだよね。
僕がいなくなってからはどうしてるんだろう? 近くの街まで、誰かが買い出しに行ってるのかな。
「フランはこのような装飾品は好きなのか?」
ジル様が指さしたのは耳飾りだった。庶民向けの店だけど、それなりに質のいい石がついている。お祝い事があった時とかの、奮発した贈り物として買われるんだろう。
「あまり付けたことはないですけど、嫌いじゃないですよ」
キラキラとしたものを見るのは好きだ。あからさまに豪奢なものより、繊細なデザインの方がいい。
僕が持っている装飾品は、社交界デビュー用のひと揃えだけ。宝石は使わず繊細な金細工のものにした。宝石を付けると、一気に値段が高くなるんだよね。そんな贅沢はできない。
「そうか。……フランには濃い色より淡い色の方が似合いそうだな。赤ならば鮮やかな色合いでも良さそうだが」
ジル様が店主に声をかけて見せてもらった耳飾りを僕の耳元に当てる。じっくりと眺められて、少し照れてしまった。
もしかしてプレゼントしてくれるのかな。ジル様ならこのくらいの値段の装飾品は簡単に買えてしまうだろう。
だって、きっと今日の昼食代にも及ばないはずだ。あれは王族のお城だったから、お金は払ってないのかもしれないけど。
「——よし、決めた」
「え、お返しになるんですか?」
店主にあっさりと耳飾りを返している姿を見て、咄嗟に言ってしまった。まるで贈られることをねだっているみたいで、浅ましく感じてすぐに反省する。
でも、ジル様はまったく気にしていないようだ。
「ああ。フランに似合うものを用意させよう」
「……なるほど。御用商人に頼むんですね」
ジル様のそんな言葉だけで今後の展開を察したんだから、僕も随分とこの状況に慣れてきたと思う。
店主もホッとした顔をしているので、ジル様の身分を察して『こんな庶民向けの物をお渡ししていいのか!?』と悩んでいたのだと気づいた。
いろいろと気を遣わせてしまって申し訳ない。
「石から選ぼう。コウリー領で最近高品質なダイヤモンドが採れているらしいから、取り寄せてみるのもいいな」
コウリー領とは、王家直轄地の一つで、鉱山がたくさんあるところだったはず。その中に、ダイヤモンドが採れる場所があるというのは初めて知った。
もしかして、まだ公表されていない情報では? という疑いがあって、店主には目で『内密に』と頼んでおく。『心得ております』と頷きが返ってきたので、さすが客商売のプロだなぁと思った。
店を出る段階になって、改めて会話を思い返して気づく。
僕、とんでもなく高価な物を贈られることになったのでは……? そんなもので身を飾っていたら、いつ落として失くしてしまうか、ヒヤヒヤして落ち着かなそうだ。
「ジル様。あの、贈ってくださる装飾品って、パーティー用ですよね……?」
それならば、王弟殿下の番として必要な物だろうと覚悟することができる。ジル様の隣に立つなら、身なりから装っていくしかない。
「普段から付けていていいと思うが。そもそも、俺の屋敷ではあまりパーティーを開かない。王都での社交界への出席も、好んでするつもりはない」
社交界に頻繁に出向かなくていいのは安堵するけど、高価な装飾品を普段使いは絶対に駄目だ。肩が凝る。
「僕、高いものは慣れてなくて……」
「大丈夫だ。日頃から触れていれば、嫌でも慣れる」
微笑まれたけど、ほしい返事はそれじゃなかった。
思わずジト目で見つめてみる。でも、ジル様が意思を変えるつもりはなさそうだ。どうしても僕を着飾ってみたいらしい。
慣れた方がいろいろと楽なのかな……。今のところ、慣れる気がまったくしないんだけど。
1,075
お気に入りに追加
3,655
あなたにおすすめの小説
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
馬鹿な彼氏を持った日には
榎本 ぬこ
BL
αだった元彼の修也は、Ωという社会的地位の低い俺、津島 零を放って浮気した挙句、子供が生まれるので別れて欲しいと言ってきた…のが、数年前。
また再会するなんて思わなかったけど、相手は俺を好きだと言い出して…。
オメガバース設定です。
苦手な方はご注意ください。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
公爵様のプロポーズが何で俺?!
雪那 由多
BL
近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランにバラを差し出されて結婚前提のプロポーズされた俺フラン・フライレですが、何で初対面でプロポーズされなくてはいけないのか誰か是非教えてください!
話しを聞かないベルトラン公爵閣下と天涯孤独のフランによる回避不可のプロポーズを生暖かく距離を取って見守る職場の人達を巻き込みながら
「公爵なら公爵らしく妻を娶って子作りに励みなさい!」
「そんな物他所で産ませて連れてくる!
子作りが義務なら俺は愛しい妻を手に入れるんだ!」
「あんたどれだけ自分勝手なんだ!!!」
恋愛初心者で何とも低次元な主張をする公爵様に振りまわされるフランだが付き合えばそれなりに楽しいしそのうち意識もする……のだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる