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Ⅰ‐ⅱ.僕とあなたの深まり
24.旅の途中
しおりを挟む昼食を終えた後には「暫くここで休むか?」と聞かれたけど断った。
だって、それは絶対、ジル様たちの予定になかったことのはずだから。僕は馬車の中でも休める。
大兄様に「外見は繊細っぽいが、中身は図太い」と評価されてるのを否定できない自覚があるからね。
ということで、再び馬車に揺られて移動開始。座席には柔らかいクッションがあって、震動をほとんど感じないし、ほんと快適なんだよ。
「あ、あれはなんでしょう?」
「ん……なんだろうな」
車窓から見えた塔のようなものを指さす。ジル様も答えは知らないみたいだけど。というか、旅の間同じような質問を何度もしてるけど、答えが返ってくることが少ない。
僕は初めての景色に興味津々で色々知りたいって思っちゃうけど、ジル様は慣れてるからか、疑問にも思わなかったらしい。
「あれは水車を動力にした小麦を挽くための建物ですよ」
「そうなんですね! 僕の領地には水車に使えるほどの川がなくて、初めて見ました」
マイルスさんの解説を聞いて、書物で見た内容を思い出した。
ボワージア領では、小麦の製粉はすべて人力で行う。小さな川しかないし、それも冬の間は凍ってしまうから、動力にすることなんてできない。そもそも水車や風車を造るお金がないんだけど。
僕の領では経費の中で人件費が最も安い。人の手で製粉するのが一番安くて楽なんだ。
「水車? 俺が知っているものと違う気がするが」
ジル様が首を傾げてる。それを横目で見たマイルスさんが、少し呆れたように肩をすくめた。
「以前ご報告したことですが。この領は技術の開発に力を入れているのです。あの水車も、セレネー領にあるものより効率化された最新式でしょう」
「……ああ、そうだったな。ここはレンドル領か」
納得したように頷くジル様を見ながら、僕は記憶を辿った。
確か、レンドル領は伯爵家が治めてるところだったはず。何代か前に王家から降嫁してきた王女様がいて、国として重要な地域を治めることになった、という話だ。
僕には関係ない知識だと頭の隅に追いやってたけど、これからは必要になるかもしれない。やっぱり勉強し直さないとだめかなぁ。
「あの水車の技術は、セレネー領にも導入が決まっていますよ。殿下も認可印を押したはずです」
「……わかってる。憶えているに決まってるだろう」
ジル様がマイルスさんから視線を逸らしながら頷いてる。なんとも事実か怪しい返事だな、と思ってしまった。
だけど、完璧に見えるジル様に、そういう隙があるのがわかって、ちょっとホッとする。
王族ってだけで遠い存在なのに、それ以上に人としての違いを感じたら、仲良くなるのが大変そうだから。完璧を求められても、僕は応えられる自信がないしね。
「ジル様は領地貴族の方にご挨拶に行かれるのですか?」
ふと思い出して尋ねる。確か、王族の御幸——王城からの外出——の際には、通りがかる領地の貴族から歓待を受ける習慣があったはずだ。書物で読んだ知識だけど。
「いや。レンドル伯爵家には王都に行く時に軽く挨拶しているから、帰りはいらないだろう」
「『帰りもぜひお越しください』とのお誘いはありましたが、殿下のご意志が優先ですからね」
嫌そうな顔をしているので、ジル様は貴族との交流が苦手らしい。長く社交界を避けていたことからもわかっていたことだ。
マイルスさんが微笑んで頷いてるから、問題はないんだろうな。王弟殿下に挨拶を強制できるような貴族なんていないしね。
「それなら、いいんですけど……」
正直安心した。
国王陛下に挨拶したのは緊張したけど、ジル様のお兄様だと思えば、少し余裕があったのも事実。
でも、領地貴族と会うとなると、礼儀とか身分とか、厳しい目で観察されても不思議じゃない。そして、僕はそんな人たちのお眼鏡にかなう自信がまったくない。
挨拶するにしても、もうちょっと勉強して、ジル様の隣に相応しくなってからがいいな。
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