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277.幸せに包まれる日
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お披露目のパレードの当日は、心が明るくなるような晴天だった。
領都の賑わいも今日が最高潮で、領主館を出たばかりのノアたちにも心躍るような雰囲気が伝わってくる。
天井がない開放的な馬車に乗ったノアは、緊張でドキドキと激しく拍動する心臓のあたりを手で押さえながら、反対の手でサミュエルの手をぎゅっと握る。
サミュエルがいなかったら、逃げ出してしまいそうだった。
「大丈夫だよ、ノア」
民が集っている中心街に差し掛かろうとした時、サミュエルに囁かれて、ノアはハッと息を呑んで顔を上げた。いつの間にか俯いてしまっていたのだ。
こんな姿を、民に見せるわけにはいかない。貴族としての振る舞いをしなければ。
「……はい。サミュエル様がいてくださるから、大丈夫です」
自分に言い聞かせるように呟き、サミュエルにぎこちなく微笑みかける。緊張で顔が強ばっていて、いつも通りの笑みを浮かべるのは難しそうだった。
「うん、ずっと傍にいるよ」
頬にちゅ、と軽く口づけられる。誰に見られるかも分からない場所での口づけに、普段ならばノアは注意するのだけれど、今はホッと心が安らぐのを感じて何も言えなかった。
次第に中心街が見えてきた。街並みを埋め尽くすように人がひしめいている。人々もノアたちに気づいたのか、ワッと歓声が湧いた。
一旦落ち着いた心臓が、再び忙しなく主張を始める。ノアはなんとか笑みを繕って、民に手を振る準備をした。
「――ノア様、サミュエル様、ご結婚おめでとうございます!」
誰かが張り上げた声に、祝福の声が重なった。溢れんばかりの歓声と祝福。街道脇の建物の二階からは、様々な色の花びらが降り注ぐ。
ノアはその光景に、一瞬呆気にとられた。
青空に舞う美しい花びら。ノアたちに向けられた、老若男女の輝かしい笑顔。まだ言葉も理解していないような年頃の赤ん坊まで、楽しい雰囲気を感じ取ったように満面の笑みを浮かべている。
想像を何倍も上回るほどに、幸福感に溢れた光景だ。
ノアの胸が緊張とは異なる思いできゅっと締めつけられた。
それは、祝福してくれる皆への愛情で、サミュエルと共にこの場にいられることへの喜びで、ノアをこれまで支えてくれた人々への感謝で――。
(――あぁ、僕は、これから皆の幸せのために生きていきたい。貴族の務めだから、じゃなくて、僕にこれだけの幸せをくれる皆を、愛しているから……)
言葉にできないほどの思いが胸に渦巻く。ノアは喜びのあまり泣きたくなるのをグッと堪えて、改めて自分のこれからの生き方を決めた。
自然と笑みがこぼれ落ちる。ここに集ってくれている皆がノアたちのことを祝福してくれているのだと実感してしまえば、怖がって緊張する必要なんてないのだと思えた。
「ありがとう……」
ノアの小さな声は喧噪に紛れて皆に届きようもない。でも、微笑んで小さく手を振るだけで、誰もがさらに喜びに溢れた表情になる。
それが嬉しくて、愛おしくてたまらなかった。
「皆が、僕の守るもの――」
「私たちの、と言ってほしいな」
ノアの言葉を受け取ったのは、サミュエルだけ。
ぱちりと目を瞬かせてサミュエルを見つめると、僅かに拗ねたような眼差しがノアに向けられていた。
ポッと心がさらに温かくなる。
ノア一人だけでも皆のために頑張るつもりだったけれど、その傍にサミュエルがいてくれることが、どれだけ心強くて幸せなことか。
「……はい、二人で、守っていきましょうね」
「うん。改めてよろしくね、ノア」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
サミュエルと見つめ合い、微笑みがこぼれ落ちる。
今この瞬間、自分が世界で一番の幸せ者だと、胸を張って宣言できるような気分だった。
「――愛しています、サミュエル様」
「私も愛しているよ、ノア」
結婚式で誓約する時のように口づけるノアたちを、溢れんばかりの祝福の声が包みこんだ。
「――ノア様、サミュエル様! いつまでもお幸せに!」
――◇――◇――◇――
これをもちまして本編完結とさせていただきます。
話を広げすぎたあまりに回収できていない部分も残っていますので、今後不定期で番外編を更新する予定です。
ノアたちの新婚ほのぼのラブラブ話も書けたらいいなぁと思っています。
その際は再びお付き合いいただけましたら嬉しいです。
ひとまず――
長い間お付き合いいただきまして、ありがとうございました(*´ω`*)
感想やエールも、執筆を継続する上で大きな励みになりました。本当にありがとうございます✨
これからも執筆を頑張っていきますので、応援いただけましたら幸いです。
領都の賑わいも今日が最高潮で、領主館を出たばかりのノアたちにも心躍るような雰囲気が伝わってくる。
天井がない開放的な馬車に乗ったノアは、緊張でドキドキと激しく拍動する心臓のあたりを手で押さえながら、反対の手でサミュエルの手をぎゅっと握る。
サミュエルがいなかったら、逃げ出してしまいそうだった。
「大丈夫だよ、ノア」
民が集っている中心街に差し掛かろうとした時、サミュエルに囁かれて、ノアはハッと息を呑んで顔を上げた。いつの間にか俯いてしまっていたのだ。
こんな姿を、民に見せるわけにはいかない。貴族としての振る舞いをしなければ。
「……はい。サミュエル様がいてくださるから、大丈夫です」
自分に言い聞かせるように呟き、サミュエルにぎこちなく微笑みかける。緊張で顔が強ばっていて、いつも通りの笑みを浮かべるのは難しそうだった。
「うん、ずっと傍にいるよ」
頬にちゅ、と軽く口づけられる。誰に見られるかも分からない場所での口づけに、普段ならばノアは注意するのだけれど、今はホッと心が安らぐのを感じて何も言えなかった。
次第に中心街が見えてきた。街並みを埋め尽くすように人がひしめいている。人々もノアたちに気づいたのか、ワッと歓声が湧いた。
一旦落ち着いた心臓が、再び忙しなく主張を始める。ノアはなんとか笑みを繕って、民に手を振る準備をした。
「――ノア様、サミュエル様、ご結婚おめでとうございます!」
誰かが張り上げた声に、祝福の声が重なった。溢れんばかりの歓声と祝福。街道脇の建物の二階からは、様々な色の花びらが降り注ぐ。
ノアはその光景に、一瞬呆気にとられた。
青空に舞う美しい花びら。ノアたちに向けられた、老若男女の輝かしい笑顔。まだ言葉も理解していないような年頃の赤ん坊まで、楽しい雰囲気を感じ取ったように満面の笑みを浮かべている。
想像を何倍も上回るほどに、幸福感に溢れた光景だ。
ノアの胸が緊張とは異なる思いできゅっと締めつけられた。
それは、祝福してくれる皆への愛情で、サミュエルと共にこの場にいられることへの喜びで、ノアをこれまで支えてくれた人々への感謝で――。
(――あぁ、僕は、これから皆の幸せのために生きていきたい。貴族の務めだから、じゃなくて、僕にこれだけの幸せをくれる皆を、愛しているから……)
言葉にできないほどの思いが胸に渦巻く。ノアは喜びのあまり泣きたくなるのをグッと堪えて、改めて自分のこれからの生き方を決めた。
自然と笑みがこぼれ落ちる。ここに集ってくれている皆がノアたちのことを祝福してくれているのだと実感してしまえば、怖がって緊張する必要なんてないのだと思えた。
「ありがとう……」
ノアの小さな声は喧噪に紛れて皆に届きようもない。でも、微笑んで小さく手を振るだけで、誰もがさらに喜びに溢れた表情になる。
それが嬉しくて、愛おしくてたまらなかった。
「皆が、僕の守るもの――」
「私たちの、と言ってほしいな」
ノアの言葉を受け取ったのは、サミュエルだけ。
ぱちりと目を瞬かせてサミュエルを見つめると、僅かに拗ねたような眼差しがノアに向けられていた。
ポッと心がさらに温かくなる。
ノア一人だけでも皆のために頑張るつもりだったけれど、その傍にサミュエルがいてくれることが、どれだけ心強くて幸せなことか。
「……はい、二人で、守っていきましょうね」
「うん。改めてよろしくね、ノア」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
サミュエルと見つめ合い、微笑みがこぼれ落ちる。
今この瞬間、自分が世界で一番の幸せ者だと、胸を張って宣言できるような気分だった。
「――愛しています、サミュエル様」
「私も愛しているよ、ノア」
結婚式で誓約する時のように口づけるノアたちを、溢れんばかりの祝福の声が包みこんだ。
「――ノア様、サミュエル様! いつまでもお幸せに!」
――◇――◇――◇――
これをもちまして本編完結とさせていただきます。
話を広げすぎたあまりに回収できていない部分も残っていますので、今後不定期で番外編を更新する予定です。
ノアたちの新婚ほのぼのラブラブ話も書けたらいいなぁと思っています。
その際は再びお付き合いいただけましたら嬉しいです。
ひとまず――
長い間お付き合いいただきまして、ありがとうございました(*´ω`*)
感想やエールも、執筆を継続する上で大きな励みになりました。本当にありがとうございます✨
これからも執筆を頑張っていきますので、応援いただけましたら幸いです。
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ひとまず、最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました(*´ω`*)
ご感想ありがとうございます!
楽しんでいただけて嬉しいです✨
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長い間お付き合いいただきまして、本当にありがとうございました(*´ω`*)