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276.あなたの温もり
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領主館へ向かう道中は、驚くほどの歓迎と祝福を受けた。今日が披露目のパレードの日だったかと、思わず疑ってしまったくらいだ。
その後、領主館についてからは、披露目のパレードは今日の何倍もの人出がある予想だと聞かされて、少し戦々恐々としてしまう。
書類の上で、数字は確認していたけれど、実際にこの目で人々の多さを見てみると、ノアの想像を超えていた。
「――それだけ、ランドロフ侯爵家が民に愛されているということだよ。もちろん、ノア自身もね。重荷だと思わず、喜んで受け止めたらいいんじゃないかい」
披露目のパレード前夜に、思わず不安を吐露したノアに、サミュエルが微笑みかけながら言う。
サミュエルはノアとは違って堂々とした雰囲気でさすがだ。でも、サミュエルが言うような振る舞いをできるなら、ノアは苦労しない。
「……たくさんの人目を感じて、緊張してしまうのはどうしようもないんですよ」
ポツリと弱音を吐いてしまう。
それに対して、サミュエルは「う~ん」と小さく唸りながら、ノアを抱き寄せた。
既にベッドに入り、いつでも眠れる状態だけれど、眠気はまったく訪れてくれない。
さすがに今日は閨事をするつもりはないから寄り添うだけの体勢で、ノアはサミュエルと見つめ合う。
「――ノアはそういう性格だからね。務めを放棄するつもりはないんだから、十分頑張っていると思うよ。明日はずっと私が傍にいる。人目が気になるなら、私だけを見つめていたらいいよ」
「……それ、惚気けていると思われませんか?」
とんでもない提案をするサミュエルに、ノアは苦笑した。サミュエルは茶目っ気のある笑みを浮かべて、ノアの頬に口づける。
「それでもいいんじゃないかい? 次期領主が円満な結婚生活を過ごしていることは、民にとっても喜ばしいことだと思うよ」
「……でも――」
「それでも気になると言うなら、私だけに意識を向けてもらえるよう、もっと頑張るけど」
サミュエルがニコリと笑う。その笑みに含みを感じて、ノアは僅かに警戒した。
「……どう、頑張るのですか?」
「う~ん……こう、かな……」
「んっ!?」
サミュエルの顔が近づいてきたと思ったら、一瞬で唇を奪われていた。
貪るような口づけに、ノアが喘ぐように声をもらしながら、サミュエルにしがみつく。
快感を教え込まれた身体には、少々刺激が強い。昂ぶりそうになる身体を必死に抑え、口づけから逃れようとしても、サミュエルがそう簡単に許してくれるはずもない。
「まっ……ぁ……んんっ!」
このままでは、閨事になだれ込んでしまいかねないという危惧に襲われ、ノアはサミュエルを制止するために、なんとか顔を背けた。
追ってこようとするサミュエルの顔を両手で包み、ジトッと睨む。
「――駄目です! 明日は朝から予定がいっぱいなんですよ。立っていられなくなったら、どうするんですか」
「キスだけだよ。……それとも、ノアはその先も望んでいるのかい?」
「なっ!?」
ノアは顔を赤くして、言葉を失った。サミュエルのからかいにより、まるで自意識過剰だったように勘違いしてしまう。
確かにサミュエルがしていたのはキスだけで、その先を示唆してはいなかった。でも、ベッドの中で行われたら、当然想像くらいしてしまう。そのようにノアを育てたのはサミュエルだ。
「――もう! 知りません!」
サミュエルに背を向けて、少し距離をとる。すると、背後で少し慌てた気配があった。
「ごめん、ノア。だから、私に顔を見せて」
後ろから抱きついてきて、顔を覗き込まれる。そのしょんぼりとした顔を、ノアはじとりと睨んだ。
「……サミュエル様が、からかうせいですよ」
「うん、反省している。ただ、明日、人目を忘れるくらいキスをしていれば、ノアの緊張も和らぐのではないかと思って、提案したつもりだったんだけど」
そう言われた瞬間、ノアは『あ、その話をしていたんだった』と思い出した。途端に、パレード中に今のような熱烈な口づけをされているところを想像し、あまりの恥ずかしさに全身を赤く染める。
「っ、そのような提案を、受け入れるわけが、ないでしょう……!」
「そうかい? 良いと思ったんだけどね」
心底残念そうな声音で呟くサミュエルを、ノアは思わず同じ人間なのだろうかと疑ってしまった。ノアでは思いつきもしない発想である。
「……絶対にしませんよ?」
「うん、ノアが嫌がることはしないよ。そうだな……代わりに、パレードの間、手を繋いでおくかい?」
シーツを掴んでいたノアの手に、サミュエルの手が重なった。
ノアの手は小さくて、サミュエルの手にすっぽりと覆われる。その温もりに、心強さを感じて、ホッと気持ちが緩んだ。
「……はい」
サミュエルが傍にいてくれるなら大丈夫だと思えて、ノアは微笑む。途端に眠気がやってくるのだから、なんとも単純な性格だ。
ノアはサミュエルに頼り切っている自覚がある。だから、自分一人でも頑張れるようになろうと思っているのに、つい甘えてしまう。サミュエルが甘やかしてくるのだから、なおさら独り立ちできない。
サミュエルはノアをからかうし、振り回すこともあるけれど、誰よりも愛して、守ってくれる人なのだ。
その後、領主館についてからは、披露目のパレードは今日の何倍もの人出がある予想だと聞かされて、少し戦々恐々としてしまう。
書類の上で、数字は確認していたけれど、実際にこの目で人々の多さを見てみると、ノアの想像を超えていた。
「――それだけ、ランドロフ侯爵家が民に愛されているということだよ。もちろん、ノア自身もね。重荷だと思わず、喜んで受け止めたらいいんじゃないかい」
披露目のパレード前夜に、思わず不安を吐露したノアに、サミュエルが微笑みかけながら言う。
サミュエルはノアとは違って堂々とした雰囲気でさすがだ。でも、サミュエルが言うような振る舞いをできるなら、ノアは苦労しない。
「……たくさんの人目を感じて、緊張してしまうのはどうしようもないんですよ」
ポツリと弱音を吐いてしまう。
それに対して、サミュエルは「う~ん」と小さく唸りながら、ノアを抱き寄せた。
既にベッドに入り、いつでも眠れる状態だけれど、眠気はまったく訪れてくれない。
さすがに今日は閨事をするつもりはないから寄り添うだけの体勢で、ノアはサミュエルと見つめ合う。
「――ノアはそういう性格だからね。務めを放棄するつもりはないんだから、十分頑張っていると思うよ。明日はずっと私が傍にいる。人目が気になるなら、私だけを見つめていたらいいよ」
「……それ、惚気けていると思われませんか?」
とんでもない提案をするサミュエルに、ノアは苦笑した。サミュエルは茶目っ気のある笑みを浮かべて、ノアの頬に口づける。
「それでもいいんじゃないかい? 次期領主が円満な結婚生活を過ごしていることは、民にとっても喜ばしいことだと思うよ」
「……でも――」
「それでも気になると言うなら、私だけに意識を向けてもらえるよう、もっと頑張るけど」
サミュエルがニコリと笑う。その笑みに含みを感じて、ノアは僅かに警戒した。
「……どう、頑張るのですか?」
「う~ん……こう、かな……」
「んっ!?」
サミュエルの顔が近づいてきたと思ったら、一瞬で唇を奪われていた。
貪るような口づけに、ノアが喘ぐように声をもらしながら、サミュエルにしがみつく。
快感を教え込まれた身体には、少々刺激が強い。昂ぶりそうになる身体を必死に抑え、口づけから逃れようとしても、サミュエルがそう簡単に許してくれるはずもない。
「まっ……ぁ……んんっ!」
このままでは、閨事になだれ込んでしまいかねないという危惧に襲われ、ノアはサミュエルを制止するために、なんとか顔を背けた。
追ってこようとするサミュエルの顔を両手で包み、ジトッと睨む。
「――駄目です! 明日は朝から予定がいっぱいなんですよ。立っていられなくなったら、どうするんですか」
「キスだけだよ。……それとも、ノアはその先も望んでいるのかい?」
「なっ!?」
ノアは顔を赤くして、言葉を失った。サミュエルのからかいにより、まるで自意識過剰だったように勘違いしてしまう。
確かにサミュエルがしていたのはキスだけで、その先を示唆してはいなかった。でも、ベッドの中で行われたら、当然想像くらいしてしまう。そのようにノアを育てたのはサミュエルだ。
「――もう! 知りません!」
サミュエルに背を向けて、少し距離をとる。すると、背後で少し慌てた気配があった。
「ごめん、ノア。だから、私に顔を見せて」
後ろから抱きついてきて、顔を覗き込まれる。そのしょんぼりとした顔を、ノアはじとりと睨んだ。
「……サミュエル様が、からかうせいですよ」
「うん、反省している。ただ、明日、人目を忘れるくらいキスをしていれば、ノアの緊張も和らぐのではないかと思って、提案したつもりだったんだけど」
そう言われた瞬間、ノアは『あ、その話をしていたんだった』と思い出した。途端に、パレード中に今のような熱烈な口づけをされているところを想像し、あまりの恥ずかしさに全身を赤く染める。
「っ、そのような提案を、受け入れるわけが、ないでしょう……!」
「そうかい? 良いと思ったんだけどね」
心底残念そうな声音で呟くサミュエルを、ノアは思わず同じ人間なのだろうかと疑ってしまった。ノアでは思いつきもしない発想である。
「……絶対にしませんよ?」
「うん、ノアが嫌がることはしないよ。そうだな……代わりに、パレードの間、手を繋いでおくかい?」
シーツを掴んでいたノアの手に、サミュエルの手が重なった。
ノアの手は小さくて、サミュエルの手にすっぽりと覆われる。その温もりに、心強さを感じて、ホッと気持ちが緩んだ。
「……はい」
サミュエルが傍にいてくれるなら大丈夫だと思えて、ノアは微笑む。途端に眠気がやってくるのだから、なんとも単純な性格だ。
ノアはサミュエルに頼り切っている自覚がある。だから、自分一人でも頑張れるようになろうと思っているのに、つい甘えてしまう。サミュエルが甘やかしてくるのだから、なおさら独り立ちできない。
サミュエルはノアをからかうし、振り回すこともあるけれど、誰よりも愛して、守ってくれる人なのだ。
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