内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

文字の大きさ
上 下
272 / 277

272.ゲームマスター?

しおりを挟む
「アシェル殿が言っていることが事実だとすると、これはゲームのシナリオを変えることができるアイテム――いや、この場合は、シナリオが変わったことによる反動を防ぐアイテム、ということかな?」

 サミュエルが問い掛けると、アシェルは自信なさそうに頷いた。

「たぶん、ですけど。まぁ、そのサージュ様という方が言っていた、運命のねじれによる反動というのが何か僕には分からないので、それが本当に効果のあるアイテムなのかどうかは……?」
「俺たちのように、転生者でゲーム知識を持っていたから、似たような腕輪に同じ名前をつけただけ、という可能性もあるな」

 アシェルに続いて、ライアンも少し否定的な意見を語る。
 ノアはサミュエルと顔を見合わせて首を傾げた。正直、どのような判断をするべきか難しい。

「……サージュ様が嘘をおっしゃっていないなら、転生者ではないはずです」
「そうだね。――あと、運命のねじれによる反動の一種が、前世の記憶を持つという埒外の存在が生まれることらしいよ」
「え、じゃあ、僕たちも、そのせいで?」

 サミュエルが付け足した言葉に、アシェルとライアンが目を見開く。

「……それなら、俺たちが生まれるより前に別のシナリオがあって、しかもそのシナリオが変更された、ということにならないか?」
「そうですよね。でも、僕はこの世界を題材にした別のゲームは知りませんけど……。第二弾の話じゃないですもんね?」
「時系列的に違うだろうな」

 アシェルとライアンの話を聞きながら、ノアの脳裏に浮かんでいたのは初代グレイ公爵に関する本だ。

 サージュがもたらした本に書かれていたのは、実際の出来事とは少し異なった内容。もし、サージュの本がシナリオというものを表していたなら、現実ではそのシナリオが変更されたことになる。

 随分昔の出来事が今になって影響するのだろうか、という疑問はあるものの、さほど不自然には感じない。
 むしろ、初代グレイ公爵がサミュエルと似ていて、その恋人だった人がノアと似ているという不思議な巡り合わせを考えると、驚くほど違和感がない気がする。

 アシェルを主人公としたシナリオが第一弾とすると、初代グレイ公爵が登場するシナリオが第ゼロ弾、アダムを主人公とするシナリオが第二弾ということだ。

「……輪廻の魔術師という人がどのような存在だったかは、一切情報がないのですか?」

 アシェルたちが口を噤んだ隙を狙い、問い掛ける。
 サージュの不思議な存在感はただ者ではない印象だった。だから輪廻の魔術師と言われても違和感はないけれど、もう少し情報がほしい。

 見つめるノアに、アシェルは困った顔をしながらも、必死に記憶を辿ってくれた。

「えーと……えーと……あ! 確か、『輪廻』って付くのはなんでだろうねって話から、不老不死か、何度も転生を繰り返している存在なんじゃないかって考察がありました」
「考察とは、誰が?」
「ゲームをしていた人たちです。そもそも輪廻の魔術師に会うことすら、どんな条件で発生する現象か掴むのが難しくて、ネット――広い範囲で情報を集めていた人がいたんです」

 ノアは頷きながらサミュエルに視線を向けた。
 サミュエルはサージュが年を重ねたように見えないことを訝しんでいたはずだ。ノアは不老不死なんておとぎ話の中の存在としか思えないけれど、転生者がいるのだから不老不死も絶対にないとは言えない。

「……不老不死、ね。だからといって、不思議な効果のアイテムを作れる理由にはならないと思うけど」
「サージュ様は優れた研究者ですよね?」
「おとぎ話の中の魔法みたいなアイテムを、研究で生み出せると思うのかい?」

 問い返されたノアは、暫く考えた後に、首を横に振った。
 サージュが行っている研究は、本を読む限り、各地の気候や土壌などの調査をもとに、作物の育生方法や災害対策を練るのが主だ。非現実的な思想は一切出てこない。
 だからこそ、ノアはサージュと会った時に、浮世離れした雰囲気に驚いたのだ。

「それは、もう、転生者とは違う埒外な存在ってことじゃないですか? 例えば、シナリオを作る側とか」

 アシェルが口を挟んでくる。その横で、ライアンは眉間に皺を寄せて考え込んでいた。

「シナリオを作る側というのは何ですか?」
「ゲームのシナリオは、本とかと同じで創作物でしょう? つまり、作家、制作者がいる。多くのゲームのお助けキャラって、結構制作側の意思を投影した存在が多いんですよね~」
「シナリオに自由をもたらすにしても、無節度な在り方はゲームとして成立できないからな。お助けキャラは自由度を増す存在であり、かつ制作側が操作可能な範囲におさめるためのファクターってことだろう」

 アシェルの言葉をライアンが補足する。
 それを黙って聞いていたサミュエルが小さく肩をすくめた。

「……どこまで事実か分からないけど、サージュが私たちとは違う存在というのは当たっている気がするね」
「そうですね。話している感じも不思議でしたし」

 謎は多いけれど、その謎こそがサージュという存在を示すものなのだろう。

しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...