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272.ゲームマスター?
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「アシェル殿が言っていることが事実だとすると、これはゲームのシナリオを変えることができるアイテム――いや、この場合は、シナリオが変わったことによる反動を防ぐアイテム、ということかな?」
サミュエルが問い掛けると、アシェルは自信なさそうに頷いた。
「たぶん、ですけど。まぁ、そのサージュ様という方が言っていた、運命のねじれによる反動というのが何か僕には分からないので、それが本当に効果のあるアイテムなのかどうかは……?」
「俺たちのように、転生者でゲーム知識を持っていたから、似たような腕輪に同じ名前をつけただけ、という可能性もあるな」
アシェルに続いて、ライアンも少し否定的な意見を語る。
ノアはサミュエルと顔を見合わせて首を傾げた。正直、どのような判断をするべきか難しい。
「……サージュ様が嘘をおっしゃっていないなら、転生者ではないはずです」
「そうだね。――あと、運命のねじれによる反動の一種が、前世の記憶を持つという埒外の存在が生まれることらしいよ」
「え、じゃあ、僕たちも、そのせいで?」
サミュエルが付け足した言葉に、アシェルとライアンが目を見開く。
「……それなら、俺たちが生まれるより前に別のシナリオがあって、しかもそのシナリオが変更された、ということにならないか?」
「そうですよね。でも、僕はこの世界を題材にした別のゲームは知りませんけど……。第二弾の話じゃないですもんね?」
「時系列的に違うだろうな」
アシェルとライアンの話を聞きながら、ノアの脳裏に浮かんでいたのは初代グレイ公爵に関する本だ。
サージュがもたらした本に書かれていたのは、実際の出来事とは少し異なった内容。もし、サージュの本がシナリオというものを表していたなら、現実ではそのシナリオが変更されたことになる。
随分昔の出来事が今になって影響するのだろうか、という疑問はあるものの、さほど不自然には感じない。
むしろ、初代グレイ公爵がサミュエルと似ていて、その恋人だった人がノアと似ているという不思議な巡り合わせを考えると、驚くほど違和感がない気がする。
アシェルを主人公としたシナリオが第一弾とすると、初代グレイ公爵が登場するシナリオが第ゼロ弾、アダムを主人公とするシナリオが第二弾ということだ。
「……輪廻の魔術師という人がどのような存在だったかは、一切情報がないのですか?」
アシェルたちが口を噤んだ隙を狙い、問い掛ける。
サージュの不思議な存在感はただ者ではない印象だった。だから輪廻の魔術師と言われても違和感はないけれど、もう少し情報がほしい。
見つめるノアに、アシェルは困った顔をしながらも、必死に記憶を辿ってくれた。
「えーと……えーと……あ! 確か、『輪廻』って付くのはなんでだろうねって話から、不老不死か、何度も転生を繰り返している存在なんじゃないかって考察がありました」
「考察とは、誰が?」
「ゲームをしていた人たちです。そもそも輪廻の魔術師に会うことすら、どんな条件で発生する現象か掴むのが難しくて、ネット――広い範囲で情報を集めていた人がいたんです」
ノアは頷きながらサミュエルに視線を向けた。
サミュエルはサージュが年を重ねたように見えないことを訝しんでいたはずだ。ノアは不老不死なんておとぎ話の中の存在としか思えないけれど、転生者がいるのだから不老不死も絶対にないとは言えない。
「……不老不死、ね。だからといって、不思議な効果のアイテムを作れる理由にはならないと思うけど」
「サージュ様は優れた研究者ですよね?」
「おとぎ話の中の魔法みたいなアイテムを、研究で生み出せると思うのかい?」
問い返されたノアは、暫く考えた後に、首を横に振った。
サージュが行っている研究は、本を読む限り、各地の気候や土壌などの調査をもとに、作物の育生方法や災害対策を練るのが主だ。非現実的な思想は一切出てこない。
だからこそ、ノアはサージュと会った時に、浮世離れした雰囲気に驚いたのだ。
「それは、もう、転生者とは違う埒外な存在ってことじゃないですか? 例えば、シナリオを作る側とか」
アシェルが口を挟んでくる。その横で、ライアンは眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「シナリオを作る側というのは何ですか?」
「ゲームのシナリオは、本とかと同じで創作物でしょう? つまり、作家、制作者がいる。多くのゲームのお助けキャラって、結構制作側の意思を投影した存在が多いんですよね~」
「シナリオに自由をもたらすにしても、無節度な在り方はゲームとして成立できないからな。お助けキャラは自由度を増す存在であり、かつ制作側が操作可能な範囲におさめるためのファクターってことだろう」
アシェルの言葉をライアンが補足する。
それを黙って聞いていたサミュエルが小さく肩をすくめた。
「……どこまで事実か分からないけど、サージュが私たちとは違う存在というのは当たっている気がするね」
「そうですね。話している感じも不思議でしたし」
謎は多いけれど、その謎こそがサージュという存在を示すものなのだろう。
サミュエルが問い掛けると、アシェルは自信なさそうに頷いた。
「たぶん、ですけど。まぁ、そのサージュ様という方が言っていた、運命のねじれによる反動というのが何か僕には分からないので、それが本当に効果のあるアイテムなのかどうかは……?」
「俺たちのように、転生者でゲーム知識を持っていたから、似たような腕輪に同じ名前をつけただけ、という可能性もあるな」
アシェルに続いて、ライアンも少し否定的な意見を語る。
ノアはサミュエルと顔を見合わせて首を傾げた。正直、どのような判断をするべきか難しい。
「……サージュ様が嘘をおっしゃっていないなら、転生者ではないはずです」
「そうだね。――あと、運命のねじれによる反動の一種が、前世の記憶を持つという埒外の存在が生まれることらしいよ」
「え、じゃあ、僕たちも、そのせいで?」
サミュエルが付け足した言葉に、アシェルとライアンが目を見開く。
「……それなら、俺たちが生まれるより前に別のシナリオがあって、しかもそのシナリオが変更された、ということにならないか?」
「そうですよね。でも、僕はこの世界を題材にした別のゲームは知りませんけど……。第二弾の話じゃないですもんね?」
「時系列的に違うだろうな」
アシェルとライアンの話を聞きながら、ノアの脳裏に浮かんでいたのは初代グレイ公爵に関する本だ。
サージュがもたらした本に書かれていたのは、実際の出来事とは少し異なった内容。もし、サージュの本がシナリオというものを表していたなら、現実ではそのシナリオが変更されたことになる。
随分昔の出来事が今になって影響するのだろうか、という疑問はあるものの、さほど不自然には感じない。
むしろ、初代グレイ公爵がサミュエルと似ていて、その恋人だった人がノアと似ているという不思議な巡り合わせを考えると、驚くほど違和感がない気がする。
アシェルを主人公としたシナリオが第一弾とすると、初代グレイ公爵が登場するシナリオが第ゼロ弾、アダムを主人公とするシナリオが第二弾ということだ。
「……輪廻の魔術師という人がどのような存在だったかは、一切情報がないのですか?」
アシェルたちが口を噤んだ隙を狙い、問い掛ける。
サージュの不思議な存在感はただ者ではない印象だった。だから輪廻の魔術師と言われても違和感はないけれど、もう少し情報がほしい。
見つめるノアに、アシェルは困った顔をしながらも、必死に記憶を辿ってくれた。
「えーと……えーと……あ! 確か、『輪廻』って付くのはなんでだろうねって話から、不老不死か、何度も転生を繰り返している存在なんじゃないかって考察がありました」
「考察とは、誰が?」
「ゲームをしていた人たちです。そもそも輪廻の魔術師に会うことすら、どんな条件で発生する現象か掴むのが難しくて、ネット――広い範囲で情報を集めていた人がいたんです」
ノアは頷きながらサミュエルに視線を向けた。
サミュエルはサージュが年を重ねたように見えないことを訝しんでいたはずだ。ノアは不老不死なんておとぎ話の中の存在としか思えないけれど、転生者がいるのだから不老不死も絶対にないとは言えない。
「……不老不死、ね。だからといって、不思議な効果のアイテムを作れる理由にはならないと思うけど」
「サージュ様は優れた研究者ですよね?」
「おとぎ話の中の魔法みたいなアイテムを、研究で生み出せると思うのかい?」
問い返されたノアは、暫く考えた後に、首を横に振った。
サージュが行っている研究は、本を読む限り、各地の気候や土壌などの調査をもとに、作物の育生方法や災害対策を練るのが主だ。非現実的な思想は一切出てこない。
だからこそ、ノアはサージュと会った時に、浮世離れした雰囲気に驚いたのだ。
「それは、もう、転生者とは違う埒外な存在ってことじゃないですか? 例えば、シナリオを作る側とか」
アシェルが口を挟んでくる。その横で、ライアンは眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「シナリオを作る側というのは何ですか?」
「ゲームのシナリオは、本とかと同じで創作物でしょう? つまり、作家、制作者がいる。多くのゲームのお助けキャラって、結構制作側の意思を投影した存在が多いんですよね~」
「シナリオに自由をもたらすにしても、無節度な在り方はゲームとして成立できないからな。お助けキャラは自由度を増す存在であり、かつ制作側が操作可能な範囲におさめるためのファクターってことだろう」
アシェルの言葉をライアンが補足する。
それを黙って聞いていたサミュエルが小さく肩をすくめた。
「……どこまで事実か分からないけど、サージュが私たちとは違う存在というのは当たっている気がするね」
「そうですね。話している感じも不思議でしたし」
謎は多いけれど、その謎こそがサージュという存在を示すものなのだろう。
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◇長編◇
本編完結
『貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです』
本編・続編完結
『雪豹くんは魔王さまに溺愛される』書籍化☆
完結『天翔ける獣の願いごと』
◇短編◇
本編完結『悪役令息になる前に自由に生きることにしました』
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