内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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261.道中の秘め事

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 ノアの祈りは届かず、馬車が領地に向けて動き始める頃には、しとしとと小雨が降っていた。こうなれば、窓を開けても雨粒が入ってくるだけなので、閉ざして馬車に籠もるしかない。思っていたより、警護の者たちがさほど気に留めていない様子なのが救いだった。

「明日には、雨がやむといいのですが……」

 ノアはサミュエルに身を預けながら呟く。馬車の中はサミュエルと二人きりで、穏やかな空気が満ちていた。頬を撫でる手にすり寄りながら目を細める。
 二泊三日の予定の旅の大部分を馬車の中で過ごすことになる。だから、時間を潰すために本の類は持ち込んでいるのだけれど、今は手を伸ばす気になれない。

「そうだね。でも、こうして閉め切った場所で二人きりで過ごすのも、私は楽しいけれど」
「僕も、嫌ではないですけど……?」

 思っていたよりもサミュエルが上機嫌なので、ノアは小さく首を傾げる。サミュエルの顔を覗き込むと、にこりと笑みが返ってきた。その完璧すぎる笑みが、ノアに警戒心を抱かせる。

「何をっ――」

 問いを口にしていた唇がしっとりと塞がれた。ノアはきょとんと目を瞬かせ、間近にあるサミュエルの瞳を見つめる。
 甘く優しい感情の奥に、熱情が滲んでいるのが分かって、目を見開いた。

「んっ……ぅ……ぁ」

 胸を押して離れようとするノアの両手がサミュエルの片手に掴まれる。そのまま噛みつくように口づけられて、ノアは苦しさに喘いだ。突然のことに、上手く呼吸できない。
 奥に引っ込めた舌を捕らえられる。クチュリと音を立てて舌が絡み、吸い付いてくるので、かぁっと顔が熱くなった。

 いくら馬車の音が大きいとはいえ、この音が外に届かないとは限らない。馬車の横には、警護のものが並走しているのだ。今にも気づかれてしまうのではないかと、心臓が痛いくらい拍動した。

「サミュエル様っ……」

 唇が離れた瞬間に、喘ぐように名を呼んで制止をする。サミュエルはちゅ、ちゅ、と軽く唇をついばみ、楽しそうに目を細めてノアを見つめた。

「――だめ、ですっ」

 快感を覚えてしまった身体は、サミュエルに愛されて容易に昂る。首筋に吸い付かれて甘い痛みを感じ、ノアは「ぁ……」と息をこぼしながら身じろいだ。
 このままでは、後戻りできなくなってしまう。こんなに周囲を人に囲まれている状況で、欲を抱いてしまう淫らさに、目を潤ませた。

「……馬車と雨の音が、全てを消してくれるよ」

 耳元で熱い声が囁く。心がぐらりと揺らいだ。
 いつの間にか服が乱されて、薄い肌の上をサミュエルの熱い手が這う。そこから甘い痺れが全身に広がり、腹の奥の方が重くなるような感覚があった。下衣の前たての辺りを撫でられると、ノアはビクビクッと震えてのけぞる。

「ぁ、うぅ……」

 声を出すまいと必死に唇に力を入れる。両手が自由になれば、もっと楽に塞げるのに。
 薄目でサミュエルを睨むと、小さく首を傾げられる。その後、何かを思いついたように口元に笑みを浮かべるので、ノアは反射的に警戒して身を固くした。

「声が気になるなら、私が塞いであげるよ」

 蕩けるような甘い声音で囁かれる。ノアがきょとんと瞬きをして、固まっている隙をつくように、サミュエルの唇がノアに触れた。閉ざされた唇をこじ開けて、舌が歯列を割って入ってくる。
 口全体が塞がれて、確かに声は漏れにくくなったけれど、その分苦しさが募る。

「んんっ……ふ、ぁ」

 下衣のボタンが外されて、下着の中にまで手が入り込んでくる。クチュッと音がして、そこが既に先走りをこぼしていることを知り、ノアは羞恥のあまり目に涙を浮かべた。
 腰を引きたいのに、狭い馬車の中でサミュエルによって背もたれに押し付けられた体勢では、ろくに逃げることができない。

 遠慮のない手が先端を撫で、溢れた先走りで全体を扱くように蠢く。ノアは震えながら快感を甘受するしかなくて、ポロリと涙をこぼした。甘い吐息は全てサミュエルに呑み込まれていく。

「んぁっ、んんっ!」

 サミュエルの手管にかかれば、快感を受け流すすべを知らないノアはひとたまりもなく、あっさりと放埒を遂げる。
 ガクガクと身体を震わせながら吐き出した後は、身体中の力が抜けて背もたれにぐったりと身を預けた。

「ノア、気持ちよかったかい」
「……駄目だと、言ったのに」

 顔を覗き込んでくるサミュエルをじとりと睨む。荒い呼吸を整えながらの言葉は、掠れて甘い響きに聞こえた。ノアは自分の痴態に動揺して、そっと目を逸らす。

「うん。聞いてはいたよ」
「……聞いた上で、無視したんですね?」
「ノアが可愛くて、とまらなかったんだよ」

 そんな言葉で誤魔化されると思っているのかと不満に思い、ノアは眉を顰めながら口を閉ざす。でも、頬に優しく口付けられて、ほだされそうになる自分に、ほとほと呆れてしまった。

「もう、駄目ですからね」
「……私は、おさまっていないんだけど」
「なっ!?」

 手を導かれて、サミュエルの腰に押し付けられる。そこが硬く張り詰めているのを感じ取って、ノアは顔を真っ赤に染めて固まった。拒む言葉さえ出てこない。
 そんなノアに微笑みかけたサミュエルは、唐突に体勢を変えた。ノアを膝の上に抱き上げて向かい合う。ついでとばかりに下衣を床に落とされたので、地肌にサミュエルの服が触れた。

「……やっ、だめっ、んぅ」

 大きく脚を開くような体勢に、ノアが逃げようと腰を引くと、サミュエルに力強く抱きしめられる。同時に唇が塞がれて、抗議の声が呑み込まれた。
 後孔に硬いものが触れている。それがすりすりと表面を撫でてきて、ビクッと身体が震えた。ノアはもう、それがどのように自分の身体を甘く苛むのか知っている。思い出した感覚がさらに快感を煽り、ノアはどうしようもなく甘く吐息をこぼした。

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