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259.あと引く甘さ
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空高く昇った太陽。
その日差しに明るく照らされるテラスの端に、パラソルがかけられていた。パラソルの下にはソファとテーブルが並ぶ。
ノアとサミュエルはそこで遅めの昼食をとっていた。
「……ノア、そろそろ機嫌を直して?」
ちょん、と苺が唇に寄せられる。ノアは顔を覗き込んでくるサミュエルから視線を逸らしながら、小さく噛みついた。じゅわりと口内を満たす淡い酸味のある甘さが喉に心地良い。
「美味しい?」
ノアを膝の上に抱き上げて、せっせと口元に果物を運んでいたサミュエルが、ふわりと微笑む。その幸福感に満ちた表情をチラリと見て、ノアは頬を染めて小さく頷いた。
ノアは別にサミュエルに怒っているわけではない。夜から朝まで、なんともひどいことをされたような気がするけれど、それを受け入れたのがノア自身であることは分かっている。
それでは、なぜノアがサミュエルに「機嫌が悪い」と思われるような態度をとっているかと言うと――羞恥心に他ならなかった。
(サミュエル様が悪い……。起きたときからずっと、声も、表情も甘いんだもの……。そんな優しくて甘い目を向けられて、冷静でいられるわけがないでしょう……)
ノアはサミュエルを見る度に、夜の営みのことを思い出して身悶えそうになる。サミュエルのように、堂々と喜び幸福感に浸れるほど、強い精神は持っていない。たぶん多くの人が理解しているだろうけれど、ノアは非常に繊細なのだ。
今の体勢だって、本当は拒否したいくらいだ。でも、サミュエルを傷つけてしまうのは嫌だから、言葉を呑み込んでじっと腕の中に留まっている。
給仕のために近くで控えているロウの生温かい眼差しに、心がくじけてしまいそうになっているけれど。どうして、サミュエルはまったく気にしないでいられるのか。
「あ、これ、甘いよ」
「ん……っ」
苺の次に差し出されたのはマスカットだ。噛むとじゅわっと果汁が溢れて口元を汚した。
慌ててナフキンに手を伸ばすノアを制止するように、サミュエルが顔を寄せ舌を這わせる。
「――サミュエル様っ」
「ふふ、甘くて美味しいね」
首筋まで垂れてしまった果汁を舌が追う。その刺激だけで、まだ過敏になっている肌が粟立つような快感が走った。
ノアは咄嗟にサミュエルの胸に手をついて離れようとするも、抱きしめる腕の力を強めたサミュエルに負けてしまう。
「――ここ、たくさん跡が残っているよ」
「っ、つけたの、サミュエル様、ですっ!」
果汁はもう綺麗になったはずなのに、サミュエルの唇はノアの肌を撫で、甘く噛みついてくる。ノアは身体を震わせながら、サミュエルの肩を軽く叩いて、離してくれるよう頼んだ。サミュエルがそれを聞いてくれる気配はなかったけれど。
「そうだね。ノアの肌は白くて、跡をつけるのが楽しくて仕方ないよ」
「もう、だめ、ですよっ」
手のひらで首筋を覆い、サミュエルを軽く睨む。ようやく離れてくれたサミュエルは、楽しそうに微笑みながら肩をすくめ「残念」と呟いた。
「今は、ご飯の時間、です」
「そうだね。次は、この桃はどう?」
ノアは果汁が滴りそうな桃を見て、首を横に振った。桃は好物だけれど、今食べたらマスカットの時と同じ展開になりそうだ。
「……サンドウィッチ」
「いいね。……きゅうりのサンドウィッチ? ちょっと寂しくないかい?」
「うちでは、よく出るメニューです」
「へぇ。グレイ家だと、ハムとレタスのサンドウィッチが多かったよ」
差し出された一口大のサンドウィッチを食べる。サミュエルも口に運び、「あ、これ、ドレッシングが美味しい。きゅうりのサンドウィッチもいいね」と満足そうな顔をしていた。
少しずつお互いの生活を知っていけている気がして、なんだか嬉しくなる。
「次は?」
「んん……飲み物がほしいです」
「紅茶があるよ」
カップを傾けたサミュエルが紅茶を口に含む。てっきり渡してもらえるのだと思っていたノアは、きょとんと見つめてしまった。
「ん……」
「ちょっ……ん……」
顔が近づいてきて唇が重なると同時に、温かいものが口内に流れ込んでくる。ノアは驚きながらも、むせないように慎重に飲み込んだ。
今さらながら気づいたけれど、なにも、サミュエルに全てを手にとって与えてもらう必要はないのではないか。ノアは疲れ切ってはいるけれど、病人でもけが人でもないし、手はちゃんと動かせるのだ。
コクコクと嚥下しながら目を伏せて考え込んでいたノアは、サミュエルの雰囲気がじわりと怪しい方へと傾いていくことに気づくのが遅れた。
「んっ!?」
「ふ……」
クチュッと舌が絡みついてくる。口蓋をくすぐる舌の動きに、ノアはビクッと身体を震わせて、咄嗟にサミュエルの肩にしがみついた。
まだ快感の熾火が残っているような身体に、この刺激は強すぎる。容易に煽られて、ノアの身体から力が抜けていった。
「ゃ、ぁ……」
駄目だと訴えても、すぐに熱いキスに呑み込まれる。このままでは、午後の時間までベッドの中で過ごしてしまうことになると察しているのに、なかなか引き離すことができなかった。
ノアだって気持ちいいと感じているのは間違いなくて、サミュエルの愛情を受け止めるのは嬉しくてたまらないのだから。
その日差しに明るく照らされるテラスの端に、パラソルがかけられていた。パラソルの下にはソファとテーブルが並ぶ。
ノアとサミュエルはそこで遅めの昼食をとっていた。
「……ノア、そろそろ機嫌を直して?」
ちょん、と苺が唇に寄せられる。ノアは顔を覗き込んでくるサミュエルから視線を逸らしながら、小さく噛みついた。じゅわりと口内を満たす淡い酸味のある甘さが喉に心地良い。
「美味しい?」
ノアを膝の上に抱き上げて、せっせと口元に果物を運んでいたサミュエルが、ふわりと微笑む。その幸福感に満ちた表情をチラリと見て、ノアは頬を染めて小さく頷いた。
ノアは別にサミュエルに怒っているわけではない。夜から朝まで、なんともひどいことをされたような気がするけれど、それを受け入れたのがノア自身であることは分かっている。
それでは、なぜノアがサミュエルに「機嫌が悪い」と思われるような態度をとっているかと言うと――羞恥心に他ならなかった。
(サミュエル様が悪い……。起きたときからずっと、声も、表情も甘いんだもの……。そんな優しくて甘い目を向けられて、冷静でいられるわけがないでしょう……)
ノアはサミュエルを見る度に、夜の営みのことを思い出して身悶えそうになる。サミュエルのように、堂々と喜び幸福感に浸れるほど、強い精神は持っていない。たぶん多くの人が理解しているだろうけれど、ノアは非常に繊細なのだ。
今の体勢だって、本当は拒否したいくらいだ。でも、サミュエルを傷つけてしまうのは嫌だから、言葉を呑み込んでじっと腕の中に留まっている。
給仕のために近くで控えているロウの生温かい眼差しに、心がくじけてしまいそうになっているけれど。どうして、サミュエルはまったく気にしないでいられるのか。
「あ、これ、甘いよ」
「ん……っ」
苺の次に差し出されたのはマスカットだ。噛むとじゅわっと果汁が溢れて口元を汚した。
慌ててナフキンに手を伸ばすノアを制止するように、サミュエルが顔を寄せ舌を這わせる。
「――サミュエル様っ」
「ふふ、甘くて美味しいね」
首筋まで垂れてしまった果汁を舌が追う。その刺激だけで、まだ過敏になっている肌が粟立つような快感が走った。
ノアは咄嗟にサミュエルの胸に手をついて離れようとするも、抱きしめる腕の力を強めたサミュエルに負けてしまう。
「――ここ、たくさん跡が残っているよ」
「っ、つけたの、サミュエル様、ですっ!」
果汁はもう綺麗になったはずなのに、サミュエルの唇はノアの肌を撫で、甘く噛みついてくる。ノアは身体を震わせながら、サミュエルの肩を軽く叩いて、離してくれるよう頼んだ。サミュエルがそれを聞いてくれる気配はなかったけれど。
「そうだね。ノアの肌は白くて、跡をつけるのが楽しくて仕方ないよ」
「もう、だめ、ですよっ」
手のひらで首筋を覆い、サミュエルを軽く睨む。ようやく離れてくれたサミュエルは、楽しそうに微笑みながら肩をすくめ「残念」と呟いた。
「今は、ご飯の時間、です」
「そうだね。次は、この桃はどう?」
ノアは果汁が滴りそうな桃を見て、首を横に振った。桃は好物だけれど、今食べたらマスカットの時と同じ展開になりそうだ。
「……サンドウィッチ」
「いいね。……きゅうりのサンドウィッチ? ちょっと寂しくないかい?」
「うちでは、よく出るメニューです」
「へぇ。グレイ家だと、ハムとレタスのサンドウィッチが多かったよ」
差し出された一口大のサンドウィッチを食べる。サミュエルも口に運び、「あ、これ、ドレッシングが美味しい。きゅうりのサンドウィッチもいいね」と満足そうな顔をしていた。
少しずつお互いの生活を知っていけている気がして、なんだか嬉しくなる。
「次は?」
「んん……飲み物がほしいです」
「紅茶があるよ」
カップを傾けたサミュエルが紅茶を口に含む。てっきり渡してもらえるのだと思っていたノアは、きょとんと見つめてしまった。
「ん……」
「ちょっ……ん……」
顔が近づいてきて唇が重なると同時に、温かいものが口内に流れ込んでくる。ノアは驚きながらも、むせないように慎重に飲み込んだ。
今さらながら気づいたけれど、なにも、サミュエルに全てを手にとって与えてもらう必要はないのではないか。ノアは疲れ切ってはいるけれど、病人でもけが人でもないし、手はちゃんと動かせるのだ。
コクコクと嚥下しながら目を伏せて考え込んでいたノアは、サミュエルの雰囲気がじわりと怪しい方へと傾いていくことに気づくのが遅れた。
「んっ!?」
「ふ……」
クチュッと舌が絡みついてくる。口蓋をくすぐる舌の動きに、ノアはビクッと身体を震わせて、咄嗟にサミュエルの肩にしがみついた。
まだ快感の熾火が残っているような身体に、この刺激は強すぎる。容易に煽られて、ノアの身体から力が抜けていった。
「ゃ、ぁ……」
駄目だと訴えても、すぐに熱いキスに呑み込まれる。このままでは、午後の時間までベッドの中で過ごしてしまうことになると察しているのに、なかなか引き離すことができなかった。
ノアだって気持ちいいと感じているのは間違いなくて、サミュエルの愛情を受け止めるのは嬉しくてたまらないのだから。
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