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258.夜が明けるにはまだ早い

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「ぅ……ん……」

 衣擦れの音で意識が浮上していく。
 くっついてしまったように重い瞼に振り絞った力を込めて薄目を開くと、ぼんやりと明るい部屋が見えた。

「ノア? 起きたのかい」
「ぁ……」

 耳の後ろにキスされる感触で、ハッと気づく。なんだか暖かいと思ったのは、サミュエルに後ろから抱きしめられていたからのようだ。
 ついでのように耳の端を軽く噛まれ、痺れるような感覚が走り、ビクッと身体を震わせる。その動きで、中に埋められたままの存在に気づいた。反射的に、きゅうっと締めつけてしまう。

「っ、ぁ……サミュエル、さま……まだ……」
「うん。ノアが途中で寝てしまうから――」

 答えとともに、グッと腰を押し付けられて、ノアは甘く呻く。
 快感に押し流されそうになる思考をなんとか繋ぎ止め、必死に夜のことを思い出した。

「ん……ぁ、ん……?」

 初夜はちゃんとこなせたはずだ。閨教育で学んだことなんて、実際には全然役に立たなくて、ただひたすら翻弄されていた気がするけれど、問題はなかったはずだ。
 ノアはサミュエルを受け入れられたし、サミュエルも満足しているように見えた。

(問題は、その後、だよね……)

 内壁を擦られ、煽られる快感から必死に意識を逸らし、ノアは頭を抱えたい気分になっていた。

 初夜とは普通、一度出したら終わるものではないのか。初めてなのだから、そこは気遣いをしてくれるのが当然ではないのか。何度も求めてくるサミュエルに、ノアが拒否しきれず受け入れてしまったのはよくないとは思うけれど、それでも意識を失うまでするのは、ダメではないだろうか。

「考えごとかい?」
「ぁ、ん……」

 首筋に吸い付かれ、甘い声がもれる。どこを触られても、感じすぎてつらい。
 ノアはぎゅっと目を瞑り、サミュエルの腕に爪を立てた。少しでも抗議の意思が伝わればいいと思ったのに、返ってきたのはクツクツと笑う声だった。

「猫の子みたいで可愛い」
「も、ぅ……だめ、ですっ」

 言葉でも、態度でも、サミュエルを止められない。ノアは泣きそうになりながら、必死に声を上げた。

「ん……もう少しだけ」

 ノアの頭に擦りつくように、サミュエルが顔を寄せる。甘えるような声音に愛おしさが湧き上がり、つい許してしまいそうになった。その可愛い仕草とは裏腹に、ゆったりと突き上げてくる動きはノアにどうしようもなく悦楽をもたらしてくるのだけれど。

「ぁ、ん……」
「あと、一回だけ。……ね?」

 ノアの迷いを察したように、サミュエルがねだってくる。

(いっかい、だけ……それなら、まぁ……いいの、かな……?)

 襲い来る快感に抵抗する方が疲れる気がして、ノアの思考が楽な方に流されていく。そもそも、体力的にきついというだけで、サミュエル自身を拒んでいるわけではないのだ。求められるのは嬉しいし、できるだけ望みを叶えてあげたいという思いもある。

「ん……ぜった、ぃ、です、ね?」
「約束するよ」
「じゃあ、まぁ……――っああっ!」

 頷いたノアの返事を待っていたように、力強く最奥が突かれる。ノアはシーツをギュッと握りしめ、反射的に逃げ出そうと身体に力を込めた。あいにく、疲れ切った身体は思うように動いてくれなくて、ただ中を締めるだけになってしまったけれど。

「っ、ふ……気持ちいいよ。きゅうきゅうとうねっているの、分かるかい?」
「ゃ、あ、いわ、ない、で……!」
「ここを触られるのも好きだよね」
「ぁっ……!」

 サミュエルがノアの胸の尖りをつまみ、クニクニと転がす。そこから痺れるような快感が全身に広がって、ノアはガクガクと身体を震わせた。
 一晩かけてノアの身体を知り尽くしたサミュエルは、弱いところを刺激してはノアの反応を楽しんでいる雰囲気だった。敏感すぎる肌を刺激されるノアの方は、たまったものではないのだけれど、抗議したくてもその余裕がない。

 ――トントントン。

 昨晩から酷使し続けた喉が限界で、喘ぐ声すら絶え絶えになるノアの耳に、小さな音が聞こえた。サミュエルの動きが止まったおかげで、少しだけ思考力が戻ってくる。

「……なんだい?」
「起床のお時間ですが」

 ロウの声だった。
 それに気づいた瞬間、ノアの身体がピシリと固まる。でも、反動で中を締めつけ、埋められているものの存在感をまざまざと感じてしまい、「ぅっ……」と声がもれてしまった。
 ロウには聞こえていないだろうけれど、あまりに気まずい。

「……サミュエル、さま……離、して、くださぃ……」
「約束したのに?」

 小声で訴えると、不満そうな声が返ってくる。
 もう一回だけと約束したのは確かだけれど、それはサミュエルに無理やり納得させられたようなもので――なんて言う前に、腰をグッと突き上げられて、ノアは咄嗟に口に手のひらを押し付けた。

「っ!? ふっ、ん、ん」
「――今日はまだノアを休ませるよ」
「っ、ぅ……ん、っ」
「……かしこまりました。朝食の準備はいかがなさいますか?」
「朝食ね……。いらないかな。起きたら軽めの昼食をとるよ」

 ノアを攻めながらロウとの会話を続けるサミュエルに、目眩がする。喘ぐ声や物音が聞かれてしまわないかと、ノアはハラハラしているというのに、サミュエルのこの冷静な声音はなんなのだろう。
 段々と腹が立ってきたノアは、意識して後孔に力を込めた。蕩けていた内壁が、サミュエルのものにきつく絡みつく。

「――っ……ふ、ぅ……」

 乱れた熱い呼気がノアの耳をくすぐった。それにしてやったりと思えたら良かったのだけれど、自分の行動でさらに快感を強めてしまっていたノアは、必死に身体を丸めてイきそうになるのをこらえる。

「っ! ぁ、んん、ぅ」
「……では、昼前にまた参ります」
「ああ……そうしてくれ」

 吐息混じりに答える声を聞いて、ノアは少し安心した。これでロウが立ち去れば、今していることに気づかれることはないわけで――。

「サミュエル様」
「なんだい?」
「ノア様でお遊びになるのは、ほどほどになさってください」
「ふっ……分かったよ」
「ぇ……?」

 ロウが離れていく気配を感じながら、ノアは大きく目を見開いて固まっていた。
 そんなノアの耳をなぞるように、熱い舌が這う。時折触れる硬い歯の感触に、ビクッと身体が震えた。

「ようやく、落ち着いてできるよ。ノアが頑張ってくれたのに、こたえられなくてごめんね」
「な、に……?」
「ここを締めて、『もっとして』ってねだってくれただろう?」
「ぁあっ!」

 グチュッと淫らな音を立てて、中がかき混ぜられる。
 ノアは悲鳴のような嬌声を上げながら、シーツにしがみついて顔を押し付けた。もう声を出したところでサミュエルしか聞く人はいないと分かっていたけれど、朝の日差しで明るくなった部屋で、はしたなく喘ぐのはあまりに恥ずかしい。

「起きるまで、まだたっぷり時間があるからね。ゆっくり楽しもうか」
「っひ、ぅ……いっかい、って……」
「うん。……どれだけ長くても、一回は一回だよ」
「ひど……ぁんっ」

 ノアの抗議は、最奥を突かれて、嬌声に飲み込まれる。
 サミュエルが落ち着くまでには、まだまだ時間がかかりそうな気配だ。ノアは諦観混じりの息をついて、目を伏せた。

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