内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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254.初夜②

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 視線が絡み、近づく。目を伏せて受け入れると、唇に柔らかな熱が触れた。
 優しく触れるだけだったそれが、次第に食らいつくように激しさを増していくと、ノアはあっさりとサミュエルに翻弄されてしまう。

「んっ、……ふ、ぅ……っ」

 ノアはサミュエルに縋りつき、身体を震わせる。泣き声のような吐息がこぼれるのが、ひどく恥ずかしかった。
 サミュエルの手がノアを宥めるように頬に触れる仕草にも、欲を煽られてしまう。
 暫くして唇が離れたときには、喘ぐような荒い呼吸になっていた。

「……素敵な夜衣だけど、自分で選んだのかい?」

 ノアの濡れた唇を親指でなぞりながら、サミュエルが目を細める。喜色が滲んだ声音に、ノアは一瞬何を言われたか理解できなくて、きょとんとしてしまった。

「これのことだよ」
「ぁ……」

 サミュエルに袖を軽く引っ張られて、ようやく思い出す。いつの間にか部屋の明かりが落とされ、ベッドサイドの明かりだけが視界を照らしていたけれど、自分が纏った服は十分判別がついた。
 明かりに照らされ、透けた生地から白い肌が浮かび上がるように見えている。淡い紫で彩られたそれが、あまりに淫らに思えて、ノアはぎゅっと目を瞑って逃げた。すぐに抱きしめられて、身動ぎさえ難しくなったけれど。

「こら、逃げないで」
「だって……恥ずかしいですっ」
「ふ~ん? その反応だと、自分で選んだわけじゃないんだね。とても似合っていて、煽情的で、センスがいい。――お義母上のご厚意かな」

 喉の奥でクツクツと笑う音が聞こえる。ご満悦そうなその声に、ノアは羞恥心が募る一方で、少し嬉しくなっていた。
 寝る時の服装をサミュエル好みにするなんて考えたこともなかったけれど、こうして喜んでもらえるなら、これからはノア自身でも頑張ってみようかなと思える。

「……サミュエル様は、どのような服がお好みですか?」
「ふふっ、私好みにしてくれるのかい? そうだなぁ――」

 チラリとサミュエルを窺うと、愉快そうに微笑まれた。額や瞼、こめかみ、頬などいたるところに触れていく唇を気にしながら、ノアはサミュエルの返事を待つ。

「……ノアなら何を着ていても素敵だろうけど、こうして隙がある服はとても良いね」
「隙? っ……!?」

 夜衣はいくつかのリボンで前合わせを止められていた。その隙間から、サミュエルの手が忍び入ってきて、ノアはビクッと身体が跳ねる。
 見開いたノアの瞳をサミュエルが覗き込み、にこりと微笑んだ。

「ほら、触りやすい」
「っ……サミュエル様、なんだかとても悪い男みたいな顔をしています」
「そんなに睨まないでほしいな。パートナーに煽情的な格好で誘われて、楽しまない男なんていないと思うんだけど」
「さ、そって、ませんっ」

 ノアの薄い腹を、悪戯な手が撫でる。どこを触ればノアが感じるのか熟知しているような動きに、ノアは声を震わせながら必死にもがいた。触れられたところから広がる甘い痺れに、どう対応したらいいかまったく分からない。

 サミュエルの肩を押し、シーツを掴んで逃げようとしても、腰のあたりにのしかかられると、ほとんど抵抗できない。そればかりか、押し付けられた腰にある硬い感触に気づいて、ノアはピシッと固まってしまう。
 ノアだって男だから、それが何か分からないなんて嘯くつもりはない。直接的にサミュエルの欲を突きつけられた気がして、腹の奥からじわじわと熱が上がってくる。

「――ふ、ぁ……っ」
「ノア、可愛いね」

 うっとりと囁いた唇が、ノアの首筋を這った。夜衣の内側に忍び込んだ手はより巧みに動き回り、腹から胸まで指先で愛撫する。
 チュッと吸われた刺激と共に、胸の尖りをつままれて、ノアはビクッと身体が跳ねた。

「あっ……!」

 自分のものとは思えないほど甘く掠れた声に、反射的に口を手のひらで塞ぐ。そんなノアの仕草を咎めるように、サミュエルが鎖骨に甘く噛みついた。ほんの少しの痛みの後に、舌先でくすぐられて、じわりと痺れが襲ってくる。

「んっ! ぅ……ふ、ぁ」
「……声を聞かせて?」

 手の甲に口付けられる。間近にある瞳には熱っぽく獰猛な光が宿り、囁きかける声は、どこか支配的だった。
 ノアは少し怯んで、瞳を潤ませる。いやいやと小さく首を振ると、サミュエルが仕方なさそうに微笑んだ。繕ったものであろうと、その笑みに滲む優しさに、心が緩む。

「――じゃあ、我慢できなくなるまで、そうしていていいよ」
「え……?」

 思わず目を丸くして固まってしまうノアに頓着せず、サミュエルは指先の動きを再開させる。
 胸や横腹などノアが敏感に反応するところを容赦なく責め立てる仕草に、ノアはぎゅっと目を瞑って耐えるしかなかった。

「ぁ、んっ……!」

 腰がスリッと押し付けられる。その仕草で、ノア自身も昂っているのを自覚した。互いを擦り合わせるような動きのあまりの淫らさに顔が熱くなり、涙が出そうなほどの羞恥心を覚える。

 なにより、そこから走る重く甘い痺れが、ノアを追い詰めていった。口を塞いだところで、跳ねる呼吸は隠しようもなく、ノアの興奮をサミュエルに伝えてしまう。

「っ、や、ぁ!」

 不意に片脚が持ち上げられて、ノアは目を見開く。ほのかな明るさの視界に、真白の自分の脚が見えた。長い丈の夜衣は腰のあたりまでたくし上げられ、ノアの肌を隠す機能を失っている。
 細い足首にサミュエルの手が這うのが見えて、ノアは目を逸らした。絡む指先の淫らさを、まざまざと見せられて、頭が茹だってしまいそうだ。

「ひ、ぅ……だめ……サミュエル、さま」
「ん? どうして。感じすぎてしまうから?」

 耳の形をなぞるように、サミュエルの舌が這う。いつの間にか胸元のリボンが外されていて、手が大胆に動き回っていた。足首を掴んでいた手は、少しずつ腰の方へと移動し、焦らされるような熱を覚える。

 サミュエルの動き一つ一つにノアはビクビクと反応し、次第に自分が何を言っているかさえ分からなくなっていった。

「や、ぁ! ん、あ……!」
「気持ちいいね」

 下腹部を撫でた熱い手が、下着の中まで忍び入り、先走りを全体に纏わせるように優しく撫でる。クチュクチュと水音が響き、ノアは無意識でシーツを蹴って、なんとか逃げようとしていた。

 もう耐えられない。乱暴に掴まれたわけでも、擦られたわけでもないのに、下腹部がグッと重くなる感覚が強すぎて、ノアは苦しいほどに感じてしまう。

「も、だめ、ですっ……!」

 声を抑えるなんて不可能で、役目を失った手をサミュエルの首元に回し、抱きつく。少しだけでいいから、手加減してほしかった。
 そんなノアの耳元で、サミュエルがフッと吐息をもらす。

「……まだ、始まったばかりだよ」

 その言葉と同時に、雫を零す先端を引っ掻くように刺激されて、ノアはのけぞり喘いだ。

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