内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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154.違和感②

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「初めの違和感とおっしゃったのですから、他にも何か引っかかっておられることがあるのでしょう。とりあえず、話していただけますか?」

 ノアと同様に、サミュエルも状況の把握を優先したのか、押し黙ったマーティンに話の続きを促す。依頼の体をとりながらも、ほぼ強制するような言い方だった。
 マーティンはそんなサミュエルの居丈高とも称せる態度に複雑な眼差しを向ける。でも、既に反抗することも諦めたのか、ため息混じりに話し始めた。

「……そうだな。と言っても、次に違和感を覚えたのは、随分間が空いてからだ」
「いつですか」
「うーん……明確な日付は分からない。だが、俺がはっきりと違和感を意識したのは、サミュエルとライアン王子に関する騒動を聞いた時だ」
「……へぇ、なるほど。貴国にはどのように伝わったのですか?」

 サミュエルは少し興味が湧いた様子で問いかける。でも、その口調は皮肉混じりで、あまり好意的な印象は受けない。

 ノアはその態度を、何度も騒動の話を蒸し返されてきたことによる苛立ちだと受け取った。でも、すぐにそれは間違いだと悟る。サミュエルがその程度のことで苛立ちを露わにすることはないのだ。

「……サミュエルは愛妾を許容する度量がないようだ、と聞いたな」
「っ……それは、事実からかけ離れて――」

 ノアは咄嗟に口を開いた。マーティンが言うのを躊躇った理由がよく分かるくらい、悪意を持って伝えられた情報だと思ったのだ。まるでサミュエルが悪いかのように言われて、ノアが嫌な気分になるのは仕方ない。

「分かっている。俺も自分で情報を集めて、サミュエルの方を咎めるのはおかしな話だと思ったし、憤りを抱いた。その情報を伝えてきた叔母上にも、な」
「……王妃、か」

 マーティンが苦笑しながらもらした情報源に、ルーカスが苦々しい表情でため息をつく。ルーカスは自身の母親である王妃を敬称すら付けずに、蔑んだように呼び、頭が痛そうに額を押さえた。

「予想通りではありますね」

 マーティンやルーカスと対照的に、サミュエルはあっさりとした態度で聞き流した。僅かに抱いたはずの苛立ちすら消し去り、思案気に首を傾げている。

(そういえば、グレイ公爵も王妃殿下には色々な思いがありそうだったな……。王妃殿下がカールトン国へ誤った情報を流している事実さえ分かれば、サミュエル様的には、それ以上関心を向ける必要のないことだったのかな……)

 元々サミュエルは自他に対する関心が薄い。例外はノアだけである。だから、サミュエル自身の悪評となりうる情報があろうと、サミュエルにとっては今後手を打つべき対象を見定めるための判断基準の一つにしかなりえないのだろう。

 その行動を起こす理由は、国や家の利益のためであり、貴族としての務めに則ったものでしかない。サミュエル自身の感情が、行動に反映されることはないのだ。

 そんなサミュエルの在り方が、ノアは少し悲しい。もっと利己的に行動してもいいと思うのだ。

 でも、そう思うのはノアだけで、他から見るとサミュエルは十分に我儘で利己的だと言われるのかもしれない。ノアに関することに対しては、サミュエルは非常に感情に忠実に行動することがあるから。

(――それも、サミュエル様の感情の一つではあるんだろうし、慈しんでもらえているのは嬉しいけど。でも、そうじゃなくて、もっと自分を大切にするって方向で、感情を優先してもらいたい。……結局はそれが僕を守ることに行きつくのだと言われそうだけど)

 なんとも難しい問題である。サミュエルが唯一感情的になる相手がノアならば、ノアを守ることがサミュエルを守ることにも繋がっているとも言える。それはノアが真に望む状態ではないけれど、それがサミュエルの望みならば、ノアが否定することもできない。

(――うーん……まぁ、いいや。地道にサミュエル様に意識改革をしてもらう、のはなんだか本当に遠い道程な気がするけど、とりあえず当面は僕がサミュエル様を大切にすればいいということで。僕の力の限りでサミュエル様を守ればいいんだよね)

 ある種の開き直りではあったけれど、とりあえず結論づけたノアは、話に意識を戻す。
 完全に思考が寄り道していたことは自覚していたけれど、正直ノアにとってサミュエル以上に大切な存在はいないし、現在の話自体はノアが関与する必要もなさそうなものである。

「――王妃殿下についてはとりあえず置いておきましょう」

 マーティンとルーカスの間でひたすら王妃に対しての愚痴が吐き出される状況は、サミュエルの声掛けでピタリと止まる。
 その息の合い具合は、共通の敵を見出したからこそのように思えて、ノアは苦笑してしまった。王妃は今頃、あまりの悪口の多さにくしゃみでもしているのではないだろうか。

「それで、私とライアン大公の騒動について知って、マーティン殿下はどのような違和感を覚えたのですか?」

 話を戻したサミュエルに、マーティンは難しい表情で腕を組む。

「違和感だから、明確な言葉にするのは難しい。だが、なんというか……『これで正しい』という思いと、『間違っている』という思いがせめぎ合っていて……頭がおかしくなりそうだった。……いや、既に頭がおかしかったのかもしれないが」

 マーティンは口元に自嘲を滲ませ、大きくため息をついた。

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