内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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116.理解が深まるごとに

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 ハミルトンは情報源への追及をやめ、話を続ける。深堀したところで疲労感しか得られないのは、誰もが分かりきっていることだった。

「マーティン殿下は何度か図書室に来られて、私に話しかけてきました。ですが、サミュエル様から情報をいただいておりましたので、私はほとんど相手をしておりません。……万が一にでも、私がマーティン殿下に利用されるようなことがあってはなりませんので」

 ハミルトンは苦々しい口調だった。

(今の家族に愛情を持っているなら、その血筋を利用することを狙っている可能性がある相手を警戒するのは当然だものね……。マーティン殿下が強引に付きまとっていないみたいで良かった)

 ノアはマーティンとハミルトンの出会いを導いてしまった責任を感じていた。だから、『相手をしない』という対応で流せる程度の付きまといと聞いて、少し安心する。多少なりとも迷惑を被っているようなので、全面的に許容できるというわけではないけれど。

「サミュエル、どこまで話してある?」
「アシェル殿から聞いた話でしたら、全てです。ハミルトン殿は元々、前世や転生という事象に理解がありましたから」
「ほう?」

 サミュエルの答えに、ルーカスが意外そうに片眉を上げてハミルトンを見る。ノアも不思議になって、ハミルトンをまじまじと見つめた。

 ノアがアシェルから話を聞いた当初に、前世や転生という言葉に戸惑った通り、そういった概念は一般的なものではない。そうした概念を提唱する宗教は存在しているものの、この国ではほとんど信奉されていないのだ。

 では、ハミルトンはなぜそのような理解を示せたのか。その答えは――。

「まさか、ハミルトン殿も……?」

 思わず声が零れていた。ハミルトンから苦笑を向けられ、ノアはハッと口を手で塞ぐ。本人から言い出したものでない限り、ノアがその事実を探るのは不躾だろう。

「……まぁ、この中で秘密にする必要性もありませんし、別にいいのですが。そうですよ、私は前世の記憶があります。アシェル殿がおっしゃられるような、BLゲームの記憶というものはございませんが」
「そりゃ、誰もがやるようなゲームじゃないしな……」

 ルーカスの言葉が少し砕けた。前世持ちという同じ性質であることに、親近感を覚えたのだろう。それに対しハミルトンは微笑み、頷いている。
 初めはどうなることかと思った二人だったけれど、思いの外上手くやれそうな雰囲気だ。

(それにしても、王族の血を継いでいる人の転生経験者率が高すぎるんじゃないかな……。しかも、みんなBLゲームで登場人物とされている人……)

 ノアは思い当たった事実に困惑して首を傾げる。いったい誰がこのような状況を生み出しているのだろうかと不思議に思ってしまった。

「言っておくけど、うちも王族の血を継いでいるけど、転生者はいないよ。アシェル殿は王族の血は全く持っていないし、ライアン大公とルーカス殿下以外の王子は、おそらく転生者ではない。転生者に王族が多いと感じるのは、私たちがそういう相手と接することが多いからだろうね」

 サミュエルがノアの疑問を的確に読み取り答えてくれる。でも、その言葉から、サミュエルがノアと同じことを疑って、あらかじめ調査をしていたことが伝わってきた。

「そういうことなんですね。確かに、他に貴族や市民の方々に転生経験者がいらしても、僕たちはそれを知りようがありませんもんね」

 ノアはそう呟きつつ、ふと気づいた事実に少し顔が強張ってしまった。

「――ですが、その場合、アシェル殿のようにゲーム知識を持って、僕たちの事情を知っている人物が他にもいる可能性があるということではないですか? それは、大丈夫なのでしょうか?」

 アシェルが持っていたゲーム知識には、知られれば国にとって不都合な事実がふんだんに盛り込まれていた。ノアの幼少期の事件に関することなど、一歩間違えれば国際問題になりかねない情報もある。
 それが知れ渡ることを心配して、ノアが眉尻を下げると、サミュエルは安心させるように微笑んだ。

「現在のところ、怪しい言動をしている者はいないようだよ。もちろん、観察は継続する必要があるだろうけど、そこまで心配しなくてもいいんじゃないかな」

 ノアだけでなく、ルーカスとハミルトンも、サミュエルを凝視した。
 サミュエルの言葉は、あたかも国中の者の言動を監視していると言っているようなものだ。そんなことは、常識で考えれば不可能である。でも、サミュエルならばできるかもしれないと思えてしまうのが、なんだか少し怖い。

「……いや……いやいやいや。流石に、サミュエルだって全員を見張るのは無理だろう!」

 ノアと同じように考えたらしいルーカスが、語気強く否定する。ハミルトンも無言で頷きながら、サミュエルから心持ち距離をとっていた。

「私が直接観察しているわけではないですよ? その辺の要領は心得ています。万全ではなくとも、国内のことに関してはある程度情報の統制は可能ですし」
「グレイ公爵家の教育ってどうなってんだ? まさか、伝説の御庭番的な、影の役割があったりするのか? こわっ」

 無表情になって身を引くルーカスの言葉は一部理解できなかったけれど、ノアも少し共感していた。グレイ公爵家、恐るべし、である。

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