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100.主人公くん
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アダムは明るく愛嬌のある少年だった。
校舎の方へと歩く途中、口下手なノアの代わりのように、様々な話をしてくれる。それでいてうるさく感じないのは、きちんと躾けられた振る舞いだからだ。
ノアはほんの少しの時間しかアダムと共に過ごしていないけれど、既にアダムに好感を覚えていた。
「――ディーガー伯爵家はグレイ公爵家の縁戚なのですが」
「ええ、聞いたことがありますよ」
「あ、そうなんですね! 僕の兄とサミュエル様は結構親しいようなので、知っていただけているかなとは思っていたんですけど」
アダムがにこりと嬉しそうに微笑む。どうやら、ノアとサミュエルの婚約については既に知っているようだ。
確か、ディーガー伯爵家にはグレイ公爵家から婚約発表パーティーの招待状を送る予定だったはずなので、事前の連絡があってもおかしくない。
婚約という言葉は一切口にしないところが、アダムの真面目さを物語っていた。他に聞く者がいないだろう場所においても、内密の話を漏らすような性格ではないのだろう。
「アダムさんの、お兄さん……」
「はい、ハミルトンと言って、この学園で司書をしているんです。ご存知ですか?」
「……存じ上げていますよ」
ノアは答えながら、『サミュエル様とハミルトン殿が親しいという話は聞いたことがないけれど』と脳内で付け加えた。
アシェルとBLゲームの話をしていたときも、サミュエルはハミルトンについて特別何かを言うことはなかった。
(まぁ、サミュエル様は他の方にあまり関心を持っていないから……。親しいというのも、親戚の中では多少近しいくらいの感じなのかな)
おそらく特筆するほどの関係ではないのだろうと納得して、ノアは再びアダムの話に耳を傾けた。
アダムはたいそうハミルトンのことを好いているらしい。憧憬の眼差しで微笑みを浮かべながらハミルトンの話をしている。
(そういえば、ゲームは恋愛のストーリーで、アダムさんとハミルトン殿が両想いになる展開もあるはず……)
血は繋がっていないから、それ自体は全く問題はないけれど、実際のところがどうなのかが少し気になる。二人の関係が、今後のマーティンの動向にも関わってくるかもしれないからだ。
マーティンがハミルトンに興味を持っていた様子を見るに、ハミルトンはキーマンになる気がする。
(今のところ、仲の良い兄弟という感じだけど……)
ノアは自分の観察眼を信用していない。特に恋愛事となると、だいぶ鈍い自覚があるので、後でサミュエルに話してみようと決めた。
「あ、ここまで来たら、もう道が分かります!」
ノアがだいぶハミルトンに関する情報を得たところで、アダムがパッと表情を輝かせた。
ここは既に校舎に近い場所だ。放課後だから人気はないけれど、見覚えがあって当然である。
案内への礼を述べるアダムに微笑んで返しながら、ノアは唇の前にそっと人差し指を添えた。
「僕とここで会ったことは秘密にしてください。一人で過ごして落ち着く場所なんです」
「もちろんです。絶対に洩らしません。ありがとうございました」
アダムが真剣な表情で頷き、一礼の後に足早に去る。ここに共にいるところを誰かに見られないようにと配慮してくれたのだろう。
これまで話していて、アダムの真面目で誠実な性格は分かっていたので、ノアは安心してアダムを見送った。
「……なんともまぁ、ノアも忙しい一日だったようだね?」
聞こえたきた声に、ノアはパッと背後を振り向いた。木の陰からサミュエルが現れる。少し不満そうな表情だ。
その後からルーカスまで現れて、ノアはポカンと小さく口を開いた。
「まさか、アダム殿にまで会っているとはねぇ」
ルーカスが愉快そうに呟く。
ノアは脳内で『結局、主要人物コンプリートしちゃった……』と呟いた。全く喜ばしくない。ルーカスやアダムのことは嫌いではないけれど、ノアは平穏を好んでいるのだ。
「……お二人はなぜこちらに?」
「ノアと話したいことがあってね」
「一緒に城に行こう」
近づいてきたサミュエルが頬にキスしてくるので、ノアもキスを返す。これはもう挨拶だ。さすがに多くの学生がいるところではしないけれど、ルーカスの前ならいいらしい。
ルーカスは少し呆れた表情をしているように見えた。
「……城に?」
もう疲れたし、家に帰りたいと思っていたけれど、まだ許されないらしい。こんなことになるなら、さっさと帰宅しておけば良かった。
(――帰っていたとしても、迎えに来たんだろうけれど)
ノアは密かにため息をつきつつ、心配そうに見つめてくるサミュエルに微笑みを返した。
ルーカスが「お熱いことで」と呆れ混じりに揶揄ってくるも、サミュエルが平然とした様子だから、ノアも不思議と恥ずかしくない。
なんだか自分も精神が図太くなってきた気がするなぁ、と喜んでいいのか嘆くべきなのか分からなくなった。
校舎の方へと歩く途中、口下手なノアの代わりのように、様々な話をしてくれる。それでいてうるさく感じないのは、きちんと躾けられた振る舞いだからだ。
ノアはほんの少しの時間しかアダムと共に過ごしていないけれど、既にアダムに好感を覚えていた。
「――ディーガー伯爵家はグレイ公爵家の縁戚なのですが」
「ええ、聞いたことがありますよ」
「あ、そうなんですね! 僕の兄とサミュエル様は結構親しいようなので、知っていただけているかなとは思っていたんですけど」
アダムがにこりと嬉しそうに微笑む。どうやら、ノアとサミュエルの婚約については既に知っているようだ。
確か、ディーガー伯爵家にはグレイ公爵家から婚約発表パーティーの招待状を送る予定だったはずなので、事前の連絡があってもおかしくない。
婚約という言葉は一切口にしないところが、アダムの真面目さを物語っていた。他に聞く者がいないだろう場所においても、内密の話を漏らすような性格ではないのだろう。
「アダムさんの、お兄さん……」
「はい、ハミルトンと言って、この学園で司書をしているんです。ご存知ですか?」
「……存じ上げていますよ」
ノアは答えながら、『サミュエル様とハミルトン殿が親しいという話は聞いたことがないけれど』と脳内で付け加えた。
アシェルとBLゲームの話をしていたときも、サミュエルはハミルトンについて特別何かを言うことはなかった。
(まぁ、サミュエル様は他の方にあまり関心を持っていないから……。親しいというのも、親戚の中では多少近しいくらいの感じなのかな)
おそらく特筆するほどの関係ではないのだろうと納得して、ノアは再びアダムの話に耳を傾けた。
アダムはたいそうハミルトンのことを好いているらしい。憧憬の眼差しで微笑みを浮かべながらハミルトンの話をしている。
(そういえば、ゲームは恋愛のストーリーで、アダムさんとハミルトン殿が両想いになる展開もあるはず……)
血は繋がっていないから、それ自体は全く問題はないけれど、実際のところがどうなのかが少し気になる。二人の関係が、今後のマーティンの動向にも関わってくるかもしれないからだ。
マーティンがハミルトンに興味を持っていた様子を見るに、ハミルトンはキーマンになる気がする。
(今のところ、仲の良い兄弟という感じだけど……)
ノアは自分の観察眼を信用していない。特に恋愛事となると、だいぶ鈍い自覚があるので、後でサミュエルに話してみようと決めた。
「あ、ここまで来たら、もう道が分かります!」
ノアがだいぶハミルトンに関する情報を得たところで、アダムがパッと表情を輝かせた。
ここは既に校舎に近い場所だ。放課後だから人気はないけれど、見覚えがあって当然である。
案内への礼を述べるアダムに微笑んで返しながら、ノアは唇の前にそっと人差し指を添えた。
「僕とここで会ったことは秘密にしてください。一人で過ごして落ち着く場所なんです」
「もちろんです。絶対に洩らしません。ありがとうございました」
アダムが真剣な表情で頷き、一礼の後に足早に去る。ここに共にいるところを誰かに見られないようにと配慮してくれたのだろう。
これまで話していて、アダムの真面目で誠実な性格は分かっていたので、ノアは安心してアダムを見送った。
「……なんともまぁ、ノアも忙しい一日だったようだね?」
聞こえたきた声に、ノアはパッと背後を振り向いた。木の陰からサミュエルが現れる。少し不満そうな表情だ。
その後からルーカスまで現れて、ノアはポカンと小さく口を開いた。
「まさか、アダム殿にまで会っているとはねぇ」
ルーカスが愉快そうに呟く。
ノアは脳内で『結局、主要人物コンプリートしちゃった……』と呟いた。全く喜ばしくない。ルーカスやアダムのことは嫌いではないけれど、ノアは平穏を好んでいるのだ。
「……お二人はなぜこちらに?」
「ノアと話したいことがあってね」
「一緒に城に行こう」
近づいてきたサミュエルが頬にキスしてくるので、ノアもキスを返す。これはもう挨拶だ。さすがに多くの学生がいるところではしないけれど、ルーカスの前ならいいらしい。
ルーカスは少し呆れた表情をしているように見えた。
「……城に?」
もう疲れたし、家に帰りたいと思っていたけれど、まだ許されないらしい。こんなことになるなら、さっさと帰宅しておけば良かった。
(――帰っていたとしても、迎えに来たんだろうけれど)
ノアは密かにため息をつきつつ、心配そうに見つめてくるサミュエルに微笑みを返した。
ルーカスが「お熱いことで」と呆れ混じりに揶揄ってくるも、サミュエルが平然とした様子だから、ノアも不思議と恥ずかしくない。
なんだか自分も精神が図太くなってきた気がするなぁ、と喜んでいいのか嘆くべきなのか分からなくなった。
103
◇長編◇
本編完結
『貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです』
本編・続編完結
『雪豹くんは魔王さまに溺愛される』書籍化☆
完結『天翔ける獣の願いごと』
◇短編◇
本編完結『悪役令息になる前に自由に生きることにしました』
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