内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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78.今後の予定

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 どう考えても情報が足りず、上手い対応策も見出だせなかった。だから、結局、実際に来年度を迎えてからマーティンの思惑を見定めようと決まる。
 ノアは極力マーティンと接触しないよう念を押されたけれど、正直それは難しいと思う。

 隣国の王子が留学してくるとなると、学院内でそれを補助する人員が必要だ。それは高確率で高位貴族の子息となる。

 本来ならば、公爵子息であるサミュエルが、その第一候補となるのだろう。
 でも、来年度はルーカス殿下が学園に入学してくる。その補佐を担うことを考えると、おそらくサミュエルはマーティンと一定の距離をとることになるだろう。

 では、他に候補となるのは誰か。

 同学年では、公爵家の者はサミュエルの他に一人だけ令嬢がいるけれど、異性ということで候補から除外されるはず。

 侯爵家の者はノアの他に二人いる。その中で一番家柄が良いのがノアだ。他の二人は侯爵家だけれど、現在では領地を持たない内務を主とする家系になっていて、王子の補佐には少し物足りない印象だ。

 辺境伯家の者は一人いるけれど、隣国カールトンと接する領地を持っていて、そこは過去には国家間の諍いが絶えなかった場所だ。現在では表立って争うことはないとはいえ、隣国の王子の補佐に相応しいかと考えると怪しい。
 この機会に、より友好を深めようと考えるならばありえるという程度だ。

 伯爵家の者は数人いて、領地持ちの中から人格・能力の優秀さを勘案して、補助に選ばれる可能性が高い。

 一番有力な候補者は家柄のいいノアということになってしまうけれど。

「私の方でルーカス殿下にゲーム第二弾の話は伝えておくよ。ルーカス殿下からその情報を聞いたことがなかったから、おそらく知らないんだろうしね」
「ルーカス殿下は第一弾の方も知識に偏りある感じでしたもんね。第二弾の存在を知っていたとしても、プレイしてなくて知識がないという可能性はありますし」

 サミュエルが頷く。
 ルーカスが第二弾の内容を知っていたなら、自分が対象になるだけに、サミュエルに相談くらいはしていたはず。それがないということは、ルーカスは第二弾の内容を知らないという前提で動くべきだろう。

「伝えるついでに、ノアのことについて協力をもらっておくよ」
「協力、ですか?」
「ああ。今の時点だと、ノアがマーティン殿下の補助に駆り出されてしまう可能性があるからね。事前に根回しして、補助候補から除外してもらうよ」
「……それは、ありがたいです」

 ノアはホッと頬を緩めた。
 サミュエルが対応してくれるならばきっと大丈夫だろう。

 そもそも、ノアが考えていたようなことに、サミュエルが気づかないはずはなかった。マーティンとの接触を避けてほしいと言うからには、サミュエルがそのように対応するのは当然のことだったのだろう。

「僕は他の情報を思い出したら、お二人にお伝えしますね。……正直、来年度にお傍にいられないことが悔しいし申し訳ないんですけど……」

 肩を落とすアシェルを見て、ノアは苦笑する。
 ノアばかり大変なことになると思っているようだけれど、アシェルの今後もさほど安泰なものではないはずだ。

「マーティン殿下はなんの思惑もなく、ただ国同士の友好を深めるために留学を決めた可能性もあるんですよ。それならば大した問題は起きないでしょう。アシェルさんはライアン殿下をしっかりとお支えすることを優先した方が良いと思います。それだって、決して楽な務めではありませんからね?」
「……そう……ですね。僕自身が決めた務めですから、ライアン殿下に誠心誠意お仕えします!」

 気合いを入れ直した様子のアシェルに、ノアは頷いた。

 領地を治めることになるライアンの役に立てる術は、もう全てアシェルに教え込んだ。後は上手く実践できるかどうかだ。

 ランドロフ家からアシェルの他に数人貸し出す予定になっているけれど、貸し出し期間はさほど長くない。その短い期間で、どれだけ領地運営に慣れ、独自の人材を育てられるか。
 アシェルはおそらくノアのことを気にしていられないくらい、忙しい日々を送ることになるだろう。

「ああ、そうそう。ライアン殿下といえば、臣籍降下の日が決まったよ。卒業して一週間後になるはずだ。領地にはその翌日には出発することになる。外聞を考えて、アシェル殿とは別の馬車で領地に行くけど、あまり時期をずらさず出発してくれるかい? 色々日程の調整の問題があるからね」
「分かりました!」
「アシェルさんには、うちから出す者たちと一緒に行ってもらいます。馬車の手配などもこちらでしておきますね」
「それなら問題ないね」
「……僕だって、それくらいはもうできるんですけど」

 アシェルの意気込みを流し、サミュエルがノアに微笑む。アシェルは不満そうな表情だ。
 確かに、アシェルに手配を任せてもかまわないけれど――。

「アシェルさんがライアン殿下の元に行かれてからは、僕たちは容易く会うこともできなくなります。友人なのですから、そのくらいのはなむけはさせてください」
「ノア様のお気持ちなのでしたら、喜んで受け取ります!」

 アシェルがコロッと態度を切り替え満面の笑みを浮かべる。
 その単純な性格に、ノアだけでなくサミュエルまで笑ってしまった。
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