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50.心強さと予想外な決断
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アシェルに協力者のことについて説明したら、「はは~ん? それでノア様を丸め込みやがったな、くそ野郎……」なんて呟かれた。
下品な言葉は控えてほしいけれど、ノアを心配するがゆえの言動だと思うと窘めにくい。
「まぁ、ノア様がそれを受け入れたということは、自覚はなくともそういうことなんでしょうし。サミュエル様はノア様を気遣ってのことでもあるのかな? うん、そうであってほしい。ヘタレなサミュエル様は解釈違いです」
ぼそぼそと呟いて感情を整理したようで、アシェルは落ち着いた様子になってノアを見つめた。
「――というわけで、僕は一応お二人の婚約を祝福するつもりですけど、ノア様的にはどうしたいんですか?」
「どうしたい、ですか……」
それはノアの方が聞きたい質問だった。自分の心が分からないのだ。様々な感情が入り混じり、整理できないでいる。
それでも、サミュエルの役に立ちたいという気持ちは確かで、ノアは暫く考えた末に口を開いた。
「――サミュエル様のためになるなら、婚約するのは問題ないんです。正直その先のことは想像できていませんし、不安もありますけど。サミュエル様のお傍にいれることは、嬉しいことでもあります」
「憧れの人ですもんねぇ……。その気持ちがあるなら、今はとりあえず状況に流されてもいいのでは? 気づくべき時に気づくはずです。……僕だって――」
最後、アシェルがなんと言ったのか聞き取れなかったけれど、ノアが決意を固めるには十分な助言だった。
少し晴れやかになった気分でアシェルを見つめる。
「ありがとうございます。アシェルさんに相談して良かったです。心の整理ができた気がします」
「……ノア様のお役に立てたのなら嬉しいです」
アシェルが複雑そうな表情ながらも微笑んだ。
ノアは早く両親に話に行こうと腰を上げる。再び自分の心が揺らぐ前に、伝えてしまった方が良いだろう。
貴族同士の婚約となれば、当主の了解が必要であるのは当然だ。それに加え、ノアの婚約については心配を掛けていたのだから、早いところ安心させたい。
サミュエルとの婚約が、両親にとって歓迎すべきものであるかは不安だけれど、少なくとも以前決めた婚約者の条件には、概ね合致しているはずだ。それならば、反対されることもあまり考えられないだろう。
◇◇◇
「――あら、そうなの」
「なるほどね……そうなったか」
サミュエルと婚約したいことを両親に伝えると、不思議なほど落ち着いた様子で頷かれた。
もしかしたら、サミュエルが前もって話を通していたのかもしれない。ノアの婚約について話をしたと言っていたから。
「はい。……よろしいですか?」
「私はもちろん歓迎するわ。特に、サミュエル様といえば、社交界でも人気のある方だもの。ノアのためになってくれるはずよ」
「そうだな。私も婚約に賛成する。……あの方は、ノアを大事にしてくれるだろう」
微笑む両親に、ノアは緩む頬を隠すように手で押さえた。
サミュエルとの婚約を、相手の立場や侯爵家としての利点ではなく、ノアの幸せに重点を置いて考えてくれるのが嬉しい。愛情深く見守ってくれる両親だ。
サミュエルとの婚約には一抹の不安もあったけれど、両親がいてくれるなら問題がない気がして安堵した。
「ありがとうございます。サミュエル様にご報告しておきます」
「そうね。……でも、サミュエル様は婚約が解消になったばかりだから、ノアとの婚約の発表はライアン殿下が正式に大公位を賜って、領地に行かれてからがいいでしょうね」
「そうなると、殿下の卒業を待つことになるな。時期的にもちょうどいいか」
両親の会話に、ノアは目を丸くする。
ライアンが王族から離籍し、大公位を賜れるようグレイ公爵家が動いているとは聞いていた。でも、両親の元にその情報が入るくらい話が進んでいるとは思わなかった。
「……殿下が、卒業後に大公位を賜ると決まったのですか?」
「ええ。まだ高位貴族にしか伝わっていない話だけれど。グレイ公爵家が精力的に動いていたようね。随分と早く決まったわ」
「殿下が子どもを作らないと誓約して、一代大公になると決めたからこそでもあるね。殿下が亡くなられたら、分けた領地も再び王家のもとに返上されるから。王家としても惜しむ必要はないと判断したんだろう」
子どもは作らない。一代大公。
初めて知るライアンの決断に、ノアは目を伏せた。
ライアンは貴族への不信感が強いからこそ、婚姻により縁づくことを拒否したのかもしれない。それでも、あまりに早すぎる決断に思えた。
これを知ったら、アシェルはどう感じるだろう。
友人の沈む表情が脳裏に浮かぶ気がして、ノアは強く目を瞑った。
そうなったら、今度はノアがアシェルを励まそう。
「……それにしても、断りにくい方から婚約の申し出があるかもしれないと聞いて困っていたが、サミュエル殿のおかげでなんとかなりそうだな」
「それを見越した、早めの婚約打診だったのでしょうね。正直、ノアがすぐに受け入れたことの方が意外だわ。この子、あの件のせいか、無意識下で性愛への拒否感が強いのに……」
「サミュエル殿は、なんというか、やり手な感じだからな。それでもあの件について知っているし、ノアのことを第一に考えてくれる方だから、心配はないだろう」
囁き合う両親が気になって、ノアは視線を上げた。笑顔で誤魔化されてしまったけれど。
下品な言葉は控えてほしいけれど、ノアを心配するがゆえの言動だと思うと窘めにくい。
「まぁ、ノア様がそれを受け入れたということは、自覚はなくともそういうことなんでしょうし。サミュエル様はノア様を気遣ってのことでもあるのかな? うん、そうであってほしい。ヘタレなサミュエル様は解釈違いです」
ぼそぼそと呟いて感情を整理したようで、アシェルは落ち着いた様子になってノアを見つめた。
「――というわけで、僕は一応お二人の婚約を祝福するつもりですけど、ノア様的にはどうしたいんですか?」
「どうしたい、ですか……」
それはノアの方が聞きたい質問だった。自分の心が分からないのだ。様々な感情が入り混じり、整理できないでいる。
それでも、サミュエルの役に立ちたいという気持ちは確かで、ノアは暫く考えた末に口を開いた。
「――サミュエル様のためになるなら、婚約するのは問題ないんです。正直その先のことは想像できていませんし、不安もありますけど。サミュエル様のお傍にいれることは、嬉しいことでもあります」
「憧れの人ですもんねぇ……。その気持ちがあるなら、今はとりあえず状況に流されてもいいのでは? 気づくべき時に気づくはずです。……僕だって――」
最後、アシェルがなんと言ったのか聞き取れなかったけれど、ノアが決意を固めるには十分な助言だった。
少し晴れやかになった気分でアシェルを見つめる。
「ありがとうございます。アシェルさんに相談して良かったです。心の整理ができた気がします」
「……ノア様のお役に立てたのなら嬉しいです」
アシェルが複雑そうな表情ながらも微笑んだ。
ノアは早く両親に話に行こうと腰を上げる。再び自分の心が揺らぐ前に、伝えてしまった方が良いだろう。
貴族同士の婚約となれば、当主の了解が必要であるのは当然だ。それに加え、ノアの婚約については心配を掛けていたのだから、早いところ安心させたい。
サミュエルとの婚約が、両親にとって歓迎すべきものであるかは不安だけれど、少なくとも以前決めた婚約者の条件には、概ね合致しているはずだ。それならば、反対されることもあまり考えられないだろう。
◇◇◇
「――あら、そうなの」
「なるほどね……そうなったか」
サミュエルと婚約したいことを両親に伝えると、不思議なほど落ち着いた様子で頷かれた。
もしかしたら、サミュエルが前もって話を通していたのかもしれない。ノアの婚約について話をしたと言っていたから。
「はい。……よろしいですか?」
「私はもちろん歓迎するわ。特に、サミュエル様といえば、社交界でも人気のある方だもの。ノアのためになってくれるはずよ」
「そうだな。私も婚約に賛成する。……あの方は、ノアを大事にしてくれるだろう」
微笑む両親に、ノアは緩む頬を隠すように手で押さえた。
サミュエルとの婚約を、相手の立場や侯爵家としての利点ではなく、ノアの幸せに重点を置いて考えてくれるのが嬉しい。愛情深く見守ってくれる両親だ。
サミュエルとの婚約には一抹の不安もあったけれど、両親がいてくれるなら問題がない気がして安堵した。
「ありがとうございます。サミュエル様にご報告しておきます」
「そうね。……でも、サミュエル様は婚約が解消になったばかりだから、ノアとの婚約の発表はライアン殿下が正式に大公位を賜って、領地に行かれてからがいいでしょうね」
「そうなると、殿下の卒業を待つことになるな。時期的にもちょうどいいか」
両親の会話に、ノアは目を丸くする。
ライアンが王族から離籍し、大公位を賜れるようグレイ公爵家が動いているとは聞いていた。でも、両親の元にその情報が入るくらい話が進んでいるとは思わなかった。
「……殿下が、卒業後に大公位を賜ると決まったのですか?」
「ええ。まだ高位貴族にしか伝わっていない話だけれど。グレイ公爵家が精力的に動いていたようね。随分と早く決まったわ」
「殿下が子どもを作らないと誓約して、一代大公になると決めたからこそでもあるね。殿下が亡くなられたら、分けた領地も再び王家のもとに返上されるから。王家としても惜しむ必要はないと判断したんだろう」
子どもは作らない。一代大公。
初めて知るライアンの決断に、ノアは目を伏せた。
ライアンは貴族への不信感が強いからこそ、婚姻により縁づくことを拒否したのかもしれない。それでも、あまりに早すぎる決断に思えた。
これを知ったら、アシェルはどう感じるだろう。
友人の沈む表情が脳裏に浮かぶ気がして、ノアは強く目を瞑った。
そうなったら、今度はノアがアシェルを励まそう。
「……それにしても、断りにくい方から婚約の申し出があるかもしれないと聞いて困っていたが、サミュエル殿のおかげでなんとかなりそうだな」
「それを見越した、早めの婚約打診だったのでしょうね。正直、ノアがすぐに受け入れたことの方が意外だわ。この子、あの件のせいか、無意識下で性愛への拒否感が強いのに……」
「サミュエル殿は、なんというか、やり手な感じだからな。それでもあの件について知っているし、ノアのことを第一に考えてくれる方だから、心配はないだろう」
囁き合う両親が気になって、ノアは視線を上げた。笑顔で誤魔化されてしまったけれど。
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