内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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36.とりあえずの対処

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 サミュエルとアシェルとの話し合いの後、ノアは早速動き出した。サミュエルは王家やグレイ公爵家の動きを抑制してくれることになっている。

 ノアがまず行ったのは、両親を通しての叔父への協力依頼。学園長である叔父を味方につければ、休学等の手続きがスムーズになる。
 元々両親には、アシェルの事情と、それに対してサミュエルと一緒に対処すると説明していたから、すぐに納得してもらえた。

 次にアシェルの家への連絡。アシェルを冷遇しているようだから、素直に受け入れるか危ぶんでいたけれど、ランドロフ侯爵家の名前は好意的に作用したようだ。快諾をもらって安堵する。

 ここまでくれば、後はアシェルをノアの家で受け入れる準備を整えるだけ。
 教育係にはノアの侍従ロウが手を挙げてくれたし、問題ないだろう。ロウも男爵家の出身で、行儀見習い後にそのまま侯爵家に仕えることになった男だ。


 学園の週末休みを終える頃には全ての手続きが済み、アシェルの休学が決定された。

「――これからよろしくお願いいたします、ノア様」
「はい、お願いしますね」

 早速ロウに指導されたのか、畏まった様子でアシェルが挨拶に来る。それが少し寂しく感じるけれど、アシェルの成長のためには仕方ない。

「――僕は学園に行ってきますね」
「はい、いってらっしゃいませ。……僕の事情に巻き込んでしまい、騒動が起きるかもしれませんが……」

 アシェルの表情に陰がある。実家と距離を置き、ノアの家で落ち着いて考えられるようになって、これまでの自分を冷静に客観視できるようになったようだ。
 申し訳なさそうにするアシェルに、ノアは柔らかく微笑んで肩を叩いた。

「アシェルさんの行儀見習いを提案したときから、そのことは承知していましたから、お気になさらず」
「……ありがとうございます!」

 アシェルが目を潤ませつつ、にこりと笑む。元々容姿の整った少年だったけれど、落ち着きのある今の方が魅力的だ。
 ノアは心の中では学園でのことを思って憂鬱だった。でも、アシェルの笑みを見ているとなんとなく癒された気分になる。友人のためだと考えれば、気が重い学園生活も頑張れるように思えた。





 ノアが学園の講義室についた時、既にアシェルの休学とランドロフ侯爵家への行儀見習いの情報は広がっていた。感心してしまうくらい、貴族の情報の伝達速度は凄い。

「――あの平民、ランドロフ侯爵家に行儀見習いだって」
「平民じゃないだろう。男爵家子息だ。……学園長が問題の解決のために休学させたってのは事実なのかな」
「王家とグレイ公爵家が動こうとしてたって話があるから、先手を打ったんだろう。ほら、学園内部のことに口出しされると、学園長自身の立場がないしな」
「ランドロフ侯爵家は貧乏くじを引いたわけか」

 数多の視線を感じて顔が引き攣りそうになりながらも、ノアは平常を取り繕った。
 自分のいつもの席に向かう途中も、ノアに真相を聞きたそうな令息令嬢たちを、挨拶だけで躱す。相手が無遠慮に話しかけてこないのは、今日ばかりは助かった。

 席について本を開こうとした時、ふと他とは違う視線を感じて目線だけを上げる。
 サミュエルだった。令息令嬢たちに囲まれ、アシェルについての話題を華麗に避けながら、いつものように泰然としている。でも、周りに気づかれないほど密やかな視線で、ノアを心配しているのが伝わってきた。

 その心配りに、ノアの胸がふわりと温かくなる。この空間にノアは一人ぼっちではなく、心強い味方がいるのだと素直に信じられた。

 サミュエルの心配を和らげようと、ノアは微笑みを浮かべた。
 本の内容に微笑んだとも受け取れるように調整したけれど、周囲で息を飲む気配がする。違和感のある笑みだったのだろうか。

 少し心配になって、密かに視線を巡らせると、僅かに頬を赤くした令息令嬢たちがいた。サミュエルを囲んで話していた者たちも、ノアを凝視しているように見える。
 サミュエルが拗ねたような顔でため息をついていたので、なんだか申し訳なくなった。

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