34 / 277
34.ライアンへの理解
しおりを挟む
「――それにしても、その裏事情を考えると、ライアン殿下がBLゲームのシナリオを知っていて、アシェル殿を利用しようとしている可能性はある気がするね」
サミュエルが眉を顰めて呟く。元々アシェルが言い出した説に、サミュエルが同意した形になる。
「僕は裏事情というのがよく分からないですし、あまり理解したくないのですが。サミュエル様が王家を糾弾して罰を受ける、という事態を招くために、ライアン殿下はアシェル殿を利用しているということですか?」
「うん。単純に私を嫌って貶めようとしているのかもしれないけれど、それで、王妃の不義の噂に終止符を打ちたいという願望も大きいだろうね」
「あ……それ、言ってしまうんですか……」
ノアは言葉にしないように注意して尋ねたのに、サミュエルがあっさりと裏事情を暴露してしまった。思わず恨めしさを籠めて見つめてしまう。
アシェルが今になってライアンの血筋の正当性の問題について理解し、ポカンと口を開ける。
「へ? あ? そういうこと……?」
「真実か否かなんて分からないけどね。ライアン殿下が幼少の頃から、その噂に傷つけられてきたのは事実だ。面白おかしく吹聴する者は、学園だけでなく王城にもいるから。陛下は黙殺しているし、私の家もその噂を否定する側だ。だから、噂を知る他の貴族も、基本的に公言しないようにしている」
つまり、ライアンがBLゲームのシナリオの知識があると仮定して、その思考と行動をトレースすると――。
ライアンは幼少の頃から、王妃の不義の子という噂に傷つけられてきた。おそらく、それにより、貴族の噂好きな性格を嫌悪するようになったのだろう。
そんな中、BLゲームのシナリオで、サミュエルが悪役と呼ばれる存在であり、いずれその噂を元に血筋を糾弾して、王の顰蹙を買い、隠蔽のために罰を受けることを知る。
元々サミュエルとの婚約に納得していなかったライアンは、そのシナリオ通りにことが進めば、一石二鳥になることに気づいた。サミュエルとの婚約破棄と血筋に関係なく王太子としての地位の存続が可能ということだ。
「……いや、考えてみましたけど……ライアン殿下の行動には無理がありませんか?」
ノアは困惑してしまった。アシェルの行動も、現実から逃避して、シナリオに縋ったもので理解しづらいと思っていたけれど、ライアンまで同等の考えで行動しているとはとても思えない。
「そうだね。もし、ライアン殿下がシナリオ通りに展開が進むと考えているなら、全く現実を見ていないことになる。少なくとも、私の行動はシナリオから逸れているはずで、それを知ったらシナリオに疑問を抱くのが当然だから」
サミュエルも頭が痛そうに額を押さえて、首を傾げていた。ノアもさらに考えてみるも、ライアン自身をあまり知らないため、納得できるような考えが浮かばない。
頭を悩ませるサミュエルとノアに、不意に気まずそうな声が届いた。
「あのー……もしかしたら、ライアンは自暴自棄になっているのかもしれません」
「え、自暴自棄?」
「ライアン殿下が、ですか?」
アシェルの言葉はノアがライアンに抱くイメージと合致せず、戸惑いの声が漏れてしまった。サミュエルも不思議そうだ。
「はい……。ライアンはサミュエル様への悪態をつきますし、貴族も嫌っているのは間違いないです。ただ、普段堂々としている振る舞いのわりに、僕と話している時に不安定さをよく感じるんです。なんというか……根本の部分で自分に自信がない? ライアン自身が血筋の正当性を信じていないのかもしれないなぁと、サミュエル様の話を聞いて思いました」
「それは……なんというか……」
「……とても辛いことですね」
ライアンの一側面しか知らないのに、批判的にライアンを捉えていたことが申し訳なくなった。
悪意ある噂にさらされ続けて、ライアンが貴族嫌いになるのも理解できる。そして、噂の真偽も分からず、自分の立ち位置の危うさを感じ続けるとは、どれほど疲弊する状況だろうか。ノアならば耐えられないだろう。
「……つまり、ライアン殿下は、シナリオ通りの結末を迎えるなら受け入れるし、シナリオを逸脱する結末になったとしても構わないということか。……王太子であり続けたいという望みと、いっそのことその立場から解放されたいという望みの板挟み状態?」
サミュエルが疲れたように呟いた。
サミュエルが眉を顰めて呟く。元々アシェルが言い出した説に、サミュエルが同意した形になる。
「僕は裏事情というのがよく分からないですし、あまり理解したくないのですが。サミュエル様が王家を糾弾して罰を受ける、という事態を招くために、ライアン殿下はアシェル殿を利用しているということですか?」
「うん。単純に私を嫌って貶めようとしているのかもしれないけれど、それで、王妃の不義の噂に終止符を打ちたいという願望も大きいだろうね」
「あ……それ、言ってしまうんですか……」
ノアは言葉にしないように注意して尋ねたのに、サミュエルがあっさりと裏事情を暴露してしまった。思わず恨めしさを籠めて見つめてしまう。
アシェルが今になってライアンの血筋の正当性の問題について理解し、ポカンと口を開ける。
「へ? あ? そういうこと……?」
「真実か否かなんて分からないけどね。ライアン殿下が幼少の頃から、その噂に傷つけられてきたのは事実だ。面白おかしく吹聴する者は、学園だけでなく王城にもいるから。陛下は黙殺しているし、私の家もその噂を否定する側だ。だから、噂を知る他の貴族も、基本的に公言しないようにしている」
つまり、ライアンがBLゲームのシナリオの知識があると仮定して、その思考と行動をトレースすると――。
ライアンは幼少の頃から、王妃の不義の子という噂に傷つけられてきた。おそらく、それにより、貴族の噂好きな性格を嫌悪するようになったのだろう。
そんな中、BLゲームのシナリオで、サミュエルが悪役と呼ばれる存在であり、いずれその噂を元に血筋を糾弾して、王の顰蹙を買い、隠蔽のために罰を受けることを知る。
元々サミュエルとの婚約に納得していなかったライアンは、そのシナリオ通りにことが進めば、一石二鳥になることに気づいた。サミュエルとの婚約破棄と血筋に関係なく王太子としての地位の存続が可能ということだ。
「……いや、考えてみましたけど……ライアン殿下の行動には無理がありませんか?」
ノアは困惑してしまった。アシェルの行動も、現実から逃避して、シナリオに縋ったもので理解しづらいと思っていたけれど、ライアンまで同等の考えで行動しているとはとても思えない。
「そうだね。もし、ライアン殿下がシナリオ通りに展開が進むと考えているなら、全く現実を見ていないことになる。少なくとも、私の行動はシナリオから逸れているはずで、それを知ったらシナリオに疑問を抱くのが当然だから」
サミュエルも頭が痛そうに額を押さえて、首を傾げていた。ノアもさらに考えてみるも、ライアン自身をあまり知らないため、納得できるような考えが浮かばない。
頭を悩ませるサミュエルとノアに、不意に気まずそうな声が届いた。
「あのー……もしかしたら、ライアンは自暴自棄になっているのかもしれません」
「え、自暴自棄?」
「ライアン殿下が、ですか?」
アシェルの言葉はノアがライアンに抱くイメージと合致せず、戸惑いの声が漏れてしまった。サミュエルも不思議そうだ。
「はい……。ライアンはサミュエル様への悪態をつきますし、貴族も嫌っているのは間違いないです。ただ、普段堂々としている振る舞いのわりに、僕と話している時に不安定さをよく感じるんです。なんというか……根本の部分で自分に自信がない? ライアン自身が血筋の正当性を信じていないのかもしれないなぁと、サミュエル様の話を聞いて思いました」
「それは……なんというか……」
「……とても辛いことですね」
ライアンの一側面しか知らないのに、批判的にライアンを捉えていたことが申し訳なくなった。
悪意ある噂にさらされ続けて、ライアンが貴族嫌いになるのも理解できる。そして、噂の真偽も分からず、自分の立ち位置の危うさを感じ続けるとは、どれほど疲弊する状況だろうか。ノアならば耐えられないだろう。
「……つまり、ライアン殿下は、シナリオ通りの結末を迎えるなら受け入れるし、シナリオを逸脱する結末になったとしても構わないということか。……王太子であり続けたいという望みと、いっそのことその立場から解放されたいという望みの板挟み状態?」
サミュエルが疲れたように呟いた。
202
◇長編◇
本編完結
『貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです』
本編・続編完結
『雪豹くんは魔王さまに溺愛される』書籍化☆
完結『天翔ける獣の願いごと』
◇短編◇
本編完結『悪役令息になる前に自由に生きることにしました』
お気に入りに追加
4,631
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる