内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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34.ライアンへの理解

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「――それにしても、その裏事情を考えると、ライアン殿下がBLゲームのシナリオを知っていて、アシェル殿を利用しようとしている可能性はある気がするね」

 サミュエルが眉を顰めて呟く。元々アシェルが言い出した説に、サミュエルが同意した形になる。

「僕は裏事情というのがよく分からないですし、あまり理解したくないのですが。サミュエル様が王家を糾弾して罰を受ける、という事態を招くために、ライアン殿下はアシェル殿を利用しているということですか?」
「うん。単純に私を嫌って貶めようとしているのかもしれないけれど、それで、王妃の不義の噂に終止符を打ちたいという願望も大きいだろうね」
「あ……それ、言ってしまうんですか……」

 ノアは言葉にしないように注意して尋ねたのに、サミュエルがあっさりと裏事情を暴露してしまった。思わず恨めしさを籠めて見つめてしまう。
 アシェルが今になってライアンの血筋の正当性の問題について理解し、ポカンと口を開ける。

「へ? あ? そういうこと……?」
「真実か否かなんて分からないけどね。ライアン殿下が幼少の頃から、その噂に傷つけられてきたのは事実だ。面白おかしく吹聴する者は、学園だけでなく王城にもいるから。陛下は黙殺しているし、私の家もその噂を否定する側だ。だから、噂を知る他の貴族も、基本的に公言しないようにしている」

 つまり、ライアンがBLゲームのシナリオの知識があると仮定して、その思考と行動をトレースすると――。

 ライアンは幼少の頃から、王妃の不義の子という噂に傷つけられてきた。おそらく、それにより、貴族の噂好きな性格を嫌悪するようになったのだろう。
 そんな中、BLゲームのシナリオで、サミュエルが悪役と呼ばれる存在であり、いずれその噂を元に血筋を糾弾して、王の顰蹙を買い、隠蔽のために罰を受けることを知る。
 元々サミュエルとの婚約に納得していなかったライアンは、そのシナリオ通りにことが進めば、一石二鳥になることに気づいた。サミュエルとの婚約破棄と血筋に関係なく王太子としての地位の存続が可能ということだ。

「……いや、考えてみましたけど……ライアン殿下の行動には無理がありませんか?」

 ノアは困惑してしまった。アシェルの行動も、現実から逃避して、シナリオに縋ったもので理解しづらいと思っていたけれど、ライアンまで同等の考えで行動しているとはとても思えない。

「そうだね。もし、ライアン殿下がシナリオ通りに展開が進むと考えているなら、全く現実を見ていないことになる。少なくとも、私の行動はシナリオから逸れているはずで、それを知ったらシナリオに疑問を抱くのが当然だから」

 サミュエルも頭が痛そうに額を押さえて、首を傾げていた。ノアもさらに考えてみるも、ライアン自身をあまり知らないため、納得できるような考えが浮かばない。
 頭を悩ませるサミュエルとノアに、不意に気まずそうな声が届いた。

「あのー……もしかしたら、ライアンは自暴自棄になっているのかもしれません」
「え、自暴自棄?」
「ライアン殿下が、ですか?」

 アシェルの言葉はノアがライアンに抱くイメージと合致せず、戸惑いの声が漏れてしまった。サミュエルも不思議そうだ。

「はい……。ライアンはサミュエル様への悪態をつきますし、貴族も嫌っているのは間違いないです。ただ、普段堂々としている振る舞いのわりに、僕と話している時に不安定さをよく感じるんです。なんというか……根本の部分で自分に自信がない? ライアン自身が血筋の正当性を信じていないのかもしれないなぁと、サミュエル様の話を聞いて思いました」
「それは……なんというか……」
「……とても辛いことですね」

 ライアンの一側面しか知らないのに、批判的にライアンを捉えていたことが申し訳なくなった。
 悪意ある噂にさらされ続けて、ライアンが貴族嫌いになるのも理解できる。そして、噂の真偽も分からず、自分の立ち位置の危うさを感じ続けるとは、どれほど疲弊する状況だろうか。ノアならば耐えられないだろう。

「……つまり、ライアン殿下は、シナリオ通りの結末を迎えるなら受け入れるし、シナリオを逸脱する結末になったとしても構わないということか。……王太子であり続けたいという望みと、いっそのことその立場から解放されたいという望みの板挟み状態?」

 サミュエルが疲れたように呟いた。

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