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32.ライアンへの疑問

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 ある程度話を整理したところで今後の話に移る。といっても、まだ分からないことが多く、結論を出すには至らない気がするけれど。

「やはり、アシェルさんはライアン殿下と距離をとられた方が良いかと思うのですが」
「それはそうだね。そもそも、殿下はどうして君に拘るのだろう。悩みに共感してくれたとはいえ、始まりからして異様だよね」

 サミュエルの意見に頷く。
 ノアもライアンがアシェルに出会ったところを見ていたが、大して話もしていない内から過剰な接触をしていたのは間違いないから。

「うぅん……それは、僕も不思議ですね。いや、僕はシナリオがあるからって気にしてなかったんですけど、こうもシナリオから逸れた二人がいるのを見ると……違和感があります」
「アシェルさんも理由は分かっていないのですか。……そうなると、一目惚れとかですか?」

 よく恋愛の物語では描かれている。出会った瞬間に恋に落ちるというのはロマンティックなのだろう。ただ、ノアは恋をしたことがないのでよく分からない。
 首を傾げるノアに、サミュエルが思案気な表情になる。

「ライアン殿下は、決して愚かな方ではないんだよ。ただ時々視野が狭くて、独善的な性格なだけで。今のように、自分の失点となる状況を作って堂々としているのが、よく分からないな……。王太子という地位に拘っているから、これまで振る舞いには気をつけていたはずなんだけどね」
「そう言われてみると……アシェルさんとの話が出るまで、ライアン殿下に悪評というものはあまりなかった気がします。側近の方については色々聞いていましたが」

 覗き見たアシェルとライアンの会話から、ノアもライアンが独善的なきらいがあるのは気づいていた。
 でも、王太子としてのこれまでの振る舞いの中で、そのような評判は聞いたことがない。貴族に反感を持っていようと、それを振る舞いに表さないだけの理性はあるのだ。

 そう思い至ると、廊下でサミュエルと対峙したときの様子が、より奇妙なものに思える。あの場でアシェルを庇い、サミュエルを蔑んだ言動をとったのは、愚かとしか言えないものだった。

「……あの、一つ思ったんですけど」

 思考に耽り、沈黙が落ちた部屋に、アシェルの不安げな声が響く。ノアとサミュエルの視線を受けて、アシェルが言葉を続けた。

「ライアンが転生者とかじゃないですよね?」
「え?」

 その問いにノアは目を見開いた。思いもしない言葉だったから。でも、サミュエルと気軽に接することができる立場であるライアンなら、その可能性もあるのだと少し納得する。それでも違和感はあるけれど。
 サミュエルを見ると、悩ましげに眉を寄せていた。

「……正直、私はその問いに対する答えを持っていない。私が知っている転生者がライアン殿下ではないのは確かだ。でも、殿下がアシェル殿のように前世の記憶を持っている可能性を否定できる根拠はないよ」
「ああ、そうですね……。転生者が二人だけとは限らないのでした」
「むしろ、二人いるなら、他にもいる可能性を捨てない方がいいだろうね」

 サミュエルと頷き合う。ただ、ライアンがアシェル同様の記憶を持っていたとして、現在のような行動をしている意味が分からないけれど。
 それはサミュエルも同じようで、ライアンの転生者説を挙げたアシェルに問うような眼差しを向けている。

「あの、こうお話するようになって、違うんだろうなぁとは思ったんですけど」

 アシェルが気まずそうに言葉を選ぶ。その様子が珍しくて、ノアはサミュエルと目を合わせて首を傾げた。

「――BLゲームの中のサミュエルが、悪役と呼ばれたのは主人公を虐めたからだけじゃないんです。もしそのシナリオをライアンが知っていて、事実だと思い込んでいたなら、サミュエル様を貶めるために僕を利用している可能性もあるかな、と思ったんですけど」
「悪役の理由?」
「サミュエル様を貶めるためにアシェルさんを利用?」

 新たな情報の開示に、サミュエルとノアの頭に疑問が溢れた。

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