内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

文字の大きさ
上 下
31 / 277

31.もともとの狙い

しおりを挟む
 サミュエルのことも、その言葉に甘えて、本当に友達だと思ってもいいのだろうか。冗談を真に受けたと思われるのは嫌だ。それに、友達で満足しないとはどういう意味だろうか。
 ノアは頭を悩ませながら、二人を仲裁するために口を開く。

「随分と、話が逸れてしまっているようですが」
「ああ、そうだね。私としたことが」
「確かにわりとサミュエル様のせいですね」
「君の減らず口、少し感心するよ。身をわきまえた方がいい」

 話を本題に戻すつもりだったのに、何故か再びサミュエルとアシェルが睨み合ってしまった。でも、その様子が少し微笑ましくなってきて、ノアは密かに笑ってしまう。

 アシェルがいつの間にかサミュエルに敬称をつけて呼んでいるのは、サミュエルのことをBLゲームの中の存在ではなく、現実を生きる人だと認識したからなのだろう。
 それでも、公爵令息であるサミュエルに堂々と向かい合えるのは、元々のアシェルの性格によるものか。その態度を、サミュエルは小気味いいと感じているようなので、ノアは窘めるのはやめておいた。

「……楽しそうなのはいいことです。――では、話を続けまして……って、なんの話でしたっけ?」

 アシェルがノアを見て肩をすくめた。気を取り直したように話し出すも、こてんと首を傾げる。

「殿下たちの悩みについてだね。マシュー殿とリオン殿の悩みも話す? 私はあまり関心がないけど」
「素直過ぎて笑っちゃいます。もう少し、ノア様以外の他人に関心を持ってくださいよ……」

 呆れたようにサミュエルに向けて呟いた後、アシェルが思い出すように腕を組んだ。

「――マシューは宰相の息子として正当に扱われてないって憤慨してて、リオンは騎士として鍛えるのしんどいなぁみたいな? 僕から言わせると、二人とも甘えんなよ? って感じなんですが。努力してから言え! まあ、僕も、ろくに努力してない気がするんで、偉そうなこと言えませんけど」
「やっぱり関心を持つ必要なかったじゃないか」
「そうですね。この二人に関してはその通りでした」

 サミュエルの言葉にアシェルが神妙な面持ちで頷いた。
 でも、アシェルがろくに努力をしていないというのは少し違う気がする。家族から虐げられ、突然蘇った前世の記憶に振り回されながらも、望みのためにと藻掻いていたのだから。その手段はともかくとして。

「アシェルさんは、お三方と仲良くなってどうするつもりだったのですか? 恋愛の物語でしたら、複数の男性と親しくなるのは良くないことだと思うのですが」
「BLゲームにはハーレムエンドという結末がありましてね――」
「下品だよ、アシェル殿」
「……そうですね。ノア様に聞かせる話ではありませんでした」

 サミュエルの厳しい眼差しに、アシェルが真剣な表情で謝る。
 ハーレムとはつまり、複数の男性と添い遂げるということだろうか。アシェルはそのつもりがあったということ?

「なかなか酷な選択をなさっていますね……。お身体は大切にした方がいいかと思いますよ」
「待って、あんまりノア様にそっち方面に想像を羽ばたかせてほしくないです!」

 絶望したような表情でアシェルが抱きついてきた。
 ノアは、アシェルがライアン以外とも恋を育んでいくとなると、周りの目をかいくぐる必要があり大変だと思っただけなのだけれど。アシェルが考えていることとは相違があるように感じる。

「私は君をノアから引き離すべきではないかと真剣に悩んでいるよ。君はノアに悪い影響を与えかねない」
「自重します! だから友達を取り上げないでください」

 重々しいサミュエルの宣言に、アシェルが姿勢を正した。

しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...