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30.サミュエルの本質
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「すかした感じ、ね。殿下は私のことをなんと言っているんだい?」
尋ねたサミュエルを、アシェルが複雑な表情で睨む。それを見ていて、ノアは少し誤解していたことに気づいた。
アシェルがサミュエルに敵意を持っているのは、てっきりBLゲームのシナリオのせいだけなのだと思っていた。でも、ライアンに同情している部分もあるらしい。
「……いつだって、自分は全部を把握してますよ、みたいな。ライアンが頑張ったことでも、それくらいはできて当然でしょ、って思ってる。ライアンの悩みなんて、小さなことだって気にとめてないんでしょ。ライアンのことを理解して、寄り添うつもりが全然ない」
「なるほど……。確かに思い当たるところはあるね」
サミュエルが頷く。ノアはハラハラしていたけれど、思っていたよりサミュエルは冷静だった。攻撃するつもりだったらしいアシェルの方が戸惑った表情だ。
「――私も、元々そうだったわけではないんだけど。殿下は幼い頃から私のことを嫌って、傍に寄せ付けなかったからね。私だって人間で、そのような態度の人に親身になれるほど優しくない。……まあ、そもそも、私はあまり人に好意を抱かないタイプだけど」
「え、そうなんですか……? サミュエル様はいつもお優しい気がしますけど……」
ノアは首を傾げる。サミュエルはぎこちなく話すノアに一切の苛立ちを見せず、穏やかに受け止めてくれた。だから、その自己評価は間違っているようにしか思えない。
サミュエルは曖昧に微笑み、ノアから少し視線を逸らした。
「私は人に冷たい自覚があるよ。基本的に物事を損得で考える方だから。……ノアに対しては、まぁ……普段とは違うかもね」
「でも、貴族として人々の上に立ち、厳しい判断をしなければならない時もありますし、損得勘定に長けているというのは、長所でもありますよね」
「……うん、そう言ってもらえると嬉しいよ。ノアは昔から純粋だよね」
サミュエルがノアを見て、何故か眩しげに目を細める。ノアは何か特別なことを言ったつもりはなかったのだけれど。
それに「昔から」とはどういうことだろう。サミュエルときちんと話すようになったのは、昔といえるほど前のことではない。
「……ふぅん……ほぉん……なるほど、そういうことですか。マジですか。え、これアリですか。……アリだな。なにより見た目が美しい。お似合いすぎて、誰も手を出せないレベル。むしろ普通にライアンよりお似合いでは? なにしろ、ノア様超級の美人……高嶺の花に手を出せる図々しさがあるのは、サミュエル様くらいでしょ。ライアンだって、ノア様のことは不可侵の存在的な扱いをしてるのに……」
「アシェル殿、余計なことを言わないように」
アシェルが無表情でブツブツと呟く。サミュエルとノアを見比べる目が忙しそうだ。
そんなアシェルを、サミュエルが硬い声で牽制している。ノアにとっては、どちらの反応も理解できないもので、困惑するしかなかった。
「はぁい! っていうか、僕のこと、サミュエル様にとってはメリット大きいのでは? もしかして、利用するつもりで僕のこと野放しにしてたんじゃないですか?」
「どうして私がそんな面倒なことをする必要があるんだい? 私は欲しいものは自分の力で手に入れるよ」
「絶対に手に入れてやるという気合いしか伝わってこない」
なんだか二人が一気に仲良くなっている気がする。アシェルは呆れ気味だし、サミュエルは冷たい表情だけれど、それが親しさの裏返しのように思える。
ノアは少し疎外感を覚えて寂しくなった。このような軽快な会話は、ノアとサミュエルの間にはない。
「――なんか心配になってきたな……。ノア様、僕はあなたの友達として、絶対にあなたのことを守りますからね! サミュエル様が迫ってきたら、僕に相談してください!」
「え、ええ……?」
アシェルが決意に満ちた眼差しで宣言する。アシェルの問題を解決させるためにこの場に集っているのに、何故ノアが守られるという話になるのか。
理解できずに戸惑うも、アシェルに「友達」と明言されたことが嬉しくて、ノアはつい頬を緩めた。
初めての友達だ。これまでも部下や使用人とは仲良くしていたつもりだけれど、正面からそう言ってくれたのはアシェルだけ。
「ノアの友人は私だけで十分なんだけど」
「狭量な男は嫌われますよ? というか、サミュエル様、友達だけで満足する人じゃないでしょ。見た目にそぐわず、強欲ですよね」
「人間だからね」
現実味がないくらい完璧な美しい笑みを浮かべたサミュエルを、アシェルが半眼で睨んだ。
尋ねたサミュエルを、アシェルが複雑な表情で睨む。それを見ていて、ノアは少し誤解していたことに気づいた。
アシェルがサミュエルに敵意を持っているのは、てっきりBLゲームのシナリオのせいだけなのだと思っていた。でも、ライアンに同情している部分もあるらしい。
「……いつだって、自分は全部を把握してますよ、みたいな。ライアンが頑張ったことでも、それくらいはできて当然でしょ、って思ってる。ライアンの悩みなんて、小さなことだって気にとめてないんでしょ。ライアンのことを理解して、寄り添うつもりが全然ない」
「なるほど……。確かに思い当たるところはあるね」
サミュエルが頷く。ノアはハラハラしていたけれど、思っていたよりサミュエルは冷静だった。攻撃するつもりだったらしいアシェルの方が戸惑った表情だ。
「――私も、元々そうだったわけではないんだけど。殿下は幼い頃から私のことを嫌って、傍に寄せ付けなかったからね。私だって人間で、そのような態度の人に親身になれるほど優しくない。……まあ、そもそも、私はあまり人に好意を抱かないタイプだけど」
「え、そうなんですか……? サミュエル様はいつもお優しい気がしますけど……」
ノアは首を傾げる。サミュエルはぎこちなく話すノアに一切の苛立ちを見せず、穏やかに受け止めてくれた。だから、その自己評価は間違っているようにしか思えない。
サミュエルは曖昧に微笑み、ノアから少し視線を逸らした。
「私は人に冷たい自覚があるよ。基本的に物事を損得で考える方だから。……ノアに対しては、まぁ……普段とは違うかもね」
「でも、貴族として人々の上に立ち、厳しい判断をしなければならない時もありますし、損得勘定に長けているというのは、長所でもありますよね」
「……うん、そう言ってもらえると嬉しいよ。ノアは昔から純粋だよね」
サミュエルがノアを見て、何故か眩しげに目を細める。ノアは何か特別なことを言ったつもりはなかったのだけれど。
それに「昔から」とはどういうことだろう。サミュエルときちんと話すようになったのは、昔といえるほど前のことではない。
「……ふぅん……ほぉん……なるほど、そういうことですか。マジですか。え、これアリですか。……アリだな。なにより見た目が美しい。お似合いすぎて、誰も手を出せないレベル。むしろ普通にライアンよりお似合いでは? なにしろ、ノア様超級の美人……高嶺の花に手を出せる図々しさがあるのは、サミュエル様くらいでしょ。ライアンだって、ノア様のことは不可侵の存在的な扱いをしてるのに……」
「アシェル殿、余計なことを言わないように」
アシェルが無表情でブツブツと呟く。サミュエルとノアを見比べる目が忙しそうだ。
そんなアシェルを、サミュエルが硬い声で牽制している。ノアにとっては、どちらの反応も理解できないもので、困惑するしかなかった。
「はぁい! っていうか、僕のこと、サミュエル様にとってはメリット大きいのでは? もしかして、利用するつもりで僕のこと野放しにしてたんじゃないですか?」
「どうして私がそんな面倒なことをする必要があるんだい? 私は欲しいものは自分の力で手に入れるよ」
「絶対に手に入れてやるという気合いしか伝わってこない」
なんだか二人が一気に仲良くなっている気がする。アシェルは呆れ気味だし、サミュエルは冷たい表情だけれど、それが親しさの裏返しのように思える。
ノアは少し疎外感を覚えて寂しくなった。このような軽快な会話は、ノアとサミュエルの間にはない。
「――なんか心配になってきたな……。ノア様、僕はあなたの友達として、絶対にあなたのことを守りますからね! サミュエル様が迫ってきたら、僕に相談してください!」
「え、ええ……?」
アシェルが決意に満ちた眼差しで宣言する。アシェルの問題を解決させるためにこの場に集っているのに、何故ノアが守られるという話になるのか。
理解できずに戸惑うも、アシェルに「友達」と明言されたことが嬉しくて、ノアはつい頬を緩めた。
初めての友達だ。これまでも部下や使用人とは仲良くしていたつもりだけれど、正面からそう言ってくれたのはアシェルだけ。
「ノアの友人は私だけで十分なんだけど」
「狭量な男は嫌われますよ? というか、サミュエル様、友達だけで満足する人じゃないでしょ。見た目にそぐわず、強欲ですよね」
「人間だからね」
現実味がないくらい完璧な美しい笑みを浮かべたサミュエルを、アシェルが半眼で睨んだ。
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◇長編◇
本編完結
『貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです』
本編・続編完結
『雪豹くんは魔王さまに溺愛される』書籍化☆
完結『天翔ける獣の願いごと』
◇短編◇
本編完結『悪役令息になる前に自由に生きることにしました』
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