内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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23.アシェルの望み

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「攻略相手――つまり恋の相手になるのは、ライアンとマシュー、リオン、ノア。あと隠しルートがあったらしいんですけど、僕は見つけられなくて知りません。サミュエルは悪役令息――どの恋の相手でも邪魔してくる存在で、主人公をいじめるんです。結果、断罪されて追放か処刑されるんですけど!」

 段々と興奮してきたアシェルの話に、ノアは密かに鼻白む。
 アシェルが物語のようなものの話をしているのだとは分かっている。それでも、こうも実際の人の名前を並べられるのは、いい気分がしない。

 特に、サミュエルが断罪される下りで楽しそうにするアシェルに、ノアが共感することは不可能だった。
 追放も処刑も、男爵令息をいじめたくらいで下される罰ではないし、物語の展開として破綻していないだろうか。物語の中のサミュエルは国家転覆でも企んでいたとでも言うのか。

 どちらにせよ、ノアは憧れで好ましい人を批判されているように感じてしまう。

「……あなたがその記憶と現実を同一視しているのは分かりました。ですが、僕も、今名前が挙がった他の方々も、意思を持って生きている人間です。決して物語の登場人物ではありません」

 つい口調が強くなってしまった。ノアの不快感に気づいたのか、アシェルがハッと口を手で押さえる。自分を客観視することはできるらしい。
 申し訳なさそうに眉尻を下げるアシェルに、ノアは苦笑した。アシェルに悪気がないのは分かっている。ノアもあまりに大人げないことをしてしまったと反省した。

「……意思を持って生きている人間、というのは分かっているつもりです。でもっ、どうしても、ゲームと重なって! ライアンたちがゲーム通りの行動をする度に、シナリオがあるんだって感じて……! でも、サミュエルとノアはこんなに違うし! もう、何がなんだか……。どうして、こんな記憶があるんだろう……。なければ、希望なんて持たなかったのに……!」

 アシェルが次第に慟哭するように語る。切実な思いが籠められていた。

 確かに前世の記憶がなければ、アシェルは今のような噂の元になることもなかったかもしれない。無意識でシナリオにそった行動をして同じことになっていた可能性もあるけれど。

 それにしても、『希望』とは引っ掛かる言葉だ。
 不意に、アシェルについての調査結果を思い出す。家族から冷遇され、ろくに貴族の礼儀作法も習わないまま、学園に編入させられたアシェル。
 希望とは、もしかして冷たい家族から逃れることではないだろうか。アシェルの頭にあるのが、BLゲームの趣旨そのままに、ライアンたちの誰かと添い遂げる望みには思えなかった。

「……アシェルさんは、どうしてシナリオにそって行動しているんですか? ライアン殿下たちの傍にいるのは、寵愛を得たいからなのでしょうか?」

 ノアがアシェルに聞きたい話の核心はこれだった。この答えを聞くことができれば、今後の対応を考えられるだろう。

「……寵愛じゃ、ありません。いや、それを手段にしているのは間違いないんですけど……。恋愛ゲームのシナリオにそってるのにおかしいと思うかもしれません。でも、僕が望んでいるのは、家族から解放されて、幸せに生きることなんです……!」

 予想通りの答えに、ノアは目を伏せた。
 アシェルの望みは分かった。でも、決して良い選択ではないように思う。おそらく、BLゲームの中ならば、その望みは叶ったのだろう。でも、ここでそれは難しい。

 ライアンとの恋愛が成就するということ。それはライアンがサミュエルとの婚約を破棄し、男爵令息のアシェルと結婚することを意味する。
 他国の王族かグレイ公爵家としか婚姻を認めていない王家で、それはあまりに難しいことだ。ライアンが継承権と王族籍を放棄すれば、あるいは可能かもしれないけれど、その先の未来が幸せとはどうしても思えない。

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