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19.問題
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暫くサミュエルと談笑していた。でも、やはりライアンとアシェルのことが気になる。サミュエルは彼らにどう対応するつもりなのか。
廊下での雰囲気を見る限り、アシェルと付き合うつもりはあまりなさそうだったけれど、ライアンを諌める意思はあるようだ。婚約者としての義務感なのかもしれない。
「――ノア、どうかしたかな?」
「あ、いえ……」
考え込んでいるのが伝わってしまった。サミュエルに顔を覗き込まれて、どう尋ねるべきか迷う。
そもそも、ノアがサミュエルの事情に深く踏み込んでもいいものか。噂好きの者たちのように、興味本位と思われるのは嫌だ。
「もしかして、殿下とグラシャ男爵令息のことを気にしてる?」
「……そうですね」
目を細めたサミュエルの言葉に、ノアは曖昧に頷く。サミュエルの表情に不快感は浮かんでいなくて、少しホッとした。
「殿下とグラシャ男爵令息がどういう関係なのか、正確なところは私も分からないけど、あのあり方が国にとって良いものだとは思っていないよ」
「そうですよね。そもそも、契約として成立している婚約関係を蔑ろにしているように見えるのは、僕もどうかと思います。王族が契約を反故にするのは、貴族の危機感を煽りますし」
「暴君になり得ると言っているようなものだからね。……まあ、殿下は元々独り善がりなところがあったけど」
サミュエルが呆れたように呟き、前髪を後ろに掻き上げながら、疲労が籠ったため息をつく。
ノアはライアンと近しく付き合ったことがなくて、その人間性をあまり知らない。
でも、婚約者のサミュエルが、ライアンに苦労しているのは伝わってきた。それほど扱いにくい性格なのだろう。
あまりノアが何か言うと、不敬になりかねないから、言葉を選んで黙ってしまう。それが分かったのか、サミュエルが言葉を続けた。
「――本当はこういうことを話してはいけないんだけど、ここだけの秘密にしてくれる?」
「秘密……ええ、もちろん」
「ノアは信用できるよ」
サミュエルが何か言っても、ノアがそれを流布するなんてしない。その辺の分別はあるつもりだ。
そして、そんなノアのことを信用してくれるのが嬉しい。まだこうして話すようになって長くないのに。
「殿下は私との婚約関係に初めから納得していないんだよ。それは私もだけどね。そもそも、必ずグレイ公爵家から定期的に婚約者を選ぶというのがナンセンスだ。王家からの降嫁が度々あるから、血筋が保持されているとはいえ、ね」
「それが理由でしたね。グレイ公爵家以外ですと、外交として他国の王族を迎えることも多いですし、王家の血が薄まらないようにという考えなのでしょうけど……」
「王家の者を幅広く降嫁させれば、グレイ公爵家に拘らなくていいんだよ。使える王子は多いだろう?」
サミュエルの明け透けな言葉にノアは苦笑する。
確かに、通常王妃・王配とされる者以外にも、数人の側妃的な者を置くことが多い王家は子だくさんだ。王子・王女は婚姻外交として外国に出されることが多いとはいえ、一部を国内の貴族に降嫁させても問題ない。
「私としては、グレイ公爵家から王家に定期的に嫁がせるという決まりをなくしたいんだけどね。殿下は不満だと思いながらも協力してくれない。王家の伝統に背くような考えだから、それを推進すると自分の失点になると思っているんだろうね」
「失点……ですが、殿下は既に立太子されてますし、影響がありますか?」
「あるね。その決まりに則って、私を婚約者にしているからこその立太子だったから。決まり自体が変われば、殿下はその地位を失って、他の優秀な王子が立太子することもあり得る」
「そんなことがあるのですね……」
大変難しい問題だ。
つまり、ライアンはサミュエルとの婚約に不満があっても、利点があるから関係を継続して、不満解消に動かない。
対して、サミュエルの方は不満があって、実際にそれを解消させようと動いているけれど、立場的に実現が難しい、ということだ。
サミュエルの助けになりたい。でも、ノアの立場と能力で何ができるかと考えても、いいアイディアはまるで浮かばなかった。
廊下での雰囲気を見る限り、アシェルと付き合うつもりはあまりなさそうだったけれど、ライアンを諌める意思はあるようだ。婚約者としての義務感なのかもしれない。
「――ノア、どうかしたかな?」
「あ、いえ……」
考え込んでいるのが伝わってしまった。サミュエルに顔を覗き込まれて、どう尋ねるべきか迷う。
そもそも、ノアがサミュエルの事情に深く踏み込んでもいいものか。噂好きの者たちのように、興味本位と思われるのは嫌だ。
「もしかして、殿下とグラシャ男爵令息のことを気にしてる?」
「……そうですね」
目を細めたサミュエルの言葉に、ノアは曖昧に頷く。サミュエルの表情に不快感は浮かんでいなくて、少しホッとした。
「殿下とグラシャ男爵令息がどういう関係なのか、正確なところは私も分からないけど、あのあり方が国にとって良いものだとは思っていないよ」
「そうですよね。そもそも、契約として成立している婚約関係を蔑ろにしているように見えるのは、僕もどうかと思います。王族が契約を反故にするのは、貴族の危機感を煽りますし」
「暴君になり得ると言っているようなものだからね。……まあ、殿下は元々独り善がりなところがあったけど」
サミュエルが呆れたように呟き、前髪を後ろに掻き上げながら、疲労が籠ったため息をつく。
ノアはライアンと近しく付き合ったことがなくて、その人間性をあまり知らない。
でも、婚約者のサミュエルが、ライアンに苦労しているのは伝わってきた。それほど扱いにくい性格なのだろう。
あまりノアが何か言うと、不敬になりかねないから、言葉を選んで黙ってしまう。それが分かったのか、サミュエルが言葉を続けた。
「――本当はこういうことを話してはいけないんだけど、ここだけの秘密にしてくれる?」
「秘密……ええ、もちろん」
「ノアは信用できるよ」
サミュエルが何か言っても、ノアがそれを流布するなんてしない。その辺の分別はあるつもりだ。
そして、そんなノアのことを信用してくれるのが嬉しい。まだこうして話すようになって長くないのに。
「殿下は私との婚約関係に初めから納得していないんだよ。それは私もだけどね。そもそも、必ずグレイ公爵家から定期的に婚約者を選ぶというのがナンセンスだ。王家からの降嫁が度々あるから、血筋が保持されているとはいえ、ね」
「それが理由でしたね。グレイ公爵家以外ですと、外交として他国の王族を迎えることも多いですし、王家の血が薄まらないようにという考えなのでしょうけど……」
「王家の者を幅広く降嫁させれば、グレイ公爵家に拘らなくていいんだよ。使える王子は多いだろう?」
サミュエルの明け透けな言葉にノアは苦笑する。
確かに、通常王妃・王配とされる者以外にも、数人の側妃的な者を置くことが多い王家は子だくさんだ。王子・王女は婚姻外交として外国に出されることが多いとはいえ、一部を国内の貴族に降嫁させても問題ない。
「私としては、グレイ公爵家から王家に定期的に嫁がせるという決まりをなくしたいんだけどね。殿下は不満だと思いながらも協力してくれない。王家の伝統に背くような考えだから、それを推進すると自分の失点になると思っているんだろうね」
「失点……ですが、殿下は既に立太子されてますし、影響がありますか?」
「あるね。その決まりに則って、私を婚約者にしているからこその立太子だったから。決まり自体が変われば、殿下はその地位を失って、他の優秀な王子が立太子することもあり得る」
「そんなことがあるのですね……」
大変難しい問題だ。
つまり、ライアンはサミュエルとの婚約に不満があっても、利点があるから関係を継続して、不満解消に動かない。
対して、サミュエルの方は不満があって、実際にそれを解消させようと動いているけれど、立場的に実現が難しい、ということだ。
サミュエルの助けになりたい。でも、ノアの立場と能力で何ができるかと考えても、いいアイディアはまるで浮かばなかった。
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