内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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13.怪しい密会

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 噂の二人は、とても親密に寄り添っているように見えた。ノアは思わず眉を顰めてしまう。婚約者がいる男性として、そのような距離感はあり得ない。

「噂は気にしなくていい。俺が守ってやるから」
「……はい」

 ライアンの力強い言葉。アシェルは依然として不安そうだったけれど、ライアンはそれをあまり気にしていないようだ。それよりも自身の鬱憤に意識が囚われている様子。

「まったく、貴族どもは下品な噂話ばかりに興じて、役に立たない者ばかりだ。サミュエルも貴族たちに煽てられて、偉そうに振る舞うだけだからな。マシューやリオンは俺の意向をきちんと聞いてくれるというのに」
「お二人は、確かに優しいです……」

 ライアンに同意するアシェルだけれど、何か思うところがあるように見える。でも、口籠ってそれ以上言葉を続けられないようだ。

 ノアは、ライアンの横暴な発言に、少し怒りが湧いた。貴族令息令嬢が噂話に興じているのは確かだ。でも、ライアンたちの態度を見極めるように、事態を静観している者もたくさんいる。その多くはライアンやサミュエルに近い高位貴族だ。
 貴族という立場で全員を一絡げにこき下ろす発言は、ノアとしては受け入れがたい。
 そもそも、噂話になるほど、ライアンが王侯貴族の常識から外れるような振る舞いをしているのは確かなのだ。

「アシェルは元々平民だったんだ。貴族は平民を守らなければならない立場であるのに、それを理解していない者が多すぎる。贅沢に慣れ、自分を特権階級だと驕り、義務を果たすことを忘れた者たちばかりだ」
「……そうなのですね」

 込み上げてきたため息を、ノアは必死に堪えた。ライアンの発言にはいくらでも反論できる。
 アシェルは元平民とはいえ今は貴族。貴族が守るべき民とは言えない。平民を嘲り、立場に驕った者もいるけれど、それは貴族の一部だ。ライアンの発言は、大山の裾野だけを見て、全てを把握したように勘違いしているとしか思えなかった。
 隠れて見ているノアが、それを指摘することはできないし、そんな勇気もないけれど。

「俺は貴族たちの意識改革をする。貴族の平民を守るというあり方を、俺の世代から徹底させなければ」
「……素晴らしい考えですね。応援してます!」

 熱意に溢れているのは良いのだけれど、その方向性はあっているのだろうか。どうにも、独り善がりの正義感で、視野が狭くなっているように思えてならない。
 アシェルの返答はやけに明るく、まるで何かのセリフをなぞっているように感じられた。本心が読み取れない。

 それでもアシェルの応援で、ライアンのやる気は更に高まってしまったようだ。
 ライアンの貴族への反感の強さを思いがけず知ってしまい、これが将来の王と考えると不安しかない。

 ノアは二人が立ち去るまで息を潜めて待ち、家路を急いだ。早い内にライアンについて調べる必要がある。サミュエルが語っていた通り、貴族は国を健全に保つよう務めなければならないのだ。ノアはこうして不穏な話を聞いてしまった以上、不安材料への対処法を考えなければならない。

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