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12.学園の変化
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暫く経った学園は、常の優雅に落ち着いた雰囲気はなく、不安定なざわめきに満ちていた。ライアンとアシェルの親しい様子が数多の貴族令息令嬢に目撃され、悪意や揶揄に満ちた噂話が飛び交っているのだ。
軽いものでは『殿下は貴族未満の平民を憐れんで優しくしてやっているのだ』という程度。酷いものでは、『殿下は既にアシェルと性的な関係にある』なんて下品な噂もある。不敬極まりない。
側近二人は事態の収拾に動き出す様子を見せない。むしろ、二人してアシェルに甘い態度で接し、噂を助長させているようだ。アシェルは『ふしだらな少年』なんて呼ばれて、好奇の目にさらされている。アシェルの本意による行動ではなかった場合、あまりにも可哀想な話だ。
「……アシェルは、グラシャ男爵と再婚した母親の連れ子。でも、大して教育をせずに学園に放り込むなんて、愛情を持って迎えられたとは思えなかったけど……」
今朝、部下に手渡された報告書を持って、ノアは顔を顰めていた。
ここは裏庭の秘密場所。サミュエルとの約束はないから、来ないだろう。でも、いつも通り猫が寛いでいて、学園の刺々しい雰囲気に疲れたノアを癒してくれる。
「冷遇かぁ……」
アシェルについての報告書には、グラシャ男爵とアシェルの母親が、アシェルに関心なく冷遇しているようだと書かれていた。養子手続きをしたのは、貴族としての体面を気にしてのこと。それなら教育をきちんと施さなければ、むしろ悪影響になると思うけれど。
「難しい……」
アシェルがただの悪人であれば、言い方は悪いけれど対処は簡単だった。ノアの叔父は学園長である。叔父に連絡して、貴族に相応しくない存在がいるとして、本人に注意勧告してもらえばいい。
でも、アシェルが何を考えて王太子や高位貴族令息と親しくなっているのか分からないと、下手な手は打てなかった。アシェルは元平民の現男爵家子息。高貴な存在に逆らえず、本人の意思に反して悪評を立てられることになっている可能性もある。
「はぁ……ここで考えていても仕方ないか。そろそろ家に帰ろう」
今日はあまり精神を落ち着けられなかったなと思いながら立ち上がる。自分の性格と人と話せなかったことに落ち込んでいたわけではなく、一朝一夕で片付かない問題について悩んでいたのだから仕方ないけれど。
慣れた道を歩いていると、ふと人の気配を感じた。騎士の巡回ルートとは少しズレたところだ。この辺に騎士以外が来るのは珍しい。
サミュエルだろうかと首を傾げながら、こっそりと様子を窺ってみた。隠れてなのは、もしサミュエルではなく、騎士でもなかった場合、ノアがまともに話せる気がしなかったからだ。
「……随分と騒がれてしまったな」
一瞬呼吸が止まった。この声は、王太子のライアンだ。ここは学園の建物から見えない位置の場所。明らかに隠れてここに来ている。
話している相手は誰かと、木の陰から窺って、ノアは予想が的中したことにため息をついた。
「はい……。僕、どうしたらいいんでしょう……」
アシェルだ。ノアは天を仰ぎたい気分になる。何故こんな、面倒な場面を目撃してしまうのか。
でも、これはアシェルやライアンの考えを知る良い機会でもある。ノアは息を潜めて二人の様子を見つめた。
軽いものでは『殿下は貴族未満の平民を憐れんで優しくしてやっているのだ』という程度。酷いものでは、『殿下は既にアシェルと性的な関係にある』なんて下品な噂もある。不敬極まりない。
側近二人は事態の収拾に動き出す様子を見せない。むしろ、二人してアシェルに甘い態度で接し、噂を助長させているようだ。アシェルは『ふしだらな少年』なんて呼ばれて、好奇の目にさらされている。アシェルの本意による行動ではなかった場合、あまりにも可哀想な話だ。
「……アシェルは、グラシャ男爵と再婚した母親の連れ子。でも、大して教育をせずに学園に放り込むなんて、愛情を持って迎えられたとは思えなかったけど……」
今朝、部下に手渡された報告書を持って、ノアは顔を顰めていた。
ここは裏庭の秘密場所。サミュエルとの約束はないから、来ないだろう。でも、いつも通り猫が寛いでいて、学園の刺々しい雰囲気に疲れたノアを癒してくれる。
「冷遇かぁ……」
アシェルについての報告書には、グラシャ男爵とアシェルの母親が、アシェルに関心なく冷遇しているようだと書かれていた。養子手続きをしたのは、貴族としての体面を気にしてのこと。それなら教育をきちんと施さなければ、むしろ悪影響になると思うけれど。
「難しい……」
アシェルがただの悪人であれば、言い方は悪いけれど対処は簡単だった。ノアの叔父は学園長である。叔父に連絡して、貴族に相応しくない存在がいるとして、本人に注意勧告してもらえばいい。
でも、アシェルが何を考えて王太子や高位貴族令息と親しくなっているのか分からないと、下手な手は打てなかった。アシェルは元平民の現男爵家子息。高貴な存在に逆らえず、本人の意思に反して悪評を立てられることになっている可能性もある。
「はぁ……ここで考えていても仕方ないか。そろそろ家に帰ろう」
今日はあまり精神を落ち着けられなかったなと思いながら立ち上がる。自分の性格と人と話せなかったことに落ち込んでいたわけではなく、一朝一夕で片付かない問題について悩んでいたのだから仕方ないけれど。
慣れた道を歩いていると、ふと人の気配を感じた。騎士の巡回ルートとは少しズレたところだ。この辺に騎士以外が来るのは珍しい。
サミュエルだろうかと首を傾げながら、こっそりと様子を窺ってみた。隠れてなのは、もしサミュエルではなく、騎士でもなかった場合、ノアがまともに話せる気がしなかったからだ。
「……随分と騒がれてしまったな」
一瞬呼吸が止まった。この声は、王太子のライアンだ。ここは学園の建物から見えない位置の場所。明らかに隠れてここに来ている。
話している相手は誰かと、木の陰から窺って、ノアは予想が的中したことにため息をついた。
「はい……。僕、どうしたらいいんでしょう……」
アシェルだ。ノアは天を仰ぎたい気分になる。何故こんな、面倒な場面を目撃してしまうのか。
でも、これはアシェルやライアンの考えを知る良い機会でもある。ノアは息を潜めて二人の様子を見つめた。
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