11 / 277
11.憂慮
しおりを挟む
家に帰ってきたノアは、領地の報告書を読みながらふわりと微笑んだ。以前指示した作物栽培法が無事成功したらしい。収穫量が二倍近くになったとの報告は嬉しくて当たり前。
サミュエルとはより仲良くなれた気がするし、今日は良いことばかりだ。
「――繊細さん、かぁ……」
自分の欠点の内気さをそのように表現されるとは思わなかったけれど。サミュエルが良い風に解釈してくれたのが嬉しい。
不思議と自信が湧いて、その後は吃らずに話をできたのだから、ノアは自分に『上手く他人と喋れない』という暗示をかけていたのかもしれない。
これで少しは人と話せるようになれれば良いのだけれど。
「サミュエル様といえば……ライアン王太子殿下のことを話せなかったな……」
サミュエルとの待ち合わせに赴く途中で見た光景。寄り添うライアンとアシェルの姿。一幅の絵のように美しかったけれど、本来あり得てはならないことだ。婚約者でもない二人が密着するなんて。
たくさんの人が目撃していたから、サミュエルの元にも報告が入っていたかもしれない。でも、ノアの前に現れたサミュエルにはそんな様子が見受けられなかった。貴族として内心を悟られるようなことをしなかっただけなのかもしれないけれど――。
「心配だ……」
サミュエルは憧れの人だったから、ノアの好意は元々高かった。それに加え、親しく話をさせてもらえるようになって、その人間性や振る舞いにより好ましさを感じた。
遠くから眺める憧れの人に留まらず、既に身近な好きな人になっているのだ。スキャンダラスな噂を心配するのも当然というもの。
「貴族って噂好きが多いし……」
サミュエルの心理的負担を軽くしてあげたい。そもそもサミュエルがライアンのことをどこまで気にかけるかも分からないけれど。
それに、ライアンはこの国の王太子。つまり次期国王だ。ライアンに不確かな存在が安易に近づいても良いものか。
「ライアン王太子殿下の側近は、確か……リカルド侯爵家の嫡男マシュー様とトラドール伯爵家嫡男のリオン様」
リカルド侯爵といえば現宰相で、トラドール伯爵は騎士団を統括する立場。その子息が王太子の側近になるのは何の不思議もない。
ライアンに問題が起きれば、その二人が対処するのが本来のあり方だけれど、少し不安があった。
「……お二方とも、あまり優秀という話を聞かないんだよなぁ」
ライアンはノアやサミュエルの一つ上の学年だ。側近であるマシューとリオンはライアンと同じ学年。今年卒業を迎えるわけだが、およそ三年にも及ぶ学園生活の中で、マシューやリオンが何か成果を残したという話を聞いたことがなかった。
噂では、親の地位を笠に着て、王太子の側近である自身の立場に慢心し、大して仕事ができない者たちらしい。
「噂だから、全てを信じるわけにもいかないけど……かといって、僕は彼らとちゃんと話したこともないし」
内気であるノアに貴族たちとの人脈なんてないも同然。噂話ですら、近くで話している者から漏れ聞こえた程度のものだ。それで誰かを非難することはできない。
でも、サミュエルがそのせいで被害を受ける可能性を考えると、ため息が零れてしまう。
「何事も、起きなければ良いんだけど……」
ノアに何ができるかは分からない。それでも、とりあえず問題のアシェルについての情報を集めておこうと、部下に指示を出した。
サミュエルとはより仲良くなれた気がするし、今日は良いことばかりだ。
「――繊細さん、かぁ……」
自分の欠点の内気さをそのように表現されるとは思わなかったけれど。サミュエルが良い風に解釈してくれたのが嬉しい。
不思議と自信が湧いて、その後は吃らずに話をできたのだから、ノアは自分に『上手く他人と喋れない』という暗示をかけていたのかもしれない。
これで少しは人と話せるようになれれば良いのだけれど。
「サミュエル様といえば……ライアン王太子殿下のことを話せなかったな……」
サミュエルとの待ち合わせに赴く途中で見た光景。寄り添うライアンとアシェルの姿。一幅の絵のように美しかったけれど、本来あり得てはならないことだ。婚約者でもない二人が密着するなんて。
たくさんの人が目撃していたから、サミュエルの元にも報告が入っていたかもしれない。でも、ノアの前に現れたサミュエルにはそんな様子が見受けられなかった。貴族として内心を悟られるようなことをしなかっただけなのかもしれないけれど――。
「心配だ……」
サミュエルは憧れの人だったから、ノアの好意は元々高かった。それに加え、親しく話をさせてもらえるようになって、その人間性や振る舞いにより好ましさを感じた。
遠くから眺める憧れの人に留まらず、既に身近な好きな人になっているのだ。スキャンダラスな噂を心配するのも当然というもの。
「貴族って噂好きが多いし……」
サミュエルの心理的負担を軽くしてあげたい。そもそもサミュエルがライアンのことをどこまで気にかけるかも分からないけれど。
それに、ライアンはこの国の王太子。つまり次期国王だ。ライアンに不確かな存在が安易に近づいても良いものか。
「ライアン王太子殿下の側近は、確か……リカルド侯爵家の嫡男マシュー様とトラドール伯爵家嫡男のリオン様」
リカルド侯爵といえば現宰相で、トラドール伯爵は騎士団を統括する立場。その子息が王太子の側近になるのは何の不思議もない。
ライアンに問題が起きれば、その二人が対処するのが本来のあり方だけれど、少し不安があった。
「……お二方とも、あまり優秀という話を聞かないんだよなぁ」
ライアンはノアやサミュエルの一つ上の学年だ。側近であるマシューとリオンはライアンと同じ学年。今年卒業を迎えるわけだが、およそ三年にも及ぶ学園生活の中で、マシューやリオンが何か成果を残したという話を聞いたことがなかった。
噂では、親の地位を笠に着て、王太子の側近である自身の立場に慢心し、大して仕事ができない者たちらしい。
「噂だから、全てを信じるわけにもいかないけど……かといって、僕は彼らとちゃんと話したこともないし」
内気であるノアに貴族たちとの人脈なんてないも同然。噂話ですら、近くで話している者から漏れ聞こえた程度のものだ。それで誰かを非難することはできない。
でも、サミュエルがそのせいで被害を受ける可能性を考えると、ため息が零れてしまう。
「何事も、起きなければ良いんだけど……」
ノアに何ができるかは分からない。それでも、とりあえず問題のアシェルについての情報を集めておこうと、部下に指示を出した。
184
◇長編◇
本編完結
『貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです』
本編・続編完結
『雪豹くんは魔王さまに溺愛される』書籍化☆
完結『天翔ける獣の願いごと』
◇短編◇
本編完結『悪役令息になる前に自由に生きることにしました』
お気に入りに追加
4,631
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる