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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族
4-50.二人の繋がり
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街での騒動から一ヶ月。
ブレスラウが本格的に竜族に受け入れられた。ついでにスノウもアークの番として尊重されるようになった感じがするけれど、それはどうでもいい。
重要なのは、ブレスラウが忙しくなってしまったということだ。
多くの竜族と共に人間への報復を行った後、魔王の後継者として本格的に仕事へと関わるようになったから。
せっかく竜族たちが里へと帰還し、親子で過ごせる時間が増えると思っていたのに。スノウは少し寂しい。
今日も執務室で一緒に仕事をしているのに、ほとんど会話がない。
「むぅ……」
「にぃ……」
スノウとルミシャンスは執務室のソファで寛ぎながら、なにやら話をしているアークとブレスラウ、ロウエンの三人を眺めた。
スノウたちがむくれているのは、「おやつの時間だよ!」と言っても三人が仕事を切り上げないから。
「先に食べよっか」
「ラウは?」
「忙しいって」
「……いっしょがいい」
三人に聞こえるようにルミシャンスと話してみる。これで気づいてくれないかな、と期待を込めて、三人に視線を送った。
最初に反応したのはアークだ。常から仕事よりスノウを優先しがちなのだからそれも当然。
でも、ブレスラウたちが真剣に話し込んでいるから、どうするべきか少し迷っているようだ。
そんなアークの様子に気づいたのがロウエンで、すっかりお茶の用意が整っているテーブルを見て、ひょいっと片眉を上げる。
「おや。スノウ様とルミシャンス様が私たちをお待ちのようですよ」
「そうだな。休憩にしよう」
「……ああ、なるほど」
すぐさまロウエンの提案にのったアークとは違い、ブレスラウは少し面倒くさそうだ。
そういうところもスノウは心配である。
こんなに幼い内から仕事に熱を上げるようになって大丈夫なのか。もう少し肩の力を抜いてもいいと思うのだけれど。
「ラウ、いっしょにお茶のむ!」
「そうだな、そうしよう」
ルミシャンスが心なしかキリッとした顔で要求したら、億劫そうだったのが嘘のようにブレスラウが近づいてきた。
「ルミシャンスに言われなくても休憩をとろうよ……」
妹に弱いブレスラウの態度に呆れるやら、ホッとするやら。
スノウは苦言を呈してみるけれど、ブレスラウにはあまり効果がなさそうだ。
ルミシャンスに言われたらあっさりと休憩をとろうとするのは喜ばしけれど、悩ましくもある。
できるだけ長くルミシャンスへの偏愛が続くよう祈るべきか、否か。あまり妹に愛情を注ぎすぎるのはよくないと思うのだ。
「こいつはなぜルミシャンスにこうも弱いんだ」
スノウの隣に腰掛けたアークが、奇妙なものを見るようにブレスラウを観察している。
ブレスラウが幼い頃からよくそんな眼差しをしていたけれど、最近はとみに違和感を感じているようだ。
「どうしてなんだろうねぇ」
「見ているぶんには面白いですが」
「俺の子を面白がるな」
アークの憮然とした表情にロウエンが笑う。
お茶やお菓子を食べて、リラックスした雰囲気になっていい感じだ。やっぱり適度な休憩は大切。
「俺とルミは一緒」
「いっしょー」
不意にブレスラウとルミシャンスが口を挟んだ。
スノウたちはきょとんとする。
言葉の意味が分からなかったし、ブレスラウたちがこの話題に反応するのが初めてで驚いたというのも理由だ。
「何が一緒なの?」
「存在」
「つながり?」
「ごめん、理解できないや……」
スノウは苦笑してしまった。
子どもたちの言いたいことはできるだけ理解してあげたいけれど、ブレスラウの言葉は端的だし、ルミシャンスはまだ使える語彙が少ない。だから、説明をしてもらってもなかなか理解に辿り着けない。
「生まれた時から何かが繋がってる」
「あのね、ばぁばたちが、ラウもまもるのよーって、つなげてるの」
「ばぁば?」
ルミシャンスの言葉に、スノウは目を丸くした。
おそらく祖母を指して言っているのだろう。でも、ルミシャンスはまだラトには会えていないし、何かを言われているはずがないのだけれど——。
そこまで考えたところで、ハッと息を飲んだ。
ルミシャンスたちにとって、祖母とはラトよりもスノウの母のことのはず。それこそ会ったことはないはずだけれど、その意思を感じる可能性があることは知っていた。
スノウがルミシャンスたちをお腹の中に抱えていた時から、母や雪豹族の仲間たちは幾度もスノウを助けてくれていたのだから。
「……僕の母様とお話したことがあるの?」
ドキドキしながら問いかけてみる。アークとロウエンが驚いた様子で息を飲みながらも、スノウと同じようにルミシャンスの返事を静かに待った。
「あるよー。ばぁばたち、ルミたちをいつもみまもってるの。おとなになるまでしゅごしてくれるんだって」
ルミシャンスはそう答えた後、「しゅごってなんだろうねぇ。なんだかあたたかいかんじがするの」と尻尾をご機嫌そうに揺らした。
スノウはアークたちと視線を交わす。
母たちの思いが今もしっかりと生きていることを感じて、涙が出そうになるほど嬉しかった。
ブレスラウが本格的に竜族に受け入れられた。ついでにスノウもアークの番として尊重されるようになった感じがするけれど、それはどうでもいい。
重要なのは、ブレスラウが忙しくなってしまったということだ。
多くの竜族と共に人間への報復を行った後、魔王の後継者として本格的に仕事へと関わるようになったから。
せっかく竜族たちが里へと帰還し、親子で過ごせる時間が増えると思っていたのに。スノウは少し寂しい。
今日も執務室で一緒に仕事をしているのに、ほとんど会話がない。
「むぅ……」
「にぃ……」
スノウとルミシャンスは執務室のソファで寛ぎながら、なにやら話をしているアークとブレスラウ、ロウエンの三人を眺めた。
スノウたちがむくれているのは、「おやつの時間だよ!」と言っても三人が仕事を切り上げないから。
「先に食べよっか」
「ラウは?」
「忙しいって」
「……いっしょがいい」
三人に聞こえるようにルミシャンスと話してみる。これで気づいてくれないかな、と期待を込めて、三人に視線を送った。
最初に反応したのはアークだ。常から仕事よりスノウを優先しがちなのだからそれも当然。
でも、ブレスラウたちが真剣に話し込んでいるから、どうするべきか少し迷っているようだ。
そんなアークの様子に気づいたのがロウエンで、すっかりお茶の用意が整っているテーブルを見て、ひょいっと片眉を上げる。
「おや。スノウ様とルミシャンス様が私たちをお待ちのようですよ」
「そうだな。休憩にしよう」
「……ああ、なるほど」
すぐさまロウエンの提案にのったアークとは違い、ブレスラウは少し面倒くさそうだ。
そういうところもスノウは心配である。
こんなに幼い内から仕事に熱を上げるようになって大丈夫なのか。もう少し肩の力を抜いてもいいと思うのだけれど。
「ラウ、いっしょにお茶のむ!」
「そうだな、そうしよう」
ルミシャンスが心なしかキリッとした顔で要求したら、億劫そうだったのが嘘のようにブレスラウが近づいてきた。
「ルミシャンスに言われなくても休憩をとろうよ……」
妹に弱いブレスラウの態度に呆れるやら、ホッとするやら。
スノウは苦言を呈してみるけれど、ブレスラウにはあまり効果がなさそうだ。
ルミシャンスに言われたらあっさりと休憩をとろうとするのは喜ばしけれど、悩ましくもある。
できるだけ長くルミシャンスへの偏愛が続くよう祈るべきか、否か。あまり妹に愛情を注ぎすぎるのはよくないと思うのだ。
「こいつはなぜルミシャンスにこうも弱いんだ」
スノウの隣に腰掛けたアークが、奇妙なものを見るようにブレスラウを観察している。
ブレスラウが幼い頃からよくそんな眼差しをしていたけれど、最近はとみに違和感を感じているようだ。
「どうしてなんだろうねぇ」
「見ているぶんには面白いですが」
「俺の子を面白がるな」
アークの憮然とした表情にロウエンが笑う。
お茶やお菓子を食べて、リラックスした雰囲気になっていい感じだ。やっぱり適度な休憩は大切。
「俺とルミは一緒」
「いっしょー」
不意にブレスラウとルミシャンスが口を挟んだ。
スノウたちはきょとんとする。
言葉の意味が分からなかったし、ブレスラウたちがこの話題に反応するのが初めてで驚いたというのも理由だ。
「何が一緒なの?」
「存在」
「つながり?」
「ごめん、理解できないや……」
スノウは苦笑してしまった。
子どもたちの言いたいことはできるだけ理解してあげたいけれど、ブレスラウの言葉は端的だし、ルミシャンスはまだ使える語彙が少ない。だから、説明をしてもらってもなかなか理解に辿り着けない。
「生まれた時から何かが繋がってる」
「あのね、ばぁばたちが、ラウもまもるのよーって、つなげてるの」
「ばぁば?」
ルミシャンスの言葉に、スノウは目を丸くした。
おそらく祖母を指して言っているのだろう。でも、ルミシャンスはまだラトには会えていないし、何かを言われているはずがないのだけれど——。
そこまで考えたところで、ハッと息を飲んだ。
ルミシャンスたちにとって、祖母とはラトよりもスノウの母のことのはず。それこそ会ったことはないはずだけれど、その意思を感じる可能性があることは知っていた。
スノウがルミシャンスたちをお腹の中に抱えていた時から、母や雪豹族の仲間たちは幾度もスノウを助けてくれていたのだから。
「……僕の母様とお話したことがあるの?」
ドキドキしながら問いかけてみる。アークとロウエンが驚いた様子で息を飲みながらも、スノウと同じようにルミシャンスの返事を静かに待った。
「あるよー。ばぁばたち、ルミたちをいつもみまもってるの。おとなになるまでしゅごしてくれるんだって」
ルミシャンスはそう答えた後、「しゅごってなんだろうねぇ。なんだかあたたかいかんじがするの」と尻尾をご機嫌そうに揺らした。
スノウはアークたちと視線を交わす。
母たちの思いが今もしっかりと生きていることを感じて、涙が出そうになるほど嬉しかった。
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