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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-47.裏事情

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 ブレスラウとロウエンも含めて、応接用のソファに揃ったところで、アークが口を開く。

 ちなみにすっかりと眠りに落ちたルミシャンスは、ルイスが用意してくれた揺りかごの中で、気持ちよさそうに寝息を立てていた。

「はじまりは、パールセンがブレスラウに『竜族の試練』を求めたことだ」
「なぁに、それ」

 アークに果物を給餌されて、甘んじて受け入れていたスノウは、ぱちりと目を瞬く。
 竜族の試練なんて初めて聞いたはずだ。

「竜族は伝統的に、成人する前に決まった試練を受ける。それをクリアできて初めて、一人前の竜族だと認定されるんだ」
「そうなの。そういう伝統があるのは仕方ないけど……試練って具体的にどういうのなの?」

 言葉の印象はあまり良くない。というか、嫌な予感がする。

 眉を寄せるスノウの眉間に、アークがキスをした。こんな時でも甘やかな触れ合いを忘れないのはさすがだ。

 ブレスラウもロウエンも見ているのだからやめてほしいけれど、そう言ったところでアークが止まる気がしない。

 生温かい目のロウエンはともかく、ブレスラウは心底嫌そうに顔を歪めている。睨む先はアークだけだ。

 こういうところが、ブレスラウがアークに反抗する理由の一つなんだろうな、と思ってスノウは目を逸らした。

 アークを庇うのは難しそうだ。アーク自身、一切こたえていないようだから、スノウがどうこうする必要もないんだろうけれど。

「一般的には竜族の里周囲にある魔力溜まりから湧く魔物の駆除だな」
「魔物の駆除……それは試練って言うほどのこと?」

 スノウの認識では、魔物の駆除は狩りと同義である。
 雪豹の里でみんなが日常的に行っていたし、多くの魔族にとってもそうだろう。

「スノウ様。竜族の里があるのは、最も魔力濃度が高い地域ですよ」
「それが、どうしたの?」
「魔力が濃いということは、そこにいる魔物も相応に強いということです」
「あ……つまり、普通の魔族だと倒せない魔物ばっかり?」

 ロウエンに言われてようやく気づいた。
 竜族の里は、存在している場所も特殊なようだ。強い魔物ばかりの場所で暮らせるのは、さすが魔族最強の種族ということだろう。

「吸血鬼族なら倒すことは可能ですが、そこで暮らしたいとは思えない程度には難度の高い場所です」
「え、そこまで……」

 竜族に次ぐ実力と評されることもある吸血鬼族を例に出されて、竜族の里に対する理解度が深まった。
 正直、どうしてそんな場所で暮らしているんだろう、という疑問が湧いてくる。絶対もっと暮らしやすい場所があるはずだ。

「竜族にとっては居心地がいい魔力濃度なんだがな」
「そうなんだ……。ちょっと理解ができないけど、今は重要じゃないから置いとく。それより、試練の話をして」

 肩をすくめるアークの胸元を軽く叩いて話を促す。
 すると、果物を口に放り込まれた。甘いものを求めたわけではなかったけれど、疲労感が和らいでいく気がしたので文句は言わない。

「ああ。——竜族の子は、魔物を倒して、それを里に捧げることで、竜族の一員として認められる。だが、この辺にはそのような魔物がいないだろう?」
「いたらびっくりだし、街のみんなが怯えちゃうね」

 当然と頷きながら言ったら、アークに苦笑された。
 アークは『大げさだ』と思っていそうだけれど、スノウの感覚の方が正しいと思う。竜族の基準は当てにならない。

「だから、ブレスラウの試練をどうするべきか迷っていたんだ」
「……それがどうして今日の街でのことに繋がるの?」

 本題に入る気配を察して、スノウは姿勢を正す。
 じっと見据えた先で、アークが夕陽色の瞳に呆れのような感情を浮かべていた。

「パールセンが、街におかしな気配があると報告してきたんだ。『ブレスラウが今後竜族の長だけでなく、魔王という立場も引き継ぐ可能性があることを考えると、その問題を解決するという試練を課すのはどうか』という進言と共にな」

 スノウはパチリと瞬きをしてから、目を細める。
 じとっと見つめると、アークが静かに顔を背けた。

「アークは、それを受け入れたんだね?」
「……ああ。竜族の里で試練を受けさせるより、スノウは心配しないだろうと思ってな」

 そう言われてしまうと、スノウは文句を言えない。
 竜族の里という遠く離れた場所で、強い魔物と対峙してくるなんて聞いたら、心配のあまり帰ってくるまで眠ることもできないだろう。

 それに引き換え、スノウの傍で問題に関わる程度なら、そこまで精神的負担は大きくない……気がしないでもない。
 断言できないのは、現状でだいぶ疲れたという自覚があるからだ。

「試練が竜族にとって必要なことだってことも、アークが僕のこと気遣ってくれたことも分かった。ありがとう。……でも、どうして僕に事前に教えてくれなかったの?」

 それだけがスノウの心に引っ掛かっていた。

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