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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族
4-45.当然の不満
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ブレスラウの爪が男に襲いかかる。
「だめ!」
スノウは咄嗟に叫んだ。ぴたりと止まったブレスラウが『どうして?』と言いたげな目で振り返ってくる。
「——殺してしまったら、目的とか仲間とかの情報が得られなくなっちゃうからね」
感情を排して告げた。ブレスラウにはこれくらいの方が理解されやすいだろう。スノウと違って、ブレスラウは感情よりも理屈を優先するから。
腕の中で固まっているルミシャンスを撫でて宥めながら、スノウはブレスラウに微笑みかける。
「……分かった。究明は大事」
納得したブレスラウがスノウの傍に戻ってくる。
その隙に逃げようとした男を騎士たちが取り押さえていた。未知の魔法を警戒して、魔力封印付きの拘束具を使っている。
その様子を見て、スノウは目を細めた。違和感を抱いたのだ。
普通、護衛する際に、騎士がそのような特殊な拘束具を持ち歩いているものだろうか。
まるで今回のようなことが起きると予期していたようだと思えてならなかった。
「にー……」
「びっくりしたね。もう大丈夫だよ」
尻尾をくわえながら、弱々しく鳴くルミシャンスを揺らしてあやす。子どもには、まだ刺激が強い光景だったのだろう。
「ルミ、驚かせた。悪い……」
ばつが悪そうな様子でブレスラウが小さく頭を下げた。
敵に対しての行動として間違いではなかったけれど、他にやりようがあったのも事実。というか、あの場面では騎士に任せても良かった。
それでも止まれなかったのは、ブレスラウがまだ子どもで、経験不足だからだろう。
まだまだ成長できる余地があるのはいいことだと思う。
本人が理解しているようだから、スノウも叱るつもりはない。
「ラウはわるくないの。ルミがびっくりしただけ」
ルミシャンスが健気にブレスラウを励ます。そのおかげでブレスラウの表情が少し和らいだ。
仲の良い兄妹のやり取りに、スノウの頬が自然と微笑む。
拘束されている男がいる場で和んでいる場合じゃないと分かっているけれど、緊張感から逃げたっていいだろう。
「スノウ様、男がルイスの転移先を吐きました。これより、街の警邏隊を向かわせます」
「騎士じゃなくていいの? というか、転移先……?」
よく分からない言葉だった。
スノウはきょとんと目を丸くして、報告してきた騎士に問い返す。
「はい。この件は、もともと警邏隊が追っていましたので。魔法アイテムを所有している対象を、設定している地点まで瞬間的に転移させていたようです」
「……ああ、そうなの」
なんとなく状況が理解できた。
つまり、今回の事件はスノウたちを狙って起こされたものではなく、以前から問題視されていたということだ。
騎士たちが魔法封印付き拘束具を持っていたのもそのため。万が一、事件の関係者に遭遇した場合に、いち早く安全に捕らえられるように備えていたのだ。
「——僕、そんな話、アークから聞いてなかった……」
アークらしくない、と心の中で呟く。
魔法を使った誘拐事件が起こっている街に、アークなしに出歩くことが許されたのが、あまりに不自然だった。
もちろん、スノウにはアーク謹製の守護の腕輪があるから、あの店で買った魔法アイテムを持っていても、攫われるなんてことは起こりえなかったのだろうけれど。
子どもたちが巻き込まれていたらどうしてくれるんだ、と怒りが湧いてしまう。
「父者はきっと何か事情があった」
「……そうだね」
ぱちりと瞬く。
普段アークに反抗しがちなブレスラウが、庇うようなことを言うとは驚きだった。でも、もともと敬意や信頼は持っているようだから、自然とアークの心情を慮ったのだろう。
こういうところがブレスラウは大人じみているのだ。
とっくに大人になった自覚があるスノウが、子どもっぽいように思えて情けなくなってしまう。
それに、アークを信頼しきれなかったことに気づいて、少しショックだった。
子どもを守りたいという意思が勝っていたとはいえ、アークの真意を確かめないまま怒りを抱いてしまうなんて、番失格だ。
「パパ、わるい子?」
「ううん、違うよ。アークはきっといろいろなことを考えてこうしただけ」
ルミシャンスの窺うような眼差しに微笑み返す。
子どもにそんな誤解を与えてはいけないと、落ち込んだ気分を押し隠して言ってはみたものの、敏感に感情を察知されている気がする。
「ママいじめるのはわるいこと」
「いじめられてないよー」
「でも、かなしい、さびしいってしてる」
むぅ、と顔をしわくちゃにして怒る可愛い表情に、スノウはふはっと笑ってしまった。
ルミシャンスが気遣ってくれたおかげで、随分と心が軽くなった。
アークにどんな事情があったのかは知らないけれど、知らされてなかったことを怒るのは、スノウの正当な権利だ。怒って拗ねて、説明を聞いてから、しっかり受け入れようと決めた。
「ルミシャンスが代わりに怒ってくれたから、もう大丈夫! でも、いろいろあったし、今日はもう帰ろうね」
「……うん。またこようね?」
街へのトラウマは生じなかったようで、名残惜しげにねだられる。
スノウはホッとして、微笑みながら頷いた。
ちょうどその時、ルイス保護の報が届く。
ルイスが無事でよかった、と心から安堵の息を吐いた。
「だめ!」
スノウは咄嗟に叫んだ。ぴたりと止まったブレスラウが『どうして?』と言いたげな目で振り返ってくる。
「——殺してしまったら、目的とか仲間とかの情報が得られなくなっちゃうからね」
感情を排して告げた。ブレスラウにはこれくらいの方が理解されやすいだろう。スノウと違って、ブレスラウは感情よりも理屈を優先するから。
腕の中で固まっているルミシャンスを撫でて宥めながら、スノウはブレスラウに微笑みかける。
「……分かった。究明は大事」
納得したブレスラウがスノウの傍に戻ってくる。
その隙に逃げようとした男を騎士たちが取り押さえていた。未知の魔法を警戒して、魔力封印付きの拘束具を使っている。
その様子を見て、スノウは目を細めた。違和感を抱いたのだ。
普通、護衛する際に、騎士がそのような特殊な拘束具を持ち歩いているものだろうか。
まるで今回のようなことが起きると予期していたようだと思えてならなかった。
「にー……」
「びっくりしたね。もう大丈夫だよ」
尻尾をくわえながら、弱々しく鳴くルミシャンスを揺らしてあやす。子どもには、まだ刺激が強い光景だったのだろう。
「ルミ、驚かせた。悪い……」
ばつが悪そうな様子でブレスラウが小さく頭を下げた。
敵に対しての行動として間違いではなかったけれど、他にやりようがあったのも事実。というか、あの場面では騎士に任せても良かった。
それでも止まれなかったのは、ブレスラウがまだ子どもで、経験不足だからだろう。
まだまだ成長できる余地があるのはいいことだと思う。
本人が理解しているようだから、スノウも叱るつもりはない。
「ラウはわるくないの。ルミがびっくりしただけ」
ルミシャンスが健気にブレスラウを励ます。そのおかげでブレスラウの表情が少し和らいだ。
仲の良い兄妹のやり取りに、スノウの頬が自然と微笑む。
拘束されている男がいる場で和んでいる場合じゃないと分かっているけれど、緊張感から逃げたっていいだろう。
「スノウ様、男がルイスの転移先を吐きました。これより、街の警邏隊を向かわせます」
「騎士じゃなくていいの? というか、転移先……?」
よく分からない言葉だった。
スノウはきょとんと目を丸くして、報告してきた騎士に問い返す。
「はい。この件は、もともと警邏隊が追っていましたので。魔法アイテムを所有している対象を、設定している地点まで瞬間的に転移させていたようです」
「……ああ、そうなの」
なんとなく状況が理解できた。
つまり、今回の事件はスノウたちを狙って起こされたものではなく、以前から問題視されていたということだ。
騎士たちが魔法封印付き拘束具を持っていたのもそのため。万が一、事件の関係者に遭遇した場合に、いち早く安全に捕らえられるように備えていたのだ。
「——僕、そんな話、アークから聞いてなかった……」
アークらしくない、と心の中で呟く。
魔法を使った誘拐事件が起こっている街に、アークなしに出歩くことが許されたのが、あまりに不自然だった。
もちろん、スノウにはアーク謹製の守護の腕輪があるから、あの店で買った魔法アイテムを持っていても、攫われるなんてことは起こりえなかったのだろうけれど。
子どもたちが巻き込まれていたらどうしてくれるんだ、と怒りが湧いてしまう。
「父者はきっと何か事情があった」
「……そうだね」
ぱちりと瞬く。
普段アークに反抗しがちなブレスラウが、庇うようなことを言うとは驚きだった。でも、もともと敬意や信頼は持っているようだから、自然とアークの心情を慮ったのだろう。
こういうところがブレスラウは大人じみているのだ。
とっくに大人になった自覚があるスノウが、子どもっぽいように思えて情けなくなってしまう。
それに、アークを信頼しきれなかったことに気づいて、少しショックだった。
子どもを守りたいという意思が勝っていたとはいえ、アークの真意を確かめないまま怒りを抱いてしまうなんて、番失格だ。
「パパ、わるい子?」
「ううん、違うよ。アークはきっといろいろなことを考えてこうしただけ」
ルミシャンスの窺うような眼差しに微笑み返す。
子どもにそんな誤解を与えてはいけないと、落ち込んだ気分を押し隠して言ってはみたものの、敏感に感情を察知されている気がする。
「ママいじめるのはわるいこと」
「いじめられてないよー」
「でも、かなしい、さびしいってしてる」
むぅ、と顔をしわくちゃにして怒る可愛い表情に、スノウはふはっと笑ってしまった。
ルミシャンスが気遣ってくれたおかげで、随分と心が軽くなった。
アークにどんな事情があったのかは知らないけれど、知らされてなかったことを怒るのは、スノウの正当な権利だ。怒って拗ねて、説明を聞いてから、しっかり受け入れようと決めた。
「ルミシャンスが代わりに怒ってくれたから、もう大丈夫! でも、いろいろあったし、今日はもう帰ろうね」
「……うん。またこようね?」
街へのトラウマは生じなかったようで、名残惜しげにねだられる。
スノウはホッとして、微笑みながら頷いた。
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ルイスが無事でよかった、と心から安堵の息を吐いた。
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