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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族
4-44.雪と竜
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ルイス行方不明。
その報はすぐに騎士に託して城に届けた。スノウたちは周囲を捜索してみることにする。
本当は今すぐ城に戻った方がいいのだろう。でも、ルイスが心配で堪らないし、唐突な消え方から考えても、城に戻ったところでスノウたちが安全とは限らないと判断したのだ。
「気配途切れたよね?」
「ない。掻き消えたみたい」
「魔法かな?」
「分からない。似ている気はするけど、父者が使うものとは違うと思う」
ブレスラウの返事にスノウは頷く。
ルイスがいなくなった理由は、魔法を使われたというのが最有力だけれど、荒々しい印象が否めない。アークのような洗練された魔法ではないのだ。
「これって、やっぱり、あのアクセサリーが原因かな」
「可能性は高い」
スノウはブレスラウと目を合わせた後、ルミシャンスを見下ろす。
先程までアクセサリーに執着した様子だったのが嘘のように、一切気にかけていないようだ。ひたすらに「にぃに、どこいったの?」と不安そうに鳴いている。
「……本当の狙いはルミシャンスだった?」
「うん。——店主を拘束して」
ブレスラウの目がギラリと光った。金色の瞳は獰猛な獣のようだ。相当頭にきている様子である。
生まれた頃から世話されていただけあって、ブレスラウもそれなりにルイスに懐いていたから心配しているのだろう。でもそれ以上に、ルミシャンスを狙われたというのが、逆鱗に触れているのは間違いない。
「はっ、すでに騎士の一部を動かしています」
「あ、そうなの?」
スノウたちの周囲を囲む騎士の数にはあまり変わりがないように感じられる。別に騎士が潜んでいたのかもしれない。
それならば人手は問題なさそうだ、と吐息しながら、スノウはピリピリした気配に目を細めた。
ブレスラウはまだ感情の抑制ができないようだ。それが子どもらしくていいと思うけれど、アークが見たら「鍛えよう」とでも言うのだろう。竜族の子育ては放任主義なわりにスパルタでもある。
「ラウ。ルミ、あっちに行きたい。にぃに探す」
「あっち? なぜルイスが向こうにいると思うんだ」
不意にルミシャンスが手を伸ばしたのは、路地の方だった。
建物の間のそこは薄暗く、どこまで道が続いているかも分からない。わざわざ人を捜しに入る場所ではないだろう。
ブレスラウの疑問に同意し頷きながら、スノウはルミシャンスを見下ろす。
「ルミのもの、あっちにある気がする!」
「……あの怪しいものか」
スノウは無言でブレスラウを見つめた。
ルミシャンスがねだったアクセサリーはルイスが持っている。その気配を追えるなら、ルイスを捜せると思うけれど、それは罠に誘い込まれているような嫌な予感がした。
「騎士に行かせる?」
「えー、ルミは?」
「僕とここで待機だよ」
ルミシャンスは「にぃに、さがしにいくー」と主張する。でも、スノウは絶対に受け入れるつもりはない。
「では、行ってまいります」
神妙な面持ちで、騎士が再編成した部隊で路地へと進んだ。
それでもスノウたちを囲む騎士の数は減ったように見えないので、アークはどれほどの数の騎士を用意しているのだろうと少し呆れてしまう。
こうして事件が起きてしまっているのだから、そんなアークの備えは慧眼だったというべきなのかもしれないけれど。
「早くアークが来てくれたらいいなぁ」
城に送った騎士はどれくらいで報告を終えられるのだろうか。
アークの訪れを待ち望みながら、スノウはうごうごと身じろぎしているルミシャンスをぎゅっと抱きしめた。
ここで離したら、ルミシャンスまでいなくなってしまうかもしれない。
「……ママ、俺がいる。大丈夫」
「ふふ、心強いよ」
ムッとしながらも励ましてくれるブレスラウの優しさに、つい強ばっていた頬が緩む。
そうして和んだのも束の間。
緊張がほぐれたことで、より集中力が高まっていたのか、不意にざわりと空気が揺らいだのを、スノウは誰よりも早く感じ取った。
「——っ、誰!?」
キンッと何かが弾かれた音。
スノウは反射的に魔法を放っていた。
視界には何も異変がなかったけれど、敵意ある存在が近くにいるはずだ。どこにいるか分からないならば、スノウに有利なフィールドに持ち込めばいい。
「ゆき!」
状況にそぐわない歓声が聞こえる。ルミシャンスの声だ。
スノウが選んだ魔法は、周囲に雪を降らせるというもの。空気中の水分を凍らせ、風に舞わせているのだ。
春のあたたかさが満ちていた周囲が、突如現れた吹雪により、ひんやりとした冷たさに覆われる。
スノウやルミシャンスにとっては快適な状況だけれど、ブレスラウや騎士たち、街の人々には申し訳ないことをしたかもしれない。
でも、おかげで危険因子をあぶり出すことができたので許してもらいたい。
「そこっ!」
スノウが指差したのは、ぽつりと現れた雪がない一画。不自然だった。
すぐさま騎士が動くも、それより早くブレスラウが反応する。
一瞬で竜の姿に変化したかと思うと、鋭い爪をその空白地帯に向けて振り下ろした。
バリンッ! と何かが砕けるような音の後、尻餅をついた顔面蒼白の男が現れる。
——その男は、アクセサリーを売っていた店主だった。
その報はすぐに騎士に託して城に届けた。スノウたちは周囲を捜索してみることにする。
本当は今すぐ城に戻った方がいいのだろう。でも、ルイスが心配で堪らないし、唐突な消え方から考えても、城に戻ったところでスノウたちが安全とは限らないと判断したのだ。
「気配途切れたよね?」
「ない。掻き消えたみたい」
「魔法かな?」
「分からない。似ている気はするけど、父者が使うものとは違うと思う」
ブレスラウの返事にスノウは頷く。
ルイスがいなくなった理由は、魔法を使われたというのが最有力だけれど、荒々しい印象が否めない。アークのような洗練された魔法ではないのだ。
「これって、やっぱり、あのアクセサリーが原因かな」
「可能性は高い」
スノウはブレスラウと目を合わせた後、ルミシャンスを見下ろす。
先程までアクセサリーに執着した様子だったのが嘘のように、一切気にかけていないようだ。ひたすらに「にぃに、どこいったの?」と不安そうに鳴いている。
「……本当の狙いはルミシャンスだった?」
「うん。——店主を拘束して」
ブレスラウの目がギラリと光った。金色の瞳は獰猛な獣のようだ。相当頭にきている様子である。
生まれた頃から世話されていただけあって、ブレスラウもそれなりにルイスに懐いていたから心配しているのだろう。でもそれ以上に、ルミシャンスを狙われたというのが、逆鱗に触れているのは間違いない。
「はっ、すでに騎士の一部を動かしています」
「あ、そうなの?」
スノウたちの周囲を囲む騎士の数にはあまり変わりがないように感じられる。別に騎士が潜んでいたのかもしれない。
それならば人手は問題なさそうだ、と吐息しながら、スノウはピリピリした気配に目を細めた。
ブレスラウはまだ感情の抑制ができないようだ。それが子どもらしくていいと思うけれど、アークが見たら「鍛えよう」とでも言うのだろう。竜族の子育ては放任主義なわりにスパルタでもある。
「ラウ。ルミ、あっちに行きたい。にぃに探す」
「あっち? なぜルイスが向こうにいると思うんだ」
不意にルミシャンスが手を伸ばしたのは、路地の方だった。
建物の間のそこは薄暗く、どこまで道が続いているかも分からない。わざわざ人を捜しに入る場所ではないだろう。
ブレスラウの疑問に同意し頷きながら、スノウはルミシャンスを見下ろす。
「ルミのもの、あっちにある気がする!」
「……あの怪しいものか」
スノウは無言でブレスラウを見つめた。
ルミシャンスがねだったアクセサリーはルイスが持っている。その気配を追えるなら、ルイスを捜せると思うけれど、それは罠に誘い込まれているような嫌な予感がした。
「騎士に行かせる?」
「えー、ルミは?」
「僕とここで待機だよ」
ルミシャンスは「にぃに、さがしにいくー」と主張する。でも、スノウは絶対に受け入れるつもりはない。
「では、行ってまいります」
神妙な面持ちで、騎士が再編成した部隊で路地へと進んだ。
それでもスノウたちを囲む騎士の数は減ったように見えないので、アークはどれほどの数の騎士を用意しているのだろうと少し呆れてしまう。
こうして事件が起きてしまっているのだから、そんなアークの備えは慧眼だったというべきなのかもしれないけれど。
「早くアークが来てくれたらいいなぁ」
城に送った騎士はどれくらいで報告を終えられるのだろうか。
アークの訪れを待ち望みながら、スノウはうごうごと身じろぎしているルミシャンスをぎゅっと抱きしめた。
ここで離したら、ルミシャンスまでいなくなってしまうかもしれない。
「……ママ、俺がいる。大丈夫」
「ふふ、心強いよ」
ムッとしながらも励ましてくれるブレスラウの優しさに、つい強ばっていた頬が緩む。
そうして和んだのも束の間。
緊張がほぐれたことで、より集中力が高まっていたのか、不意にざわりと空気が揺らいだのを、スノウは誰よりも早く感じ取った。
「——っ、誰!?」
キンッと何かが弾かれた音。
スノウは反射的に魔法を放っていた。
視界には何も異変がなかったけれど、敵意ある存在が近くにいるはずだ。どこにいるか分からないならば、スノウに有利なフィールドに持ち込めばいい。
「ゆき!」
状況にそぐわない歓声が聞こえる。ルミシャンスの声だ。
スノウが選んだ魔法は、周囲に雪を降らせるというもの。空気中の水分を凍らせ、風に舞わせているのだ。
春のあたたかさが満ちていた周囲が、突如現れた吹雪により、ひんやりとした冷たさに覆われる。
スノウやルミシャンスにとっては快適な状況だけれど、ブレスラウや騎士たち、街の人々には申し訳ないことをしたかもしれない。
でも、おかげで危険因子をあぶり出すことができたので許してもらいたい。
「そこっ!」
スノウが指差したのは、ぽつりと現れた雪がない一画。不自然だった。
すぐさま騎士が動くも、それより早くブレスラウが反応する。
一瞬で竜の姿に変化したかと思うと、鋭い爪をその空白地帯に向けて振り下ろした。
バリンッ! と何かが砕けるような音の後、尻餅をついた顔面蒼白の男が現れる。
——その男は、アクセサリーを売っていた店主だった。
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