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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族
4-40.お出かけ準備
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子どもたちを連れて街に行く。
その提案は思いがけないほどすんなりと実行に移されることになった。
段取りを整えたロウエン曰く。
「魔王城という刺激の少ない生活では、魔族としての本能が上手く育たないかもしれません。そろそろ新たな経験を積んでも良い頃だと思います」とのことだ。
「僕が子どもの頃はなかなか街に連れて行ってもらえなかったのに……」
外出の準備をしながら、スノウはつい愚痴ってしまう。
狩りもそうだけれど、街への外出もねだってようやくだったのだ。それはアークのスケジュール調整が必要だったからというのが大きな理由だと分かっている。それでも、多少不満を持ってしまった。
「ブレスラウ様に不安はありませんからね」
「ルミシャンスは?」
ルイスがあえて口にしなかったことを指摘すると、目を逸らされた。その視線を追うと、床を走り回っているルミシャンスの姿がある。
「——元気いっぱいだなぁ」
「いつもよりテンションが高いですね。街に行くのが楽しみなのでしょう」
微笑ましいけれど、だいぶ心配。
そんな思いを抱えながら、スノウはルミシャンスを捕まえに行く。ブレスラウがとっくに外出の支度を整えているのに対して、ルミシャンスは起きたばかりで乱れた毛並みだ。
「ルミシャンス、おめかししようねー」
「リボン!」
「うん、どれがいい?」
ルミシャンス用のたくさんのリボンは、スノウたちからの贈り物がほとんどだ。一番多いのはルイスからのものだけれど。ルイスは兄と呼んでくれるルミシャンスを甘やかしたくて仕方ないらしい。
「んー……これ!」
「オレンジ色に金糸の刺繍。ルミシャンスとブレスラウの瞳の色かな?」
「ママも」
「そうだねー。うん、似合ってる!」
毛並みをブラシで梳かして、首元にリボンを巻いたら、お上品なお嬢様みたいな姿の出来上がり。可愛くてつい頬が緩んでしまう。
「いいね」
「ラウはかざらないの?」
シンプルな白のシャツに、黒のスラックス姿のブレスラウを、ルミシャンスが不満そうに見つめる。そして、自分のリボンの中から、お揃いのものを引っ張りだした。
「——これ、ラウも?」
「……いいけど」
「いいんだ?」
思いの外すんなりと受け入れたブレスラウに、スノウはツッコミを入れながらも笑ってしまった。
ブレスラウの妹大好きはとどまるところを知らない。
街への外出だって、ブレスラウ自身は興味ないだろうに、ルミシャンスが楽しみにしているから賛成しただけなのだ。
「ラウもにあってるね!」
「ありがとう」
手首にリボンを巻いたブレスラウに、ルミシャンスはご満悦な様子だ。
二人とも楽しそうでなにより、と思いながら、スノウはルイスに視線を向ける。
「アークはまだ?」
「お話が終わらないようですね」
ルイスは少し困った表情だ。
本当は今日は執務がない予定だったのに、お披露目会以来ずっと魔王城に滞在している竜族の一人から面会の要望があったのだ。それなりに重要な話らしく、アークは渋い表情をしながら出ていった。
「うーん……僕だけで子どもたちを連れて出かけるなんてできないだろうけど……」
スノウは「はやく、はやく!」と要求して落ち着かないルミシャンスを見下ろし、ため息をつく。あまり我慢させるのも可哀想だ。
悩んでいると、扉をノックされる。
応対に出るルイスの背中をなんとなく目で追いながら、スノウは「はやく行こうよー」と言って拗ね始めたルミシャンスを宥める。ブレスラウも一緒に相手をしてくれているけれど、そろそろ抑えるのも限界そうだ。
「え、……はぁ、分かりました。では、よろしくお願いします」
驚いた声が聞こえて、ルミシャンスへと向けていた視線をルイスに戻した。
訪問者との話を終えて近づいてきたルイスは少し困惑した表情だ。
「どうしたの?」
「陛下の時間に調整がつかないらしく、お出かけは中止か——」
「やだー!」
ルイスの言葉を遮り、ルミシャンスが悲愴な叫び声を上げる。それを予想していたのか、ルイスは苦笑するだけだ。
「ええ、分かっておりますよ。陛下は代替案として、騎士たちを連れてのお出かけならば良いとのことです」
「そうなの?」
「たくさんで行くの? たのしそう!」
一気に機嫌を直したルミシャンスはともかく、スノウは「うーん」と悩んでしまった。
騎士たちを連れて行くのはいいけれど、それで街を満喫できるかどうか不安だ。いつもはアークがいるから、ほとんど警戒せずにのんびりとお出かけできるのだ。
今日は子どもたちもいるし、大変なことになりそう。
「……仕方ないか」
ワクワクしながら尻尾を振っているルミシャンスの期待は裏切れない。
スノウは覚悟を決めることにした。
「私もいますから、あまりご心配なさらず」
「うん、頼りにしてるよ」
ポン、と胸を叩くルイスに微笑みながら頷き、スノウはルミシャンスを抱え直した。
とりあえず、ルミシャンスが迷子にならないようにだけ気をつけないと。
準備は整っていることだし、と外に向かうスノウたちの背をブレスラウが追う。
「ブレスラウ。街で分からないことがあったらすぐに僕たちに聞いてね」
「……うん」
振り返り声を掛けたスノウに、ブレスラウが小さく頷く。その目が考え深げに細められているのを見て、スノウは首を傾げてしまった。
いつもブレスラウは落ち着いて堂々としているけれど、今日は初めて街に行くから緊張しているのだろうか。
そんなところも可愛いなぁと思い、スノウの頬が緩んだ。
その提案は思いがけないほどすんなりと実行に移されることになった。
段取りを整えたロウエン曰く。
「魔王城という刺激の少ない生活では、魔族としての本能が上手く育たないかもしれません。そろそろ新たな経験を積んでも良い頃だと思います」とのことだ。
「僕が子どもの頃はなかなか街に連れて行ってもらえなかったのに……」
外出の準備をしながら、スノウはつい愚痴ってしまう。
狩りもそうだけれど、街への外出もねだってようやくだったのだ。それはアークのスケジュール調整が必要だったからというのが大きな理由だと分かっている。それでも、多少不満を持ってしまった。
「ブレスラウ様に不安はありませんからね」
「ルミシャンスは?」
ルイスがあえて口にしなかったことを指摘すると、目を逸らされた。その視線を追うと、床を走り回っているルミシャンスの姿がある。
「——元気いっぱいだなぁ」
「いつもよりテンションが高いですね。街に行くのが楽しみなのでしょう」
微笑ましいけれど、だいぶ心配。
そんな思いを抱えながら、スノウはルミシャンスを捕まえに行く。ブレスラウがとっくに外出の支度を整えているのに対して、ルミシャンスは起きたばかりで乱れた毛並みだ。
「ルミシャンス、おめかししようねー」
「リボン!」
「うん、どれがいい?」
ルミシャンス用のたくさんのリボンは、スノウたちからの贈り物がほとんどだ。一番多いのはルイスからのものだけれど。ルイスは兄と呼んでくれるルミシャンスを甘やかしたくて仕方ないらしい。
「んー……これ!」
「オレンジ色に金糸の刺繍。ルミシャンスとブレスラウの瞳の色かな?」
「ママも」
「そうだねー。うん、似合ってる!」
毛並みをブラシで梳かして、首元にリボンを巻いたら、お上品なお嬢様みたいな姿の出来上がり。可愛くてつい頬が緩んでしまう。
「いいね」
「ラウはかざらないの?」
シンプルな白のシャツに、黒のスラックス姿のブレスラウを、ルミシャンスが不満そうに見つめる。そして、自分のリボンの中から、お揃いのものを引っ張りだした。
「——これ、ラウも?」
「……いいけど」
「いいんだ?」
思いの外すんなりと受け入れたブレスラウに、スノウはツッコミを入れながらも笑ってしまった。
ブレスラウの妹大好きはとどまるところを知らない。
街への外出だって、ブレスラウ自身は興味ないだろうに、ルミシャンスが楽しみにしているから賛成しただけなのだ。
「ラウもにあってるね!」
「ありがとう」
手首にリボンを巻いたブレスラウに、ルミシャンスはご満悦な様子だ。
二人とも楽しそうでなにより、と思いながら、スノウはルイスに視線を向ける。
「アークはまだ?」
「お話が終わらないようですね」
ルイスは少し困った表情だ。
本当は今日は執務がない予定だったのに、お披露目会以来ずっと魔王城に滞在している竜族の一人から面会の要望があったのだ。それなりに重要な話らしく、アークは渋い表情をしながら出ていった。
「うーん……僕だけで子どもたちを連れて出かけるなんてできないだろうけど……」
スノウは「はやく、はやく!」と要求して落ち着かないルミシャンスを見下ろし、ため息をつく。あまり我慢させるのも可哀想だ。
悩んでいると、扉をノックされる。
応対に出るルイスの背中をなんとなく目で追いながら、スノウは「はやく行こうよー」と言って拗ね始めたルミシャンスを宥める。ブレスラウも一緒に相手をしてくれているけれど、そろそろ抑えるのも限界そうだ。
「え、……はぁ、分かりました。では、よろしくお願いします」
驚いた声が聞こえて、ルミシャンスへと向けていた視線をルイスに戻した。
訪問者との話を終えて近づいてきたルイスは少し困惑した表情だ。
「どうしたの?」
「陛下の時間に調整がつかないらしく、お出かけは中止か——」
「やだー!」
ルイスの言葉を遮り、ルミシャンスが悲愴な叫び声を上げる。それを予想していたのか、ルイスは苦笑するだけだ。
「ええ、分かっておりますよ。陛下は代替案として、騎士たちを連れてのお出かけならば良いとのことです」
「そうなの?」
「たくさんで行くの? たのしそう!」
一気に機嫌を直したルミシャンスはともかく、スノウは「うーん」と悩んでしまった。
騎士たちを連れて行くのはいいけれど、それで街を満喫できるかどうか不安だ。いつもはアークがいるから、ほとんど警戒せずにのんびりとお出かけできるのだ。
今日は子どもたちもいるし、大変なことになりそう。
「……仕方ないか」
ワクワクしながら尻尾を振っているルミシャンスの期待は裏切れない。
スノウは覚悟を決めることにした。
「私もいますから、あまりご心配なさらず」
「うん、頼りにしてるよ」
ポン、と胸を叩くルイスに微笑みながら頷き、スノウはルミシャンスを抱え直した。
とりあえず、ルミシャンスが迷子にならないようにだけ気をつけないと。
準備は整っていることだし、と外に向かうスノウたちの背をブレスラウが追う。
「ブレスラウ。街で分からないことがあったらすぐに僕たちに聞いてね」
「……うん」
振り返り声を掛けたスノウに、ブレスラウが小さく頷く。その目が考え深げに細められているのを見て、スノウは首を傾げてしまった。
いつもブレスラウは落ち着いて堂々としているけれど、今日は初めて街に行くから緊張しているのだろうか。
そんなところも可愛いなぁと思い、スノウの頬が緩んだ。
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