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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族
4-39.半分大人
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「あ、そうだ」
パーティーでのブレスラウのことを思い返していたら、アークに頼むことがあったのをスノウは思い出した。
「——アーク。ブレスラウに竜族のみなさんへの対応の仕方を教えてあげてくれない?」
「どういうことだ? 今日のブレスラウはよくやっていたと思うが」
アークが首を傾げる。その手がスノウにクッキーを差し出していたので、カプッと食いついた。これくらいなら、満腹具合を考えてもまだ食べられる。
「……ママが冷淡すぎるのは良くないと言う」
「そうなの。僕が、昔あった竜族の女性の事件のこと教えちゃったら、ブレスラウがすごく機嫌を悪くしちゃって……」
苦笑しながら言うと、アークが「ああ、なるほど」と頷いた。
スノウはブレスラウがここまで強く反応するとは予想していなかったのだ。子どもへの理解が足りなかったと反省すべき点である。
「——そうだな。そろそろ執務にも付き合わせようと思っていたし、それについても教えていこう」
「え……」
アークの宣言に戸惑ったのはスノウだけ。ブレスラウは顔を僅かに顰めながらも「了解した」と言うだけだった。
「ラウ、おしごとするの?」
「早くない?」
ルミシャンスがなぜだか羨ましそうに尋ねるのに続いて、スノウは少し不満を籠めて呟いた。
スノウが秘書として執務の補佐を行っているから、ブレスラウたちも一緒によく執務室に行っている。でも、そこで二人は遊んだり寝たりしているだけで、仕事には一切関わっていなかった。
それがいきなり『執務に付き合わせる』宣言だ。
まだ生まれて一年も経っていないブレスラウには、仕事の開始は早すぎると思っても仕方ないだろう。
「今日の感じを見ても、早すぎるということはないだろう。簡単なものをさせるだけだ」
アークに宥めるように頬を撫でられながらも、納得できないという思いを抑えきれない。
スノウの感覚では、ブレスラウもまだ子ども。遊ぶことが仕事だと思うのだ。
「……ブレスラウはいいの?」
「暇していたから問題ない」
あっさりとそう言われてしまえば、スノウが反対する理由がなくなる。
黙り込んだスノウにアークが苦笑しながら、こめかみにキスを落とした。
「毎日俺と同じだけ執務に関われと言っているわけじゃない。スノウやルミシャンスとこれまで通り遊ぶ時間も必要だ」
「……それでいいの?」
「ああ。急ぐ必要はないが、ブレスラウの物足りなさを解消させるだけだ」
スノウはきょとんとして「物足りなさ……」と鸚鵡返しをした。
確かにルミシャンスほど活発に遊ばないブレスラウは、退屈そうにしていることが多かった。すでに人型になれているのだから、教育を開始してその暇を潰してやるのも大切だろう。
「……そっか。うん、でも、たまには一緒にお出かけしようね」
「分かった」
ブレスラウが当然のように頷く。
その返事にホッとしたスノウは、自分がブレスラウを心配してただけではなく、一緒に過ごす時間が減ることを悲しく思っていたことに気づいた。これも成長に対する寂しさだ。
「ルミもおしごと!」
不意に明るく放たれた主張に、本人以外が顔を見合わせる。どの顔にも『それは無理だろう』と書かれていた。
「……ルミシャンスはもうちょっと成長してからかなー。それにお仕事って楽しくないよ?」
「たのしくないの? そんなことを、パパとママはやってるの? どうして?」
心底不思議そうに問われて、スノウは一瞬『確かに、なんでだろう?』と考えてしまった。
生きるために必要、というわけでもないし、全てが全て楽しいわけでもない。
敢えて言うなら、アークたちにとっては義務だから、という理由だろう。スノウは少しでも長く、アークと一緒にいたいからだ。
そんな答えでルミシャンスが納得するとは到底思えないけれど。
返事を迷うスノウとアークを見かねたのか、ブレスラウが口を開く。
「大人だからだ」
「おとなはおしごとするの?」
「する」
「じゃあ、ラウもおとなになったの?」
「半分」
「……ルミ、まだ子どもがいい。ママたちにあまえたい」
「うん、それでいい」
子どもたち二人の会話で決着したらしい。
ルミシャンスが「ルミ、まだおしごとしない!」と宣言するので、スノウは微笑みながら頷いた。大人になっても仕事をする必要はない立場だよ、なんて言わない。やりたいようならさせてもいいし。
「……それにしても、ブレスラウがお仕事開始かぁ。なんか成長のお祝いしたいね!」
ふと思いついて言ってみたら、ブレスラウに「いらない」と返されてしまった。そう返事をされることは予想していたけれど、むぅと唇を尖らせてしまう。
スノウなりにブレスラウの仕事始めを受け入れるために、何か小さなことでもお祝いしたい。
どうしようか、とスノウが考えていると、ルミシャンスが何かに気づいたように、パッと瞳を輝かせた。
「ルミ、まちに行きたい!」
思わずその場にいた全員が目を丸くする。
「え、街……?」
呆然と呟いたスノウに、元気のいい声で「うん!」と返事があった。
パーティーでのブレスラウのことを思い返していたら、アークに頼むことがあったのをスノウは思い出した。
「——アーク。ブレスラウに竜族のみなさんへの対応の仕方を教えてあげてくれない?」
「どういうことだ? 今日のブレスラウはよくやっていたと思うが」
アークが首を傾げる。その手がスノウにクッキーを差し出していたので、カプッと食いついた。これくらいなら、満腹具合を考えてもまだ食べられる。
「……ママが冷淡すぎるのは良くないと言う」
「そうなの。僕が、昔あった竜族の女性の事件のこと教えちゃったら、ブレスラウがすごく機嫌を悪くしちゃって……」
苦笑しながら言うと、アークが「ああ、なるほど」と頷いた。
スノウはブレスラウがここまで強く反応するとは予想していなかったのだ。子どもへの理解が足りなかったと反省すべき点である。
「——そうだな。そろそろ執務にも付き合わせようと思っていたし、それについても教えていこう」
「え……」
アークの宣言に戸惑ったのはスノウだけ。ブレスラウは顔を僅かに顰めながらも「了解した」と言うだけだった。
「ラウ、おしごとするの?」
「早くない?」
ルミシャンスがなぜだか羨ましそうに尋ねるのに続いて、スノウは少し不満を籠めて呟いた。
スノウが秘書として執務の補佐を行っているから、ブレスラウたちも一緒によく執務室に行っている。でも、そこで二人は遊んだり寝たりしているだけで、仕事には一切関わっていなかった。
それがいきなり『執務に付き合わせる』宣言だ。
まだ生まれて一年も経っていないブレスラウには、仕事の開始は早すぎると思っても仕方ないだろう。
「今日の感じを見ても、早すぎるということはないだろう。簡単なものをさせるだけだ」
アークに宥めるように頬を撫でられながらも、納得できないという思いを抑えきれない。
スノウの感覚では、ブレスラウもまだ子ども。遊ぶことが仕事だと思うのだ。
「……ブレスラウはいいの?」
「暇していたから問題ない」
あっさりとそう言われてしまえば、スノウが反対する理由がなくなる。
黙り込んだスノウにアークが苦笑しながら、こめかみにキスを落とした。
「毎日俺と同じだけ執務に関われと言っているわけじゃない。スノウやルミシャンスとこれまで通り遊ぶ時間も必要だ」
「……それでいいの?」
「ああ。急ぐ必要はないが、ブレスラウの物足りなさを解消させるだけだ」
スノウはきょとんとして「物足りなさ……」と鸚鵡返しをした。
確かにルミシャンスほど活発に遊ばないブレスラウは、退屈そうにしていることが多かった。すでに人型になれているのだから、教育を開始してその暇を潰してやるのも大切だろう。
「……そっか。うん、でも、たまには一緒にお出かけしようね」
「分かった」
ブレスラウが当然のように頷く。
その返事にホッとしたスノウは、自分がブレスラウを心配してただけではなく、一緒に過ごす時間が減ることを悲しく思っていたことに気づいた。これも成長に対する寂しさだ。
「ルミもおしごと!」
不意に明るく放たれた主張に、本人以外が顔を見合わせる。どの顔にも『それは無理だろう』と書かれていた。
「……ルミシャンスはもうちょっと成長してからかなー。それにお仕事って楽しくないよ?」
「たのしくないの? そんなことを、パパとママはやってるの? どうして?」
心底不思議そうに問われて、スノウは一瞬『確かに、なんでだろう?』と考えてしまった。
生きるために必要、というわけでもないし、全てが全て楽しいわけでもない。
敢えて言うなら、アークたちにとっては義務だから、という理由だろう。スノウは少しでも長く、アークと一緒にいたいからだ。
そんな答えでルミシャンスが納得するとは到底思えないけれど。
返事を迷うスノウとアークを見かねたのか、ブレスラウが口を開く。
「大人だからだ」
「おとなはおしごとするの?」
「する」
「じゃあ、ラウもおとなになったの?」
「半分」
「……ルミ、まだ子どもがいい。ママたちにあまえたい」
「うん、それでいい」
子どもたち二人の会話で決着したらしい。
ルミシャンスが「ルミ、まだおしごとしない!」と宣言するので、スノウは微笑みながら頷いた。大人になっても仕事をする必要はない立場だよ、なんて言わない。やりたいようならさせてもいいし。
「……それにしても、ブレスラウがお仕事開始かぁ。なんか成長のお祝いしたいね!」
ふと思いついて言ってみたら、ブレスラウに「いらない」と返されてしまった。そう返事をされることは予想していたけれど、むぅと唇を尖らせてしまう。
スノウなりにブレスラウの仕事始めを受け入れるために、何か小さなことでもお祝いしたい。
どうしようか、とスノウが考えていると、ルミシャンスが何かに気づいたように、パッと瞳を輝かせた。
「ルミ、まちに行きたい!」
思わずその場にいた全員が目を丸くする。
「え、街……?」
呆然と呟いたスノウに、元気のいい声で「うん!」と返事があった。
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