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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族
4-37.過去のしこり
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「——ブレスラウは仲良くなれそうな竜族に会えた?」
遠回しに探りを入れてみたら、スノウそっくりな金眼がゆっくりと瞬いた。『どうしてそんなことを聞くのか』と心底不思議そうだ。
「いない」
「……そう」
端的な答えがブレスラウの思いのすべてだった。
ルミシャンスやスノウに優しい態度で勘違いしてしまいそうだけれど、やはりブレスラウも竜族なのだ。他者への関心が極めて薄い。
「そもそも」
「うん」
ブレスラウが珍しく自発的に言葉を続けたので、スノウは目を丸くしながら相槌を打つ。
「彼女たちは強い竜族の隣に立つというステータスに惹かれているだけ」
「……あ、興味持たれてるのは気づいていたんだね」
子どもらしくない鋭い指摘だった。自然と苦笑してしまう。
間違ってはいないだろうけれど、冷淡だなぁと思った。これは恋心を知るのは無理なのではないか、と少し不安になる。
でも、アークもスノウに出会うまではこんな感じだったはずなので、希望は捨てないでいてもいいだろう。きっとブレスラウもいつか惹かれる人が現れるはず。
「——勘違いとか、されないといいけど」
ふと思い出したのは、アークの婚約者だと言い張っていた竜族の女性のことだ。あれは人間に操られて行動していた部分もあったらしいけれど、感情の部分は本人のもの。
同じようなことが、ブレスラウに降り掛かってもおかしくない。
咄嗟に周囲に視線を走らせる。何か変なことをしでかす者がいないか警戒するのは、親として当然のことだ。
スノウがブレスラウを守るのに力足らずであることなんて、分かりきっているけれど。
「ママ?」
「いや……昔ね、アークの婚約者だって自称した竜族の女性が、城で暴れたことがあって」
不思議そうな顔をするブレスラウに説明してみたけれど、言葉にすると随分と酷いように聞こえて、スノウは苦笑してしまった。
あの時、スノウはアークが助けてくれると心から信じていたから、恐怖心もほとんどなかった。でも、被害にあったのがスノウでなければ、悲惨なことになっていたのかもしれないと思うと、ため息をつきたくなる。
同じようなことは二度と起こしてはならない。あれは魔王城で生活する多くの者を危険に晒す行為だった。
「……父者が守った?」
「うん。対処もしっかりしてくれたよ。だから問題はなかったんだけど。ブレスラウにも同じようなことがあったらダメだなぁって思って——」
「警戒した?」
スノウの言葉尻を奪うようにブレスラウが硬い声で言う。スノウは頷きながら、ブレスラウの表情を窺った。
不満と心配と警戒心。竜族に対する印象が更に悪化してしまったような気がする。
これは教えるべきではなかったか、とスノウは後悔した。
「で、でも、大丈夫だよ! そんな変なこと考えているような人はいなさそうだし。アークが釘を刺してるはずだから!」
竜族の女性が起こした事件の後、アークは里に対しても警告をしていたのだ。パールセンが失敗した後に、竜族たちがスノウたちとの距離を詰めてこようとして来ないのがその証左。
彼らはスノウたちを慎重に対応すべき相手だと見做しているのだろう。
「……そう。俺も気をつける」
「いや、ブレスラウはそもそも竜族のみんなにちょっと冷たいから。これ以上ってなったら、さすがに次期族長として相応しくないって思われちゃうかも」
ブレスラウが竜族たちに向ける眼差しは、まるで敵を見ているかのようだった。それはやりすぎだろう。
そんなスノウの注意に、ブレスラウは少し不貞腐れた雰囲気になる。
「別に、族長になれなくてもいい」
それは素直な言葉だったのだろう。スノウも、その気持ちは分かる。
ブレスラウに与えられた『次期族長候補』という立場は、望んで得たものではないのだ。
だからといって、スノウは「じゃあ、好きにしたらいいよ」とは言えない。
竜族には竜族の生き方があり、それはスノウの常識とは異なるのだ。ブレスラウは竜族として生まれた以上、ある程度は竜族の常識に従う必要がある。
「うーん、そんな風に言わないで。みんなとちょっと知り合ってみようかな、って思うだけでもいいと思うし」
「難しい」
顔を顰めながら提案を退けられてしまったら、スノウも続ける言葉がない。竜族との交流に慣れていないのはスノウも同じなのだ。
「んー……僕もどうしたらいいかよく分からないから、後でアークに聞こうね」
「……分かった」
結局アークに問題を放り投げることにした。アークは頼りがいがあるからきっと大丈夫。上手いようにブレスラウを導いてくれるはずだ。
遠回しに探りを入れてみたら、スノウそっくりな金眼がゆっくりと瞬いた。『どうしてそんなことを聞くのか』と心底不思議そうだ。
「いない」
「……そう」
端的な答えがブレスラウの思いのすべてだった。
ルミシャンスやスノウに優しい態度で勘違いしてしまいそうだけれど、やはりブレスラウも竜族なのだ。他者への関心が極めて薄い。
「そもそも」
「うん」
ブレスラウが珍しく自発的に言葉を続けたので、スノウは目を丸くしながら相槌を打つ。
「彼女たちは強い竜族の隣に立つというステータスに惹かれているだけ」
「……あ、興味持たれてるのは気づいていたんだね」
子どもらしくない鋭い指摘だった。自然と苦笑してしまう。
間違ってはいないだろうけれど、冷淡だなぁと思った。これは恋心を知るのは無理なのではないか、と少し不安になる。
でも、アークもスノウに出会うまではこんな感じだったはずなので、希望は捨てないでいてもいいだろう。きっとブレスラウもいつか惹かれる人が現れるはず。
「——勘違いとか、されないといいけど」
ふと思い出したのは、アークの婚約者だと言い張っていた竜族の女性のことだ。あれは人間に操られて行動していた部分もあったらしいけれど、感情の部分は本人のもの。
同じようなことが、ブレスラウに降り掛かってもおかしくない。
咄嗟に周囲に視線を走らせる。何か変なことをしでかす者がいないか警戒するのは、親として当然のことだ。
スノウがブレスラウを守るのに力足らずであることなんて、分かりきっているけれど。
「ママ?」
「いや……昔ね、アークの婚約者だって自称した竜族の女性が、城で暴れたことがあって」
不思議そうな顔をするブレスラウに説明してみたけれど、言葉にすると随分と酷いように聞こえて、スノウは苦笑してしまった。
あの時、スノウはアークが助けてくれると心から信じていたから、恐怖心もほとんどなかった。でも、被害にあったのがスノウでなければ、悲惨なことになっていたのかもしれないと思うと、ため息をつきたくなる。
同じようなことは二度と起こしてはならない。あれは魔王城で生活する多くの者を危険に晒す行為だった。
「……父者が守った?」
「うん。対処もしっかりしてくれたよ。だから問題はなかったんだけど。ブレスラウにも同じようなことがあったらダメだなぁって思って——」
「警戒した?」
スノウの言葉尻を奪うようにブレスラウが硬い声で言う。スノウは頷きながら、ブレスラウの表情を窺った。
不満と心配と警戒心。竜族に対する印象が更に悪化してしまったような気がする。
これは教えるべきではなかったか、とスノウは後悔した。
「で、でも、大丈夫だよ! そんな変なこと考えているような人はいなさそうだし。アークが釘を刺してるはずだから!」
竜族の女性が起こした事件の後、アークは里に対しても警告をしていたのだ。パールセンが失敗した後に、竜族たちがスノウたちとの距離を詰めてこようとして来ないのがその証左。
彼らはスノウたちを慎重に対応すべき相手だと見做しているのだろう。
「……そう。俺も気をつける」
「いや、ブレスラウはそもそも竜族のみんなにちょっと冷たいから。これ以上ってなったら、さすがに次期族長として相応しくないって思われちゃうかも」
ブレスラウが竜族たちに向ける眼差しは、まるで敵を見ているかのようだった。それはやりすぎだろう。
そんなスノウの注意に、ブレスラウは少し不貞腐れた雰囲気になる。
「別に、族長になれなくてもいい」
それは素直な言葉だったのだろう。スノウも、その気持ちは分かる。
ブレスラウに与えられた『次期族長候補』という立場は、望んで得たものではないのだ。
だからといって、スノウは「じゃあ、好きにしたらいいよ」とは言えない。
竜族には竜族の生き方があり、それはスノウの常識とは異なるのだ。ブレスラウは竜族として生まれた以上、ある程度は竜族の常識に従う必要がある。
「うーん、そんな風に言わないで。みんなとちょっと知り合ってみようかな、って思うだけでもいいと思うし」
「難しい」
顔を顰めながら提案を退けられてしまったら、スノウも続ける言葉がない。竜族との交流に慣れていないのはスノウも同じなのだ。
「んー……僕もどうしたらいいかよく分からないから、後でアークに聞こうね」
「……分かった」
結局アークに問題を放り投げることにした。アークは頼りがいがあるからきっと大丈夫。上手いようにブレスラウを導いてくれるはずだ。
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