上 下
234 / 251
続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-37.過去のしこり

しおりを挟む
「——ブレスラウは仲良くなれそうな竜族に会えた?」

 遠回しに探りを入れてみたら、スノウそっくりな金眼がゆっくりと瞬いた。『どうしてそんなことを聞くのか』と心底不思議そうだ。

「いない」
「……そう」

 端的な答えがブレスラウの思いのすべてだった。
 ルミシャンスやスノウに優しい態度で勘違いしてしまいそうだけれど、やはりブレスラウも竜族なのだ。他者への関心が極めて薄い。

「そもそも」
「うん」

 ブレスラウが珍しく自発的に言葉を続けたので、スノウは目を丸くしながら相槌を打つ。

「彼女たちは強い竜族の隣に立つというステータスに惹かれているだけ」
「……あ、興味持たれてるのは気づいていたんだね」

 子どもらしくない鋭い指摘だった。自然と苦笑してしまう。
 間違ってはいないだろうけれど、冷淡だなぁと思った。これは恋心を知るのは無理なのではないか、と少し不安になる。

 でも、アークもスノウに出会うまではこんな感じだったはずなので、希望は捨てないでいてもいいだろう。きっとブレスラウもいつか惹かれる人が現れるはず。

「——勘違いとか、されないといいけど」

 ふと思い出したのは、アークの婚約者だと言い張っていた竜族の女性のことだ。あれは人間に操られて行動していた部分もあったらしいけれど、感情の部分は本人のもの。
 同じようなことが、ブレスラウに降り掛かってもおかしくない。

 咄嗟に周囲に視線を走らせる。何か変なことをしでかす者がいないか警戒するのは、親として当然のことだ。
 スノウがブレスラウを守るのに力足らずであることなんて、分かりきっているけれど。

「ママ?」
「いや……昔ね、アークの婚約者だって自称した竜族の女性が、城で暴れたことがあって」

 不思議そうな顔をするブレスラウに説明してみたけれど、言葉にすると随分と酷いように聞こえて、スノウは苦笑してしまった。

 あの時、スノウはアークが助けてくれると心から信じていたから、恐怖心もほとんどなかった。でも、被害にあったのがスノウでなければ、悲惨なことになっていたのかもしれないと思うと、ため息をつきたくなる。

 同じようなことは二度と起こしてはならない。あれは魔王城で生活する多くの者を危険に晒す行為だった。

「……父者が守った?」
「うん。対処もしっかりしてくれたよ。だから問題はなかったんだけど。ブレスラウにも同じようなことがあったらダメだなぁって思って——」
「警戒した?」

 スノウの言葉尻を奪うようにブレスラウが硬い声で言う。スノウは頷きながら、ブレスラウの表情を窺った。
 不満と心配と警戒心。竜族に対する印象が更に悪化してしまったような気がする。

 これは教えるべきではなかったか、とスノウは後悔した。

「で、でも、大丈夫だよ! そんな変なこと考えているような人はいなさそうだし。アークが釘を刺してるはずだから!」

 竜族の女性が起こした事件の後、アークは里に対しても警告をしていたのだ。パールセンが失敗した後に、竜族たちがスノウたちとの距離を詰めてこようとして来ないのがその証左。
 彼らはスノウたちを慎重に対応すべき相手だと見做しているのだろう。

「……そう。俺も気をつける」
「いや、ブレスラウはそもそも竜族のみんなにちょっと冷たいから。これ以上ってなったら、さすがに次期族長として相応しくないって思われちゃうかも」

 ブレスラウが竜族たちに向ける眼差しは、まるで敵を見ているかのようだった。それはやりすぎだろう。
 そんなスノウの注意に、ブレスラウは少し不貞腐れた雰囲気になる。

「別に、族長になれなくてもいい」

 それは素直な言葉だったのだろう。スノウも、その気持ちは分かる。
 ブレスラウに与えられた『次期族長候補』という立場は、望んで得たものではないのだ。

 だからといって、スノウは「じゃあ、好きにしたらいいよ」とは言えない。
 竜族には竜族の生き方があり、それはスノウの常識とは異なるのだ。ブレスラウは竜族として生まれた以上、ある程度は竜族の常識に従う必要がある。

「うーん、そんな風に言わないで。みんなとちょっと知り合ってみようかな、って思うだけでもいいと思うし」
「難しい」

 顔を顰めながら提案を退けられてしまったら、スノウも続ける言葉がない。竜族との交流に慣れていないのはスノウも同じなのだ。

「んー……僕もどうしたらいいかよく分からないから、後でアークに聞こうね」
「……分かった」

 結局アークに問題を放り投げることにした。アークは頼りがいがあるからきっと大丈夫。上手いようにブレスラウを導いてくれるはずだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい

りまり
BL
 僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。  この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。  僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。  本当に僕にはもったいない人なんだ。  どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。  彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。  答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。  後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...