雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-19.親子の食事

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 スノウと子どもたちの食事は賑やかだ。主に元気いっぱいなルミシャンスのおかげで。

 アークたちより一足先に部屋に戻ってきたスノウは、子どもたちと一緒に食卓を囲む。
 最近のアークは執務が忙しくて、なかなか夕食を一緒にとれないのが残念である。

「にー、ごはー」

 ご機嫌に鳴きながら、用意されたミルク粥(ミルクにハチミツを溶かして、砕いたビスケットを浸したもの)に手を伸ばすルミシャンス。まだ一人では食べられないのに、やる気は十分だ。

 母乳が出る体質ではなかったスノウは、せっせとその口にスプーンを運ぶのが役目。美味しそうに食べてくれるから、スノウも幸せな気分になる。

「……肉、おいしい。グルル」
「ブレスラウ様、良かったですね。今日のは新鮮な鹿肉だそうですよ。お気に召していただいたようだと、伝えておきますね」

 すでに一人でご飯を食べるようになったブレスラウは、レアな焼き加減のステーキにご満悦の表情だ。尻尾が揺れているのが可愛い。

 その様子をこっそりと窺い見て、スノウは密かに微笑んだ。
 あからさまに笑みを見せると、ブレスラウが拗ねてしまうから、我慢しないといけないのだ。

「ルミも、ラウの」
「ルミシャンスはまだお肉食べられないよ」

 ぱちぱちと目を瞬かせたルミシャンスが、ブレスラウの方へと伸ばしていた手をふらふらと彷徨わせた。
 ブレスラウがあまりに美味しそうに食べるから、諦めきれないらしい。

 スノウは自分がいつからお肉を食べていたかなと考えて、「——うん、やっぱりまだダメだ」と呟く。さすがに生後二ヶ月でお肉は早すぎる。

「食べる?」
「ブレスラウ、勧めたらダメだよ。ルミシャンスはお肉をまだ消化できないから」
「……雪豹ってたいへん」
「なにが?」

 ブレスラウが真剣な顔で頷いているけれど、スノウはその発言の意味がよく分からなかった。時々感性の違いを大きく感じる。
 アークに聞けば分かるのだろうか、と思いながら、ルミシャンスの口元にスプーンを近づけた。

「あまあま」
「美味しいねぇ。たぶん、お肉より美味しいよ」

 今のルミシャンスにとっては、という注釈がつくけれど、スノウの言葉は間違ってない。
 今のスノウはお肉も大好きだけれど、その魅力が分かるようになったのは、もっと大きくなってからなのだから。

「にー、おいし。ラウも、たべる?」
「………………食べない」

 純粋な眼差しで勧められたが故のブレスラウの葛藤が、長すぎる沈黙に表れていた。

 スノウは思わずぷふっと笑ってしまう。途端にブレスラウに睨まれたから、目を逸らして口元を引き締めたけれど。

 笑ってもしかたないと思う。だって、自尊心の高いブレスラウはとっくにミルク離れしていて、甘いものも好きじゃないのだ。
 それなのに、可愛い妹に勧められたからと、食べるべきか悩むのだから愛おしすぎる。

 どれだけ妹が好きなんだ、と揶揄いたくなるのをぐっと堪えた。
 アークに突然変異と言われるブレスラウのそんなところが、スノウは大好きだし、守ってあげたくなるのだ。

「ぱくぱく」
「お口に入ってないのに、どうして食べてるふりしてるの?」

 スノウはルミシャンスの仕草に笑いながら、新たにすくったミルク粥を口元に近づけた。ご飯の催促だったらしく、すぐさまぱくっと食いつかれる。

「スノウ様も食べてください」
「あ、そうだね」

 すっかりルミシャンスの世話に集中していたせいで、自分のご飯を忘れていた。よくあることだ。ルイスに叱られるのも。

 そうこうしている内に、スノウがご飯を食べきれないというのも日常になっていて、良くないとは思うのだけれど。子どもたちの可愛さで胸がいっぱいになって、空腹を感じないのだ。

「ルミシャンス様、にぃにがお相手いたしますよ~」
「にぃに!」
「それは兄じゃない」

 律儀に否定するブレスラウの声を聞きながら、膝上から取り上げられてしまったルミシャンスを目で追う。ぬくもりと重さがなくなって、少し寒く感じた。

「……むぅ」
「スノウ様もお口にスプーンを運ばれたいのですか? 陛下に叱られてしまうので、私はできる限り避けたいのですが」
「そんなこと頼んでないよ」

 ルミシャンスのように世話を焼かれかねない気配を感じ取り、慌ててお皿を引き寄せた。
 ルイスがそろそろ本気で怒りそうだと気づいたのも、態度を改めた理由である。

 スノウ用のご飯はサンドウィッチとスープ。ルミシャンスの世話をしながらでも食事がとれるように、と気遣われているのが分かって、スノウは方々へ申し訳なさと感謝の思いを抱いた。

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