雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-18.番からのお誘い

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 子どもたちが卵から孵って二ヶ月。
 ルミシャンスが執務室でも普段通り過ごせると分かってから、スノウの秘書仕事が本格的に再開された。

「マー、にぃに」
「なぁに?」
「どうしましたか?」

 足元に駆け寄ってきて鳴くルミシャンスを見ると、どうしても作業の手が止まってしまうのは仕方ない。『にぃに』と呼ばれるようになったルイスは、いつも笑み崩れてルミシャンスの相手を始める。

「……それは兄じゃない」

 ブレスラウが拗ねるのも、いつもの光景になってきた。
 否定はするものの、ブレスラウもルイスのことは気に入っているのか、実力行使はしないけれど。

 竜族であるブレスラウの成長は早く、生後二ヶ月を迎える今では、体長がスノウの背の半分ほどになっている。膝の上に乗せるのさえ大変なので、抱き上げるのは無理。

 親として寂しいけれど、子の成長は嬉しくもあり、複雑だ。
 せめてルミシャンスはゆっくりと成長してほしいな、と願ってしまう。親離れはもっと先でいい。

「この書類片付けたらおやつにするからね~」
「にに! やつ~」
「おやつ、だよ。おーやーつ」
「にー……ぉやち」
「惜しい!」

 小さな口をもごもごと動かし、ルミシャンスが言葉を真似る。『ママ』と言えるようになってからは、様々な言葉を教えているのだ。真っ先に教えたのは『パパ』だけれど。
 おかげで、アークがルイスに嫉妬することはなくなった。

「パパ~、おやち」
「おやつだな。それと、俺はおやつじゃない」

 ルミシャンスが駆けていったと思ったら、アークの足をハグハグと噛んでいる。アークは気にせず書類に目を通しているけれど、靴が歯型だらけだ。

「父者を食べるのか?」
「ブレスラウ、面白がらないの」

 アークの足元で大きく口を開ける仕草を見せるブレスラウを軽く咎める。本気で叱らないのは、それがブレスラウなりの父親とのコミュニケーションだと分かっているからだ。

「お前の歯が立つわけがないだろう」
「……グルル」

 ふっと笑って見せるアークは、だいぶ大人気ない気がする。
 スノウは思わず呆れて、アークの肩をペシッと叩いた。ついでに仕分けた書類を机に積み重ねる。

「アーク、あんまりブレスラウを揶揄わないで」
「こいつが戯れてくるから相手をしているだけだ」

 腕を引かれたと思ったら、アークの膝上に抱えられていた。
 目を瞬かせると、唇に柔らかく噛みつかれる。ちゅ、ちゅ、と触れては離れる唇に、絆されてしまいそうになりながらも、アークの頬を軽く抓った。

「ここじゃダメ」
「……最近は、部屋でも駄目だと言うだろう?」
「子どもたちが見るからダメなの」

 ちらりと視線を向けると、ブレスラウは呆れたようにそっぽを向いていた。ルミシャンスはアークの靴に執着していて、スノウたちの様子には全く関心を寄せない。マイペースなのがルミシャンスの良いところである。

「もっと触れ合いたい」
「……うぅ」

 鼻をすりすりと寄せられて、スノウは小さく唸った。

 アークに甘えられるような仕草をされると、途端に拒む気がなくなってしまう。惚れた弱みというか、普段はカッコよくて頼りがいのある番に甘えられるのが、嬉しくなってしまうからだ。

 そんなスノウのことを、アークはよく分かっていて、狙ってこんなことをしているのだとも理解している。でも、愛おしく感じることに違いはない。

 むしろ、プライドが高いアークがそこまでしてスノウの愛を欲しがっているのが分かって、たまらない気持ちになる。

「——ん……分かった。今夜、ルミシャンスがちゃんと寝ついたら、ね」
「そうじゃなくてもルイスに預けておけばいい」
「ルイスに任せても問題ないのは確かだけど……」

 それはそれで、なんだか寂しい。
 そんな思いを隠せずに呟くと、アークが苦笑した。

 卵から孵ってからは、定時に寝床に入らないルミシャンスに振り回されてきた。眠りについても夜泣きがあるから、スノウも落ち着いて寝られない。
 その世話は大変だけれど、子どもの内だけだと思うと嬉しくもあり、スノウは楽しんでこなしていた。

 一方で、番らしい触れ合いがめっきりご無沙汰であることも気になってはいる。アークがいつ不満を爆発させるかだけじゃなくて、スノウ自身も少しずつ欲が溜まっている自覚があった。

「スノウ、たまには番を優先してくれないと、俺があの子たちを食ってしまうかもしれないぞ」

 全く怖くない口調で脅されて、スノウは目をぱちぱちと瞬かせた。
 アークの目は笑っているけれど、少し熱が滲んでいる。それを見て悟った。そろそろ本気で相手をしないと冗談では済まなくなる、と。

「……分かったよ。少しは子離れしなくちゃね」

 大事な番であるアークを甘やかせるのはスノウだけなのだ。
 それが嬉しいからって、番を優先してしまうのは親としてダメなのかもしれないけれど、たまになら許されてもいいんじゃないかなと思う。

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