雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

文字の大きさ
上 下
184 / 224
続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-14.幸せな報告

しおりを挟む
 執務室に入った途端、アークと目が合った。途端に蕩けるように甘くなる眼差しに、スノウも無意識の内に微笑みを返す。

 漂ってきた甘い香りが、スノウを落ち着かせ幸せな気分にしてくれる。番の香りの効果はすごいのだ。

「相変わらず仲がよろしいようでなによりです」
「ふぁ!? いや、そういうのじゃないよ!」

 ロウエンに呆れたような、微笑ましげなような、微妙な声音で言われて、咄嗟に否定した。

 アークと仲がいいのは間違いないけれど、今この瞬間に惚気ていたわけではない——はずだ。傍から見ると、つまりロウエンから見ると、そう思われてもしかたなかったかもしれないという自覚はある。

「ロウエンも人のことは言えないだろう」

 ソッと目を逸らしながら歩くスノウをフォローするように、アークが揶揄うようにロウエンに話しかける。

 これはきっとマルモとの話だと察した。正直スノウも興味がある。
 早々にロウエンとマルモが番契約をする予定だとルイスから聞いていたけれど、実際にどうなったかは報告を受けていなかった。

 ルイスが執務室の片隅に作ってくれたサークルに、ルミシャンスとブレスラウを下ろしてあげながら、ロウエンの様子を窺った。

「……少なくとも、私は陛下やスノウ様の前で惚気た覚えはありませんが」
「散々スノウにデート相談をしておいて、何を言うんだ」

 ロウエンの眉間にシワが寄った。その表情は、不機嫌というより照れが強いように見える。

 スノウはなんだか微笑ましくなって、手にじゃれついてくるルミシャンスをあやしながら、ふふっと笑った。

 マルモが絡むと、ロウエンは途端に親しみが増す。仕事中の冷静沈着で時々皮肉屋な感じもカッコいいとは思うけれど、少し抜けた部分があると安心するのだ。

「最近はデートの相談がないね?」

 ふと思い出して呟く。
 子どもたちのことで忙しくしていたけれど、時々ロウエンと会ってはいたのだ。その際の話題は子どもたちのことばかり。マルモとの話なんて一度もなかった。

 そのことに気づいて少し寂しくなる。スノウだって、ロウエンとマルモの関係を応援していたのだ。デートのプランを考えるのだって、頭を悩ませながらも楽しんでいた。
 それがなくなって、急に部外者扱いされてしまった気分だ。

「あぁ……それは、まぁ、今は家が一緒なので。わざわざデートをする機会もほとんどなくなりましたし」
「え、一緒に住んでるの!? ということは、もう、番に……?」
「なりました。先月。陛下にはご報告してあったのですが」

 驚くスノウに、ロウエンの方こそ不思議そうな表情だ。
 スノウは反射的にアークを睨んでしまう。怒りというより拗ねた感じだけれど。

「……アーク、聞いてないよ」
「いや、スノウは忙しそうにしていたからな」

 宥めるように言い訳されたけれど、確かにアークの言葉は間違ってない。

 先月といえば、子どもたちが生まれたくらいの頃だろう。スノウが慣れない育児を楽しみながらも、いっぱいいっぱいになっていたはずだ。

 アークなりの気遣いだと分かれば、責めてしまったのが申し訳なくなって、スノウはアークに近づき控えめに抱きつく。

「責めちゃってごめんね」
「気にしてない。……言い忘れていたのは事実だ」
「うん、そんなことだろうとは思った」

 正直に白状されて苦笑する。
 アークにとって大切なのは一にも二にもスノウなのだ。スノウへの気遣いで報告しそびれたら、ロウエンのことなんてすぐに忘れてしまったのだろう。

 アークがそのような性格であることは、スノウもよく分かっている。怒っても意味のないことなのだ。

「——ロウエンさん、遅くなったけど、番契約おめでとうございます」

 少し表情を改めてお祝いをすると、ロウエンはわざわざ立ち上がり頭を下げた。

「お祝いありがとうございます。……マルモの体調も随分と良くなりました。王子様方も連れて、またお茶会をしましょう」
「もちろん! 体調が良くなったのは嬉しいね。今度、お祝いを贈るね」

 アークは絶対にそのような手配はしてないだろうと察して、ルイスに目配せしておく。力強い頷きが返ってきたので、今日中に贈り物を選ぶためのカタログを用意してもらえるだろう。

「……お気遣いなく」

 ロウエンの照れくさそうな表情に、幸福感が滲んでいる。
 それを見て、二人が上手くいっていることを理解して、スノウも幸せな気分になった。

 お祝いを張り切って選ぼうと、内心でルンルンとする。マルモも喜んでもらえたらいいな、とにこにこと笑った。

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。リクエストのお話はRequestにまとめて移動しました! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル 『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びにくる舞踏会編をはじめました! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、お気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話が『ずっと、だいすきです』完結済みです。 ジゼが生まれるお話です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞で奨励賞をいただきました。 応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました!

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku
BL
 猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。  竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。  猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。  どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。  勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。