207 / 251
続×3.雪豹くんとにぎやかな家族
4-10.密やかな愛
しおりを挟む
アークの欲に火がついてしまったのか、キスは段々と深まっていた。
唇を食まれたかと思うと、熱い舌に嬲られる。歯列を割った舌はスノウの舌を絡め取り、じゅ、と吸われた。粘膜が擦り合う感覚が心地よい。けれど、同時に堪えがたいほどの甘い刺激が生まれて、スノウは甘く喘いだ。
「んっ、ぁ……はぅ」
「スノウ、もう少し……」
顔を逸らしても追いかけられて、また食べられる。舌先で上顎を擽られて、スノウの身体が勝手にビクッと震えた。もぞもぞと腰が動いてしまう。
最近は卵に思いを傾けていて、随分とご無沙汰だったことを思い出した。考えてみると、アークはよく我慢したものだと思う。スノウの心を欲より優先してくれたのだろう。
優しい。そう思うと同時に、スノウは『どうしようかなぁ』と悩んでしまう。
気持ちいいのは確かで、アークの愛に応えるのも嫌ではないのだけれど、たぶんそれは今じゃないと思うのだ。
ちらりと向けた視線の先で、一つになった卵がカリカリと音を立てている。スノウたちが何をしているかなんて知らないまま、世界に生まれ出ようと子どもが頑張っているのだ。
(親なら、その努力にちゃんと向き合うべきだよね)
そう思ったスノウは、唇が一瞬離れた隙を感じ取り、手でアークの口元を塞いだ。
「ふ、ぅ……アーク、今日は、ここまで」
呼吸を整えながらアークを見つめる。
不満そうに眇められた目でも、それがアークのものならば怖くない。その目に滲んでいるのは、スノウへの愛情なのだから。
手の平をちゅう、と吸われる感触があった。くすぐったい。
スノウは思わず目を丸くして、アークをきょとんと見つめ返した。ちゅ、ちゅ、と手の平にキスされ続けて、思わずふふっと笑ってしまう。なんだかとても甘えられている気がした。
「スノウ」
「これ以上はだーめ。パパでしょ。もうちょっと我慢して」
「俺はもう随分と我慢したと思うが」
「うん、それはありがとう。嬉しいよ。だから、あと少し」
「……あと少しが長そうだな」
手を外されたけれど、アークが再び欲をぶつけてくるような気配はなかった。仕方なさそうに肩をすくめ、スノウの隣で寛いでいる。
スノウがその肩に頭を乗せると、アークの指先が優しく髪を梳いてくれた。時折耳をくすぐるという悪戯をされるけれど、そのくらいは許してあげよう。
「ルミシャンスが生まれるのはもう少し掛かりそうだな」
「そうだねぇ。楽しみ。きっとふわっふわだよ!」
「確かにそれは楽しみかもしれない。なんなら、スノウが獣型になって、親子揃って雪豹の姿で寝そべってくれてもいいぞ。癒やされる気がする」
「いいね! 毛繕いしてあげないといけないし」
アークの提案にうんうん、と頷く。
スノウは生まれたての頃の記憶がないけれど、すぐに母のぬくもりを感じた気がする。ルミシャンスにも、同じように愛情を注ぎたい。
早速、とばかりに獣型になろうとしたら、アークに腰を抱かれて止められてしまった。ついでに膝上に横抱きされて、スノウは目を丸くする。
「今はまだ早いだろう」
「そう? アークが言うなら、まだこのままでいるけど……僕はどうしてここに座らされてるの?」
ここだと自分でお茶を飲むのも難しい、と思っていたら、アークが口元までティーカップを運んでくれた。ありがたく一口飲むと、今度はお茶請けに用意されていたクッキーを差し出される。
「——……給餌?」
「愛情表現だ。スノウはもう一つの愛情表現を今は受け取ってくれないようだから」
アークが飄々とした雰囲気で答える。その目は楽しそうに細められていた。欲を発散する代わりに、スノウを可愛がる方へと思いを傾けたらしい。
それでアークが満足するならば、とスノウは受け入れる。アークからの愛を感じるのは、スノウにとっても幸せなことなのだ。
パクッとクッキーを食べながら、卵を眺める。時折、お茶を挟みつつ、アークから差し出されるものをひたすら受け入れ続けた。
少しだけ、『この調子だと、僕、太っちゃわないかな?』という悩みが頭をよぎったけれど、気づかなかったふりをした。
もしスノウが丸くなったとしてもアークは変わらず愛してくれるだろう。そうなる前になんとかするけれど。
「ルミシャンス、早く生まれておいで」
「スノウ、たまには俺を見てくれ」
「見てる見てる」
「適当に聞き流してないか?」
拗ねるアークの言葉を聞いて、スノウはふふっと笑った。ちらりと視線を向けて、唇に軽くキスをする。
「アークの言葉を聞き流すはずないでしょ。今はおとなしくルミシャンスの頑張りを見守って」
「……仕方ない」
今度はアークの方から軽くキスされて、離れる。
アークに身を預けながら卵を見守る時間は、幸せに溢れているように感じられて頬が緩んだ。
唇を食まれたかと思うと、熱い舌に嬲られる。歯列を割った舌はスノウの舌を絡め取り、じゅ、と吸われた。粘膜が擦り合う感覚が心地よい。けれど、同時に堪えがたいほどの甘い刺激が生まれて、スノウは甘く喘いだ。
「んっ、ぁ……はぅ」
「スノウ、もう少し……」
顔を逸らしても追いかけられて、また食べられる。舌先で上顎を擽られて、スノウの身体が勝手にビクッと震えた。もぞもぞと腰が動いてしまう。
最近は卵に思いを傾けていて、随分とご無沙汰だったことを思い出した。考えてみると、アークはよく我慢したものだと思う。スノウの心を欲より優先してくれたのだろう。
優しい。そう思うと同時に、スノウは『どうしようかなぁ』と悩んでしまう。
気持ちいいのは確かで、アークの愛に応えるのも嫌ではないのだけれど、たぶんそれは今じゃないと思うのだ。
ちらりと向けた視線の先で、一つになった卵がカリカリと音を立てている。スノウたちが何をしているかなんて知らないまま、世界に生まれ出ようと子どもが頑張っているのだ。
(親なら、その努力にちゃんと向き合うべきだよね)
そう思ったスノウは、唇が一瞬離れた隙を感じ取り、手でアークの口元を塞いだ。
「ふ、ぅ……アーク、今日は、ここまで」
呼吸を整えながらアークを見つめる。
不満そうに眇められた目でも、それがアークのものならば怖くない。その目に滲んでいるのは、スノウへの愛情なのだから。
手の平をちゅう、と吸われる感触があった。くすぐったい。
スノウは思わず目を丸くして、アークをきょとんと見つめ返した。ちゅ、ちゅ、と手の平にキスされ続けて、思わずふふっと笑ってしまう。なんだかとても甘えられている気がした。
「スノウ」
「これ以上はだーめ。パパでしょ。もうちょっと我慢して」
「俺はもう随分と我慢したと思うが」
「うん、それはありがとう。嬉しいよ。だから、あと少し」
「……あと少しが長そうだな」
手を外されたけれど、アークが再び欲をぶつけてくるような気配はなかった。仕方なさそうに肩をすくめ、スノウの隣で寛いでいる。
スノウがその肩に頭を乗せると、アークの指先が優しく髪を梳いてくれた。時折耳をくすぐるという悪戯をされるけれど、そのくらいは許してあげよう。
「ルミシャンスが生まれるのはもう少し掛かりそうだな」
「そうだねぇ。楽しみ。きっとふわっふわだよ!」
「確かにそれは楽しみかもしれない。なんなら、スノウが獣型になって、親子揃って雪豹の姿で寝そべってくれてもいいぞ。癒やされる気がする」
「いいね! 毛繕いしてあげないといけないし」
アークの提案にうんうん、と頷く。
スノウは生まれたての頃の記憶がないけれど、すぐに母のぬくもりを感じた気がする。ルミシャンスにも、同じように愛情を注ぎたい。
早速、とばかりに獣型になろうとしたら、アークに腰を抱かれて止められてしまった。ついでに膝上に横抱きされて、スノウは目を丸くする。
「今はまだ早いだろう」
「そう? アークが言うなら、まだこのままでいるけど……僕はどうしてここに座らされてるの?」
ここだと自分でお茶を飲むのも難しい、と思っていたら、アークが口元までティーカップを運んでくれた。ありがたく一口飲むと、今度はお茶請けに用意されていたクッキーを差し出される。
「——……給餌?」
「愛情表現だ。スノウはもう一つの愛情表現を今は受け取ってくれないようだから」
アークが飄々とした雰囲気で答える。その目は楽しそうに細められていた。欲を発散する代わりに、スノウを可愛がる方へと思いを傾けたらしい。
それでアークが満足するならば、とスノウは受け入れる。アークからの愛を感じるのは、スノウにとっても幸せなことなのだ。
パクッとクッキーを食べながら、卵を眺める。時折、お茶を挟みつつ、アークから差し出されるものをひたすら受け入れ続けた。
少しだけ、『この調子だと、僕、太っちゃわないかな?』という悩みが頭をよぎったけれど、気づかなかったふりをした。
もしスノウが丸くなったとしてもアークは変わらず愛してくれるだろう。そうなる前になんとかするけれど。
「ルミシャンス、早く生まれておいで」
「スノウ、たまには俺を見てくれ」
「見てる見てる」
「適当に聞き流してないか?」
拗ねるアークの言葉を聞いて、スノウはふふっと笑った。ちらりと視線を向けて、唇に軽くキスをする。
「アークの言葉を聞き流すはずないでしょ。今はおとなしくルミシャンスの頑張りを見守って」
「……仕方ない」
今度はアークの方から軽くキスされて、離れる。
アークに身を預けながら卵を見守る時間は、幸せに溢れているように感じられて頬が緩んだ。
65
お気に入りに追加
3,180
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい
白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。
村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。
攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。
はちのす
BL
異世界転移に巻き込まれた憐れな俺。
騎士団や勇者に見つからないよう、村人Aとしてスローライフを謳歌してやるんだからな!!
***********
異世界からの転移者を血眼になって探す人達と、ヒラリヒラリと躱す村人A(俺)の日常。
イケメン(複数)×平凡?
全年齢対象、すごく健全
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる