雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-10.密やかな愛

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 アークの欲に火がついてしまったのか、キスは段々と深まっていた。
 唇を食まれたかと思うと、熱い舌に嬲られる。歯列を割った舌はスノウの舌を絡め取り、じゅ、と吸われた。粘膜が擦り合う感覚が心地よい。けれど、同時に堪えがたいほどの甘い刺激が生まれて、スノウは甘く喘いだ。

「んっ、ぁ……はぅ」
「スノウ、もう少し……」

 顔を逸らしても追いかけられて、また食べられる。舌先で上顎を擽られて、スノウの身体が勝手にビクッと震えた。もぞもぞと腰が動いてしまう。

 最近は卵に思いを傾けていて、随分とご無沙汰だったことを思い出した。考えてみると、アークはよく我慢したものだと思う。スノウの心を欲より優先してくれたのだろう。

 優しい。そう思うと同時に、スノウは『どうしようかなぁ』と悩んでしまう。
 気持ちいいのは確かで、アークの愛に応えるのも嫌ではないのだけれど、たぶんそれは今じゃないと思うのだ。

 ちらりと向けた視線の先で、一つになった卵がカリカリと音を立てている。スノウたちが何をしているかなんて知らないまま、世界に生まれ出ようと子どもが頑張っているのだ。

(親なら、その努力にちゃんと向き合うべきだよね)

 そう思ったスノウは、唇が一瞬離れた隙を感じ取り、手でアークの口元を塞いだ。

「ふ、ぅ……アーク、今日は、ここまで」

 呼吸を整えながらアークを見つめる。
 不満そうに眇められた目でも、それがアークのものならば怖くない。その目に滲んでいるのは、スノウへの愛情なのだから。

 手の平をちゅう、と吸われる感触があった。くすぐったい。
 スノウは思わず目を丸くして、アークをきょとんと見つめ返した。ちゅ、ちゅ、と手の平にキスされ続けて、思わずふふっと笑ってしまう。なんだかとても甘えられている気がした。

「スノウ」
「これ以上はだーめ。パパでしょ。もうちょっと我慢して」
「俺はもう随分と我慢したと思うが」
「うん、それはありがとう。嬉しいよ。だから、あと少し」
「……あと少しが長そうだな」

 手を外されたけれど、アークが再び欲をぶつけてくるような気配はなかった。仕方なさそうに肩をすくめ、スノウの隣で寛いでいる。

 スノウがその肩に頭を乗せると、アークの指先が優しく髪を梳いてくれた。時折耳をくすぐるという悪戯をされるけれど、そのくらいは許してあげよう。

「ルミシャンスが生まれるのはもう少し掛かりそうだな」
「そうだねぇ。楽しみ。きっとふわっふわだよ!」
「確かにそれは楽しみかもしれない。なんなら、スノウが獣型になって、親子揃って雪豹の姿で寝そべってくれてもいいぞ。癒やされる気がする」
「いいね! 毛繕いしてあげないといけないし」

 アークの提案にうんうん、と頷く。
 スノウは生まれたての頃の記憶がないけれど、すぐに母のぬくもりを感じた気がする。ルミシャンスにも、同じように愛情を注ぎたい。

 早速、とばかりに獣型になろうとしたら、アークに腰を抱かれて止められてしまった。ついでに膝上に横抱きされて、スノウは目を丸くする。

「今はまだ早いだろう」
「そう? アークが言うなら、まだこのままでいるけど……僕はどうしてここに座らされてるの?」

 ここだと自分でお茶を飲むのも難しい、と思っていたら、アークが口元までティーカップを運んでくれた。ありがたく一口飲むと、今度はお茶請けに用意されていたクッキーを差し出される。

「——……給餌?」
「愛情表現だ。スノウはもう一つの愛情表現を今は受け取ってくれないようだから」

 アークが飄々とした雰囲気で答える。その目は楽しそうに細められていた。欲を発散する代わりに、スノウを可愛がる方へと思いを傾けたらしい。

 それでアークが満足するならば、とスノウは受け入れる。アークからの愛を感じるのは、スノウにとっても幸せなことなのだ。

 パクッとクッキーを食べながら、卵を眺める。時折、お茶を挟みつつ、アークから差し出されるものをひたすら受け入れ続けた。

 少しだけ、『この調子だと、僕、太っちゃわないかな?』という悩みが頭をよぎったけれど、気づかなかったふりをした。
 もしスノウが丸くなったとしてもアークは変わらず愛してくれるだろう。そうなる前になんとかするけれど。

「ルミシャンス、早く生まれておいで」
「スノウ、たまには俺を見てくれ」
「見てる見てる」
「適当に聞き流してないか?」

 拗ねるアークの言葉を聞いて、スノウはふふっと笑った。ちらりと視線を向けて、唇に軽くキスをする。

「アークの言葉を聞き流すはずないでしょ。今はおとなしくルミシャンスの頑張りを見守って」
「……仕方ない」

 今度はアークの方から軽くキスされて、離れる。
 アークに身を預けながら卵を見守る時間は、幸せに溢れているように感じられて頬が緩んだ。

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